GPS最高裁判決は誰でも取れたのか?
最判平成29年3月15日判決は,GPSを用いた捜査について,違法捜査であると認定した判決でした。この判決の弁護活動について,川村真文弁護士はこんなことを書いていました。最後に、GPS捜査についての最高裁の判断は、弁護人が誰であろうと変わらなかったはず。事実認定は個別であり、個々の事案での主張・立証で決まるが、GPS捜査という波及効果の高い法律問題については、最高裁の立場は弁護人の主張に関係なく決まっていたはずです。12:49 - 2018年10月1日弁護士でも、弁護人次第で最高裁がGPS捜査についての判断が変わった(例えば、GPS捜査が任意処分と評価された)と思う人が少なくないってことか。そういう意見の人がいてもいいけど、私はそうは思わないだけ。その判断について評価されるのは最高裁だしね。いろいろな意見があってかまわない。14:24 - 2018年10月1日 更にこれに伴い,被告人に不利益を与えたのではないか,とまで指摘し,ついに担当していた亀石倫子弁護士の逆鱗に触れていました。 川村弁護士個人としてはこの判決そのものは評価していないようですが,それは各人の見解であろうと思います。 被告人の不利益云々に関してはこの記事では脇に置くとしましょう(なお,この点についても川村弁護士の言動は支持していないことを付言します)。 それでも,刑事弁護をやっている弁護士なら,「誰がやっても取れる判決」というのは,本気で言ってるのかな?というのが真面目な所感です。 こちらは高裁管区ではないので刑事上訴審などやったことすらありませんが,それでも,この感覚は多くの弁護士が同調する所であろうと思います(twitter上を一通り眺めてみましたが、そのように受け取りました) 裁判所が弁護人が見落としてしまった争点を拾い,被告人に有利に判決を出してくれる…そんな裁判所だったらいいな,とは確かに思います。 亀石弁護士も,今回の判決が「誰にでも取れる」とされた場合,自分の功績を誇ることはできなくなるかもしれませんが,他方で誰でも取れるような裁判所ならどんなにかいいだろう,という思いなのではないでしょうか。 あるいは,日本の弁護士全員亀石弁護士ら弁護団並の活動ができるので「誰がやっても同じ」という趣旨であったとしても,亀石弁護士はおそらく喜んだのではないでしょうか。(推測に過ぎません。もし違っていたら直ちに撤回いたします,遠慮なくご指摘ください) しかしながら,川村弁護士の主張はそうではなく,裁判所に対しての無邪気な信頼が大前提であるように見えます。 もしそんなに裁判所がこちらに有利な解釈を拾ってくれる世界なら、あるいは弁護団並みの活動を日本の弁護人全員ができるなら最高裁までガチンコで争って有罪になり、ようやく再審無罪になる件など存在しなくなるはずです(一例として、大阪地判平成27年10月16日判決、最高裁まで争って有罪になったが,自称被害者の偽証が後日明らかになり再審無罪)。 中には,争点にして弁護人が必死に判例を並べ,検察官も法解釈で判例を引っ張り出して応戦してきてすら、判決文では検察官も論告で主張していない事実を引っ張り出してきて有罪にしたりする裁判官もいるような世界です。 ましてや最高裁ともなれば,上訴審がないわけですからスルーに歯止めをかける存在すらいません。あるとしても最高裁判所裁判官の国民審査というものすごく迂遠な監督しかありえません。 弁護人をやっていれば主張をぶっ潰される覚悟はしていても,スルーまでされるのが当然の世界なのです。 こんな裁判の世界で「弁護人が少なくともその任務に違反しないレベルの弁護活動をしていれば裁判所が聞いてくれただろう」と考えるのは、私から見れば裁判所に対する甘えでしかないと思うのです。 もっとも,事件によってはなぜか裁判所からすっと手が伸び,弁護人の取りに行った判決からも斜め上に有利な判決が「取れちゃった」という件が存するという話は耳にしたことがあります。 証拠関係からしてどうにもならない状態であったり,筋を読み違えてしまったりとかでそんな「裁判所が甘やかしてくれちゃった」に一縷の望みを託さざるを得ないような事件もあり得るでしょう。 裁判所はどうせ聞いてくれないと拗ねていても仕方ありませんから,ある程度は裁判所の「聞く耳」…悪く言えば甘えの一種かもしれませんが,それを前提に弁護活動をするしかないこともまた事実です。 それでも,GPS捜査という波及効果の高い法律問題については、最高裁の立場は弁護人の主張に関係なく決まっていたというのは,私から見れば「裁判所が何とかしてくれる」という甘えに思えます。 そんな訳なので,私は自分が下級審で有罪になり,上訴審で弁護を必要とするときになったら,川村弁護士にはお願いしたくない,というのが偽らざる所感です。