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碁法の谷の庵にて

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2007年09月10日
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カテゴリ:カテゴリ未分類
 ここをはじめ、橋下氏のスタンスに批判的なブログのいくつかに、このような質問が飛んできていました。同じ人からのものだろうと考えています。既に答えてありますが、大きく書いて見ましょう。

 それは、橋下氏をテレビという土俵で戦って潰してはどうか、という見解です。
 実際問題、橋下氏は今日のたかじんのそこまで言って委員会で出てこないことにいらだっていたらしいですし。



 だが、テレビという土俵で戦うということは、審判を国民全体に求めるということになります。
 さて、それで事態が解決するだろうか。どうもそうは思えないのです。
 
 刑事弁護には、その後ろにさまざまなルールがあります。
 
 憲法31条で保障された「適正手続なくして刑罰なし」。
 日弁連の弁護士倫理や弁護士法・刑法に定められた「守秘義務」。
 刑事裁判の大原則たる「疑わしきは被告人の利益に」。
 違う犯罪での処罰を許さない「罪刑法定主義」。(つまり、傷害致死を殺人で裁くのは禁止)
 憲法で保障された「弁護人依頼権」と、それに対応して導かれる「弁護に関する誠実義務」。
 日本の裁判の基本骨格というべき「当事者主義的訴訟構造」。


 このどれもは、市民に知識としてはまだしも、思考回路として根付いていないことが、ブログ世界の趨勢からすれば予想されますが、それでは審判はつとまりません。ルールが根本的に違うのです。

 例えば、論争の中で被告人に不利益なことだから守秘をしようということになっても、多くの人は逃げたと受け取るでしょう。
 検察的な主張に苦しいことを言えば、どちらが説得力があるかで判断されてしまう可能性が高いのです。橋下氏は、何を血迷ったのかブログでこの主張は苦しいだろと突っ込んだことを書いていますが、苦しい理屈に突っ込まれるというのと弁護人の職責には、何の関係もありません。もっと優れた理屈があるのに苦しい理屈しか出さなかったというのなら別ですが。
 こういうことを考えるのは裁判官が、被告人の罪刑責を決めるときに考えることでしょう。弁護人のそれを非難するために使うものじゃありません。苦しい主張だな、何で言ったんだ?と詰め寄られたら、弁護団はなんといえばいいのでしょう?立場上いうしかないから・・・なんて、いえないんですよ。
 検察官や裁判官は、立場は違えど弁護のルールもよく分かっています。だから、弁護人が荒唐無稽な主張をしていると思っても、弁護人攻撃に走ることはありません。同情しているとさえ言われますし、被告人が否認しているのに犯行を認めた弁護人に検察官がお前は何をやっているんだと噛み付いた例もありました。


 しかも、テレビの前の彼らは具体的な証拠の中身を見てはいません。これは致命的です。

 比較的薄い刑事事件の記録だって、けっこうな量です。また、それらはただ読めばいいのではなく、内容をつかみながら批判的に読んでいかなければなりません。私でさえ、記録を読みながらあれっと思って前の記録に立ち戻るということは何度かありました。使い物になる弁論をやっていこうと思ったら、私程度の読みはごみ同然。安田好弘弁護士はこれを同業者が音を上げるほど丹念に読み込んでいくといいます。検察系実務家にも支持者が出るはずです。
 今回の場合は家裁の記録に始まって一審・二審・最高裁と読むのに必要な記録は1万頁、写真で800枚にも及ぶといいます(年報死刑廃止2006、「光市裁判」)。最高裁→差戻審でさらに読むべき記録は増えていることも予想されます。漫画を1万頁読むのだって一苦労でしょう(単行本で1万頁なら50巻以上でしょうが、そんなに続いた漫画はそうそうありません)。しかも、漫画と違って全てにストーリーがはっきりしているわけじゃないのです。下級審・最高裁・差戻審の判決文や公判調書。証拠カードや証拠の大群、捜査段階、家裁段階での供述調書に書いた記録、個々の弁護士が書いた覚書のようなものなどなど、答えがどこにあるか書いてあるわけでもなく、そもそも答えがあるという保証さえなく、読んでいくのです。
 さらに理屈を立てるためには被告人の主張を裏付けるための諸証拠・立論が必要です。殺意がなかったというならそれを裏付ける法医鑑定は?傷害致死にならなかった場合でも事実認定に変化があった場合に備え、死刑が不当であるというべくこれまでの死刑事件などをがっちり調べ、分析して被告人に有利に作らなければなりません。

