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碁法の谷の庵にて

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2008年06月04日
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テーマ:ニュース(99457)
戦後8回目の法令違憲判決(戦前は司法に違憲審査権がない)です。判決原文へのリンクはこちらからどうぞ。


さて、判例を読んでの解説らしきものをしてみます。正直なところ、こういう解説を書くのはすごく勉強になるし、身にもつくんですよ。危険運転罪の解説をあちこちでしていたもんだからラッキー、と思ったり。

さて、戦後、法令を違憲とした例は

一、尊属殺人罪重罰規定違憲判決(最大判昭48・4・4、尊属を殺害した行為を特に重く処罰するのは憲法14条違反)
二、薬事法距離制限違憲判決(最大判昭50・4・30、薬局開設において距離制限の規定は憲法22条1項違反)
三、衆議院議員定数配分違憲判決(最大判昭51・4・14、一票の格差が1:5に及ぶ不均衡は憲法14条・44条違反)
四、衆議院議員定数配分違憲判決(最大判昭60・7・17、一票の格差が1:4.40に及ぶ不均衡は憲法14条・44条違反)
五、森林法分割制限違憲判決(最大判昭62・4・22、森林の分割の請求を認めない規定は憲法29条2項違反)
六、郵便法賠償制限違憲判決(最大判平14・9・11、郵便業務の過失による損害賠償免責規定の一部が憲法17条違反)
七、在外邦人選挙権不存在違憲判決(最大判平17・9・14、在外邦人に選挙権がないという立法不作為は憲法15条違反)

以上の7例となっています。また、法令自体は合憲でもその法令をこの件に適用したら違憲だ、という例は多数あります。

さて、国籍法に関する判決が4日に大法廷で行われるという話は知ってはいましたが、裁判所は基本的に違憲判決を出さないもんだと思っています(憲法違反とかを大展開しなければならないような裁判は半ば詰んでいる証拠に近い)から、第一印象自体は意外、とは思いましたが、理屈自体は十分に筋が通るものであると考えています。
理屈の展開を、私がある程度わかりやすく噛み砕こうと思っています。


本件における争点は2つ。その前提となる国籍法3条を下にコピーします。

第三条  父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得した子で二十歳未満のもの(日本国民であつた者を除く。)は、認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であつた場合において、その父又は母が現に日本国民であるとき、又はその死亡の時に日本国民であつたときは、法務大臣に届け出ることによつて、日本の国籍を取得することができる。
2  前項の規定による届出をした者は、その届出の時に日本の国籍を取得する。


また、準正についても。嫡出子とは婚姻している両親から生まれた子を指しますが、例え結婚していない両親から生まれた子であっても、認知の上で事後に両親が婚姻すれば嫡出子となります。これを準正(民法789条)と言います。

さて、争点は
一、父親が日本国民・母親が日本国民でない場合には、父親が認知したとしても嫡出子になるわけではなく、従って日本国籍を有していないことになる。両親が婚姻していれば日本国籍がもらえるのに、婚姻していないと認知をしてもらっても日本国籍はもらえないこととなる。これは、嫡出子と非嫡出子を不当に差別するもので憲法14条に違反するのではないか。
二、(一で違憲であることを前提に)裁判所が原告らに国籍を与えてよいか

先に結論を言えば、第一段階では12人が違憲説を主張、3人は合憲説を主張しました。
そして、第一段階の違憲説12名のうちでも2人は第二段階で「違憲だが国籍を与えることはできない」と主張しました。


多数意見の理屈をわかりやすく書いてみます。ただし、わかりやすく書いているというのは大切なことを切ってしまっているという危険があるということでもあるので、注意してください。

まず、憲法10条は、日本国民要件は法律で決めるものとしています。しかし、当然それは無制限白紙委任ではなく、合理的な理由もなく差別的に取り扱えば憲法14条(平等権)違反となりえます。今回の場合、区別があるのは明らかですから、そこに合理性があるか、というのが焦点です。この点においては、反対意見も同じです。
そして、多数意見は、こうした差別をする目的が正当であり、目的と手段に合理的関連性がなければならない、としました。

