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碁法の谷の庵にて

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2006年02月14日
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 昨日、ホリエモンが起訴されたのだが、某刑事法学者(元検事)がテレビで言うには、「否認しているから保釈はされないだろう」。
 学者と言う肩書きをつけてこういう予想をテレビで語るのはどうもね・・・と思うのだが、実務の運用でそういうのが多いのは事実。

 日本では、逮捕・勾留・取調べで自白を取ることが多い
 しかし、被疑者であれ被告人であれ、黙秘権は保障されている。黙秘権は保障されているのに自白が欲しいという矛盾した状況から、厄介な問題が発生する。何とか向こうに黙秘権を行使させずに自白を採りたい。
 そこで、自白せず否認なり黙秘なりをする人間は逮捕期間が長引いたり、取調べを長くやったり、保釈を認めなかったり、弁護士との接見が制限されたり、量刑が重くなったりということで身柄拘束が長くなることが多い。こういう風に、自白しないと色々な不利益をこうむるような日本の捜査や裁判の体制を、一部の弁護士たちは黙秘権の行使を身柄拘束で脅して制限するような人質司法」と呼んで厳しく批判している。

 この考え方自体は一つ重要な批判である。捜査関係者がサイレントキルを決め込むことは出来ないだろう。

 ただ、検察官とかの立場からの言い分をあまり見ないので、今日はあえて検察官の立場から色々しゃべって見ましょう。こういう解説の文章は意外と貴重かもしれない。弁護士とかの立場からは本とかで色々手に入れやすいから。



 まず、当たり前だが、警察官や検察官の立場は当然必要な物だ。彼らが奮闘しなければ世の中の悪党はのうのうと生きていくことになる。犯人をとっ捕まえて刑事法廷で追及するのは当然必要だし、そのための権限も当然に与えてある。

 だが、今の日本では、捜査での逮捕勾留は23日間のみ許されている。逮捕される方からしてみれば、そんなの長すぎるよ!会社クビじゃないか!と思われるかもしれないが、捜査する方としてはこれでは短いのが本音だ、という。
 なぜなら、日本の刑罰法規は、なかなかどうして細かくできている。故意と過失の違いが細かく見られるどころか、「○○の目的で」行ってはじめて犯罪になるということも少なくない。(例・背任罪
 しかし、目的と言うのはどうやったら認定できるだろうか?本人が自白してくれればよいが、自白してくれないと外側に現れた状況しか頼りがない。特に今回のホリエモンの容疑のように密室でされたとされる共謀犯罪は厄介、と言うよりほとんど証拠不十分になる可能性が高い。

 フランスは日本と裁判の構造が全く違う。そういう国では予審判事がかなりの権限を握っていて事実上無制限に捕まえておけるという。捜査段階からプロがきつく監督するわけで、いつまでも捕まえておけるというのもだからこそなせる業である。
 これはこれで一つの考え方かもしれないが、それをやれば裁判官が捜査を担当するので、「こいつが犯人じゃないか・・・」と言う予断や偏見のもとに裁判をすることになり、不公平な裁判の源になる。
 戦後になってアメリカ流刑事裁判を導入した日本はそういうやり方は認めなかった。裁判官は公平な立場から裁判だけしておいて、事情に応じて捜査に許可を出すだけと言うのが大原則。捜査は基本的に警察・検察がするものとされた。

 しかし23日間だけではどうだろうか。23日で起訴せず、あるいは保釈して身柄を解放すれば彼らは逃げ放題、証拠隠滅し放題(保釈も逃げたり証拠隠滅のおそれがないことが条件ではあるけど・・・)である。犯人自身は証拠を隠滅しても、逃げても何の罪にもならない。(無反省だとして量刑が重くなることはあるけど)
 つまり、23日の間に調べて、起訴までもって行かなければならないし、その前になんとしても自白を取りたい(起訴したらもう取調べられない)のだ。