 裁判官は証拠として出されれば1万ページ読みます。検察官はもっと(?)読んでいます。

 では、テレビや新聞の前の皆さんはこれを読むでしょうか。これを全部媒体にしようと思ったらすさまじい量の紙が必要ですし、それを読むのにはすさまじい手間隙がかかりますし、事件を把握するためには各人なりに纏めなおす作業も必要です。年次有給を何日取ればよいものやら。
 テレビや新聞がそんなことをさせてくれるわけがないのです。守秘義務で問題になる点だって出てくるでしょう。


 結局、長期的に司法教育を受けた上でないと、分からないのは避けられないのです。
 例えば、「開運なんでも鑑定団」に出てくる鑑定士と同じだと考えると分かりやすいでしょう。その分野の教育を受けた人には分かる価値も、一般の感覚ではどうにも価値が分かりません。だから彼らに鑑定を依頼するのです。
 そして、今の制度はその一般の感覚では分かりにくい価値に力をおいているのです。制度論争をしたいというのならともかく、個別の弁護団の活動の当否の論争には成り立ちません。橋下氏は、制度論争をしたいのではないでしょう。

 もっとも前向きで抜本的なのは市民の法教育をきちんとして、基本的な思考回路を作ることなのですが・・・。
 義務教育や高校レベルでそこまで求めるのは教育現場的に無理でしょう。主要六法のうち、憲法のイロハと民法の相続、消費者系の法律くらいは公民や家庭科で教わるにしても、その他はフリーパス。
 また、教育現場以外ではどうでしょうか。
大の大人を法教育のためだけに拘束するわけにもいきません。法教育に限らず、市民が受けておいたほうがいい教育は少なくありません。日弁連その他がダイレクトメールを送ったところで読まずに捨てられるでしょうし、新聞に特集を組んだところで読んでくれる人はわずかです。唯一使えそうなのがテレビその他なのですがそのテレビに出てくる弁護士はというとあの体たらく。というか、あの体たらくでないとテレビでは使ってもらえないんでしょうけど。

 それでも、「人情派」と名高い(まあそれはテレビ用なんだろうけど)丸山和也弁護士のほうから苦言が呈されたにもかかわらず、やっぱり丸山弁護士もかまれる始末。弁護士一人や二人が応戦に出たところでどうにもならないか。北村弁護士で一発逆転・・・はちょっと予想が甘すぎたようです。

 本当に刑事弁護を理解してもらうにはどうしたらよいのでしょうか?理解してもらえないとあきらめて制度改革がなされるまでの間小さい思いをしなければならないのでしょうか?











 ちなみに、橋下氏は自分では懲戒請求をしていなかったようです。以前ここで、「やってないとすれば風上にも置けないのでやったと信じる」と好意的に解釈したのに、ひどい裏切りです。もしかしたら彼が素晴らしい懲戒請求の理屈を作っているかもなどと密かに期待していたのですが。先日の放送では最高裁判例もほとんど触れてないというし、がっかりです。
 まあ、彼の素行や何かを批判しても仕方がないので、この辺にとどめますが。

 また、橋下氏から署名活動をやってほしいという話が出ているようですが、8年ほど前、カレー事件で黙秘をやめるように遺族が求めた署名活動を受けて法学セミナーには、「署名運動がされても中身は真剣に読まない、署名は主張を誰が支持しているかを表すものに過ぎない」という判事補の匿名投稿(みな匿名で書くコーナーだけど)があったことを付言しておきます。その判事補と今度の担当裁判官が同じ発想なのか違う発想なのかは保障しませんが、この判事補の発想は私に近いのは間違いありません。
 











 最後に超重要事項。

 被告人弁護団の一人であり、橋下氏に対し民事訴訟を提起した一人でもある今枝仁弁護士が、ネットでの広報的な活動に乗り出し、コメントを記載するようになりました。超初級革命口座を皮切りに、弁護士のため息元検弁護士のつぶやきなど。
 これは絶対に読むべきです。弁護団批判をするのにこれを読まないというのは、聖書を読まずキリスト教を語るようなものでしょう。
 ネットで出回った「弁護団の素晴らしき主張」は既にwikipediaでさえ誤りが指摘されている状態。罪のない2名が死亡した事件を論じる最低限度の姿勢として、そんなものをブログに貼り付けた人は削除すべきです。

 また、以前ここの記事を紹介していただき、情報集積地の様相を呈している「弁護士のため息」にこの記事はTBさせていただきました。





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最終更新日  2007年09月10日 15時02分55秒
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