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碁法の谷の庵にて

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2008年04月20日
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 明後日は、光市母子殺害事件・差戻控訴審の判決言渡しです。言渡し前だからこそ言えること、判決が出た後に語っても言い訳がましくなってしまうことなどを今のうちに洗いざらい語ってしまおうか、と考えています。この記事は、少なくとも判決以降に追記することはありません。ある種のアリバイとしても使うつもりです。

 けっこうたくさんありますので、その一部を今日は記載します。明日公開する予定の文章もほぼ出来上がっています。「一連の文章」としてお読みください。



 今日は、本村洋氏に関することです。

 昔、本村氏が無期懲役の判決に不服のあまり「自分で殺す」と言っていたころ、当時私は高校生くらいだったと思いますが、ちょっといくらなんでも荒っぽすぎる、ということを感じていました。バッシングを肯定するつもりは毛頭ありませんが、燃料にはなるだろうな、とは今なお思う訳です。
 今だって、個別の発言を取り上げて、批判していけばそれは違うんじゃないか?と思う点もいくつかあります。そういう点の批判から文章を書いたことだってあります。



 ただ、それでも私は本村氏に対して高く評価をしていると言うことは、知っておいてもらいたいと思います。
 私は、直接会った事があるわけでもないので本村氏の知識量がどれほどのものかは知りません。並みの検察官よりしっかりしている、というような検察官(院の私の師匠の一人)の話も聞いたことがありますが、法的知識・論理力の話なのか心構えの話なのかは分かりません。個人的にはたぶん後者なのだと思いますが。



 本村氏に対する高い評価の原因、それは「自分が遺族であるということばかりを振り回さない」ということにあると思われます。
 もちろん本村氏が遺族であること、同時にそれが原因で現在のような被害者関連の諸問題に取り組むようになったことは、今更疑うまでもないでしょうし、それを非難するつもりは毛頭ありません。

 そして、本村氏はこの問題に取り組むために外国まで視察に行き、被害者問題に関して相当な量の勉強をしているという話を聞いています。
 この事件でだって、沸騰するネット世論と異なり、少なめに見積もっても表立っては検察vs弁護で攻防の結果裁判所が出すべきなのが判決であり、その結果として死刑が正当であるという立場を維持しているのだ、と考えられます。何を言われようとそんなの関係ないという態度には、少なくとも私には見えません。




 私は以前から、被害者問題に進展を見せるためには、少なくとも活動をする被害者自身がある程度強くならなければならない、という点を主張してきました。もちろん個々の被害者にそうあれというわけではありませんが、何とか進展をさせようとするなら、そこには厳しい道のりが待っている、ということなのです。
 もう書くのも何度目になるかわかりませんが、10年位前までは犯罪被害者というのはまさしく忘れられた存在でした。ですから、法律家や議員などの目線を被害者にとにかく向けさせれば、それだけで一定の成果を上げることができたのです。
 ところが、被害者救済の対策も、だんだんと手詰まりになってきました。意識を向けたとしても、旧来の刑事裁判の基本枠組みを動かす訳ではないですから、単なる実務的工夫として認めてもよいかな?というようなことは割とどうとでもなりますが、そこから先をなんとかするには、強固な理論武装、しかも実務にどっかりと根を下している方々を揺るがすだけのものが必要になります。
 これまで感情でも動かなかったものに対し、いくら感情圧力だけをかけてもムダだし、逆に感情しか根拠がないのか、というツッコミを覚悟しなければならなくなるということです。


 その先を求めるとなれば、感情と同時に理屈でもがっちりと武装した上で論戦をしなければなりません。被害者団体などに参加して知恵を貸している法律家や学者は数知れませんが、ちょっと新説一発で全部ひっくり返せるほど甘いものではありません。
 そして、そういう武装するに際しては、味方であるとしてもそれは通じないと言う手厳しい洗礼を浴びることだって必要になる可能性は決して小さくないのです。


 遺族だから何を言っても、まあそういう感情を抱くのはしょうがないんだろうな・・・と言うことで終ってしまっては(現実に、私自身そう思ってあげつらったりしないで流している遺族の発言は決して少なくない)、結局社会的な力にはなりません。けっこう有名な遺族の方でさえ、法制度に対する無理解が先に立ってしまっている・・・と嘆いていたのは、日弁連から厳罰化と非難された少年法改正を「推し進めた」実務家なのです。別に被害者が嫌いだから、尊重の必要がないから言っているのではなく、やっぱり全体像を理解していないと法改正の類はうまくいっていかないという意識があるのだと思っています。