 さらに、ドラマでは、時効前日に逮捕!なんていうのがあるが、実際には逮捕してから起訴までにはそれだけで何日もかかる
 こうした例にも分かるとおり、捜査は手間がかかる。殺人や傷害のような単純な犯罪ならともかく、密室の専門的な犯罪(それこそホリエモンの事件とか)についてはどうしても長く取調べ、身柄を拘束しておく必要が出る。アメリカでは60日可能だというし、ドイツの検察官が日本の検事に「23日でどうやって捜査できるんですか?」と聞いたこともあるという。

 もちろん警察・検察の方でも、捜査技術を高めるのはもちろん、任意同行を使うとか、余罪取調べを使うとか、色々な手練手管でなんとかしようとしてきた。取調べの技術などは相当なようで、こうした熱意は諸外国も評価しているらしい。
 しかし、任意同行や余罪取調と言った手法は、現行法の建前にあわないということで問題視されているのが実態なのである。

 このような状態で、自白をしないから逮捕します、身柄拘束期間を延ばしますというのを一切否定するとどうなるだろうか?
 それだけでなく、取調べに弁護人を立ち合わせたり、取調べを撮影したりして被疑者が自白してくれなくなったら?(そうやって自白してくれなくなるかは論争されてるけど)

 もう捜査なんかできっかい!ということになる。確かに日本ではつかまる前に自首したり、捜査で自白をする犯人は多いが、自白をしなければ罪を逃れられるというような状態になったらどうなるか。もはや重大で自白もしないというような反省のない犯罪者には白旗をあげろということになる。

 他にも、アメリカのように「証言しろ、その証言は犯罪の証拠にしないから」と言うような制度(法律で導入することは可能とされるが、導入が論争される気配もない)や「この罪を認めれば他は見逃してやる」と言うような制度もない。
 アメリカでは、この罪で5年、あの罪で5年、足して10年というような単純計算で懲役五百年と言うような罰も出せるので、犯人側もおとなしくそういうのに応じてくれる。(もっともその分争うと大変なことになるから無実でも認める人が出てくる危険も高いんだけど)
 他に、おとり捜査のやり方にも制限がある。アメリカだとおとりの盗品用質屋を開いて一網打尽とかやるけど、日本ではそこまではやりにくいようだ。
 その上日本の検察は疑わしいから起訴するという運用はしていない。証拠ががっちり固まらないと起訴しない


 検察官や警察官も、そういう意味では本当に四苦八苦しているのである。
 もちろん、各制度にはそれなりの理由があるが、更にこの上捜査しにくい状況を作られた日には・・・と言うのは彼らにとって深刻な問題のようだ。



 司法試験とかで刑事訴訟法の勉強をしていると、どうしても警察官や検察官の悪口が多くなるような気がする。警官になった私の先輩とかに「司法試験の刑事訴訟法なんて警察官の悪口コンテストみたいなもんで・・・」と言ったこともある。
 でも、当然ながら検察と弁護の関係の中で事件は判断されるもの。
 そんなことも分かっているから、検察官と弁護士は犬猿の仲と言うわけでもない。本音はどうか知らないけど、少なくとも建前論でお互いの仕事に敬意を払っている。去年検察庁見学の際に弁護活動について聞いたときも、担当の検察官は弁護士にはしっかり敬意を払っていたと思う。

 元々刑事訴訟法と言うのは、「真実発見・刑罰法規適用」を、「人権保障」を全うしつつしようとしたものだ。(刑訴法1条
 真実発見・刑罰法規適用をしようとすると、自動的に人権保障の見地は忘れ去られがちになる。だから、人権保障の見地がそれなりに重視されるのはまあ仕方ないといえば仕方ない。それでパワーバランスが保たれるともいえる
 しかし、現実に重要な職務を負っている検察官も困っているのは事実。もちろんそれを認識した上でそれでも取調べを撮影しましょう、人質司法をなんとかしましょうというのはありだと思うが、こうした現状にも注意を払って話をすることが重要というわけだ。









なんかごちゃごちゃしてひどく読みにくい文章になった。すまん。





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最終更新日  2006年02月14日 13時36分28秒
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