その上で、多数意見は以下のような事情を考慮しています。
一、国籍は人権保障や公的資格付与・公的給付などで大切である一方で、父母の婚姻は子が自分で変えることができない以上、その合理性は慎重に検討しなければならない。
二、3条の規定は血統主義(日本人の子に日本国籍を与える原則)の補完であるが、その趣旨は出生後に父が認知すれば、日本人と生活が一体になり、それなら日本国籍を認めることがいいだろうということにある。その生活の一体性を判断するために要件を設けたのだから、その目的は合理的と言っていい
三、国籍法3条ができた当時は、認知に限らず、婚姻ではじめて密接な結び付きがあるという判断は合理的なものであったといえるであろう。しかし、家族生活や親子に関する意識も一様ではなくなってきているし、国際交流の増大で日本人の父とそうでない母との間の子が増加している。その実態や意識でも複雑多様で、婚姻をもってはじめて国籍を与えられるほどの結びつきが認められるという判断は必ずしも実態と合致しない。
四、諸外国においても、法律ができた後非嫡出子と嫡出子の区別は解消の方向であり、国際人権規約や児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)でも差別が禁止されている。
五、国籍法の規定は出生の時に嫡出子はもちろん、日本国民の父から胎児認知された非嫡出子や日本人の母の非嫡出子も国籍を取得できるというのに、日本国民の子でありながら出生後認知で父母が婚姻していないとなると国籍が取れないというのは著しい差別的取扱である。

これらを踏まえ、国籍が重要な権利保障の前提であるし、母が日本国民か父親の日本国民でも差異が発生することも考えれば、この扱いには合理的関連性はなく、いくら立法に裁量権があるといっても、もはや不合理な差別で違憲であるとせざるを得ない、と指摘しました。たとえ法務大臣の裁量などで是正することができても(反対意見はこの点も重視)、仮装認知によって不当に国籍を取られる恐れがあるとしてもそれは変わりません。

こうした多数意見の見解に対し、規定自体を合憲とする横尾裁判官(行政官出身)・古田裁判官(検察官出身)・津野裁判官(行政官出身)は国籍法の体系を血統主義を前提としつつ一定の場合に国籍を付与するかどうかを規定しているとした上で、多数意見の考慮すべき事項において具体的に明らかではないこと、国際的な比較が必ずしも考慮事情とすべきではないことなどを根拠に、違憲説を批判しています。
なお、第二段階に関しても彼らは反対意見に属する旨を主張しています。




さて第二段階に入ります。

第一段階の違憲という結論をクリアしても、その先、日本国籍を与えていいかは、別の検討が必要です。というのも、特に国籍を与えなさいという法律があるわけではないので、違憲だとして裁判所が国籍を与えよということは裁判所が立法をすることに等しい、という批判がありうるからです。いかに司法機関といえど唯一の立法機関が国会(憲法41条)であることを動かすことはできません。(反対意見はそのように多数意見を批判している)
多数意見への賛同を前提とする補足意見においても、むしろこの点が徹底的に論じられている点は注意してください。

多数意見は、違憲状態を是正して当事者を救済するためには、届け出に応じて国籍を出すしかないだろう、と判断しています。たぶん、以降の理屈立てもその価値判断が大前提にあると思います。
さらにいえば、違憲の部分を取り除いて彼らにも国籍を認めると解釈することで、法律全体を合理的に、合憲の方向で解釈できる、としています。その効果も意見の部分を取り除けば法律の規定の趣旨や目的に沿う(この点については、今井裁判官の補足意見が詳しく論じている)のだから、そこまで認めてもよいだろう、とした上で、届け出をした原告らに国籍を認めた、という訳です。
反対意見の方はどうか、というと甲斐中裁判官(検事出身)と堀籠裁判官(裁判官出身)から示された批判は、国籍法の規定がない以上、彼らにとっては白紙の状態が存在するだけであり、特別に権利を与える原則があるわけではない。つまり、法律が「全くない」という状態であり、一部の制限する規定を取っ払うのとは性質が違うから、ここで法律もないのに国籍を与える権限は裁判所にはない、認めるのは司法による立法だという判断でした。
他方で、甲斐中・堀籠反対意見に近く、白紙の状態が存在するだけであるが、国籍法の解釈を拡張することで解決できるし、この考え方であっても立法者の見解を無視することにはならないと考えたのが藤田裁判官の理解です。


限られたスペースの中での記事ですので、さらなる内容の充実は各人で判決文にあたっていただきたいと思います。


この判決は、ただ単に国籍を認めない法制度の問題を検討して違憲判決を導いただけではなく、法制度が違憲だとしてどこまで救済できるのか、という点に関して画期的なものになる可能性が高いことも、知っておいてもらいたいと思います。どちらかといえば技術的な問題に属するのは間違いないのですが。
あと、この判例の出現でもう一つ気になるのが、非嫡出子差別として有名な相続分差別(民法900条)です。最高裁判所はこれまで合憲であるという見解を貫いてきましたし、今回の判決がダイレクトに相続分差別の違憲を導くというわけではないのですが、嫡出子非嫡出子の差別について厳しい態度をとったのだ、と見れば(実際その点についてかなり攻撃的なことを書いているように思う)、この問題に対する判例の態度に変更が生じる可能性が上がったとみる余地もあるように思われます。





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最終更新日  2008年06月05日 01時27分31秒
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