 その点、遺族感情に安住するだけではなく、自ら発言権を勝ち取りにかかって相当な勉強をしている本村氏の態度は敬意を表するに値すると同時に、今後の被害者関連の諸問題においてはぜひとも必要な姿勢であると考えている訳です。彼ばかりを神格化するつもりはありませんが、彼でなかったらここまで進んだか、というのはやはり一つの問題でしょう。


 まだ施行されてはいませんが、刑事裁判の被害者参加制度ができました。旧来の裁判制度の枠組みからすれば、はっきりいって「信じられない」制度でさえありますが、導入された以上は、当然しばらくはそれに基づいた裁判がある程度は行われるはずです、
 そして、そこにおいて法廷混乱の実績が積み上げられてしまうと、せっかくの被害者参加制度が運用においてだめにされてしまうおそれがあります。裁判所には被害者参加を認める・認めないの裁量がありますから、「疑わしきは使わず」ということになってしまう恐れが出てくるわけです。
 被害者の依頼を受けた弁護士の参加も多数予想されますから、法律家たちのノウハウ蓄積も必要になってくるでしょう。というより、おそらくもうやっているのではないか、と思います。

 発言権を得るには、情だけではどうしようもない、というのが現実です。人の生命を情だけで扱ってよいという考え方ができるほど、人間は高等生物ではありません。しかし、情が理を動かすことそれ自体が必ずしもいけないことではありません。
 何百年何千年かして、人類全体として、その知性が進んで、現在の裁判制度の誤謬が発覚しているか、当時の制度としてはそれはやむを得なかったが、現在の人類がそんな制度を取る必要はない、ということにもなっているかもしれません。現在のような裁判制度なんて、300年前には考えられなかった制度ですから、今から何百年先がどうか、なんて誰も予測できないのです。
 そうなったときに、その進んでいた原因になっているのは、もしかしたら本村氏か、あるいは彼のように情と理を結び付けるべく奮闘した被害者や遺族の方かもしれません。今の刑事裁判をめぐる諸制度は根拠のあるものだと信じて私は疑っていませんが、そういうこともありえるのですから、なんか変だ、と思う各人の感情それ自体は、大切にしていてよいのではないか、と思います。


以前、あるページ(現在は消滅、私のパソコンに保存してあります)でこのような言葉を見つけました。記載日時は6年前、第一次控訴審判決のすぐ後です。


本村氏は、初期は感情発散中心だったが、だんだんと厳粛な怒りに昇華して来ているように見える。本村氏の言葉に反発できる理屈を持つ人はそうはいないだろう。しかし、本村氏は聡明な方ではあるが、周囲が自分と同じように考えてくれると期待しているような気がする。もしそうなら、周囲は事件が終ったら忘れてしまう。それは間違いだろう。

 本村氏がその内心においてどのような期待を持っているのかはわかりません。被害者救済のために発言してきたのに、死刑に関する感情だけが大きく扱われる旨言っていたという話も聞いたことがあります。報道との関わりも、本村氏は割りと考えているらしいです。

 しかし、この言葉がぴったり当てはまってしまいました、ということにならないように、その意味で事件を風化させてはならない、ということを肝に銘じる必要があるでしょう。


 被害者救済の問題は、刑罰の厳罰化や刑事裁判のテクニックの問題に限りません。一つの大切な要素であることは間違いないですが。
 民事実体法では、不法行為法における救済を待つ必要があります。時効制度などにメスを入れる必要があるかもしれません。民事訴訟においても、その立証のやり方をどのように行い、どれだけ迅速に進めるか、ということを考える必要があります。
 行政のあり方としても、犯人から取れないときのために、見舞金や補償金のあり方を考え、行政サービスの内容を考えていく必要があります。
 国民一人ひとりだって、報道を見て脊髄反射的な反応が時として何の関係もない遺族や被害者を傷つけている可能性に目を向けなければなりません。本件だけ被告人死刑を主張して遺族の味方になった気になっていてもよそでは報道鵜呑みで被害者も悪い遺族も悪いといっているようでは落第点です。
 もちろん個別に専門家になれ、ということではありません。ただ、事件が終わったから、問題点があるということも忘れてのほほんと考えていては困るよ、ということなのです。





(この話続く)





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最終更新日  2008年04月20日 14時55分57秒
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