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黙秘権に関するhidew氏の珍説… (趣味・ゲーム)楽天ブログ 【ケータイで見る】 【ログイン】
碁法の谷の庵にて
風の精ルーラの囲碁と法律雑記

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2010年01月19日 楽天プロフィール Add to Google XML

黙秘権に関するhidew氏の珍説
[ その他雑考 ]    

 今度は黙秘権に関して、hidew氏から珍説が飛んできました。全く困ったものです。
まあ、これも笑い話という意味ではなく話のネタになりそうなので、使わせて頂きましょう。 黙秘権自体は過去に記事にしたことがありますが、こういう視点から記事にしたことはなかったので。


 ・・・まあ、あえて言えば、珍説と言ってもある意味仕方のないことではあるのかもしれません。というのも、hidew氏の言っていることは、字面そのものだけみれば正当そのものだからです。えっ、そうじゃないの?と思われる人がいたとしても、それだけで非難する気はありません。
 もちろん、だとしてもhidew氏のwikipediaを読んだだけで、「お前は分かっていないんだ」と言う神経のずぶとさは、十分すごいものですが。
 そもそも、日本の裁判で法解釈上の主張をするときに、wikipediaをプリントアウトしたものなんて持ってったら笑い話の種にしかされないはずです。一に判例二に判例。どうしてもない場合には、立法時の起草者などによる有権解釈。それすらも尽きたら学説ってところでしょうか。
 ある「事実の立証」にwikipediaを印刷して持ってきた弁護士もいて、話の種になっていました。(調べるためのとっかかりにするか、他にどうしても見やすい資料がない場合にやむを得ず、というのなら分かりますがね)


さて、彼が分かったつもりで主張する、

「黙秘しても不利益になることはない」

 というタテマエですが、さてそのタテマエがどの範囲であるのか。この現実を知らずに、黙秘すれば不利益にならないんだ、としか繰り返せないようでは実務家としては無能そのものです。というかお前どうやって司法試験受かったんだと言う話になってしまう可能性もあるでしょう。黙秘して不利になる場合、なんてのは実は司法試験や学部試験にも普通に出る問題なのです。

 黙秘して不利益にならない・・・その「不利益」とは、どの点での不利益なのか。どの範囲なのか。それをわきまえなければ、黙秘は一発で愚策そのものに転落します。その例をあげる中で、hidew氏の浅はかな理解についても指摘します。


 黙秘権がある中で、黙秘をした場合の対処として許されない行為は黙秘を理由とした刑罰や黙秘を理由とした不利益推認などに留まると解されています。不利益というのは「黙秘自体を悪としない」ということであって、黙秘についてくるさまざまな「派生的効果」による不利益は、黙秘という選択をする人間が自らかぶる必要があります。
 もちろん,きちんとした弁護人がつけば、黙秘に伴うこうしたメリット・デメリットはきちんと教えてくれるでしょう。事例に合ったアドバイスももらえるかもしれません。実際問題、黙秘権があるからと言って黙秘の勧めが本当に得策だったのか裁判所が疑問を投げかけた裁判例もあります。
 ただし、最終的に黙秘をするか決めるのは被告人自身です。
 hidew氏は、こうした派生的効果による不利益を全く考慮していませんが、これは実務家としては致命的に痛いことなのです。別に実務家と同等の見識をhidew氏に求める必要は本来ないのですが、文句言うならその程度の見識は必要です。
 というか、コメント欄でも短文で指摘したのだけどね。

第一に、保釈を請求する場合はどうでしょうか。
 黙秘をしていると、実務上、保釈許可の除外事由にあてられてしまう恐れがあります。黙秘することで、証拠隠滅する恐れがあると判断されるのです。そんな判断は許されない、と言っている弁護実務家は少なくないのですが、現実考慮して差し支えないと考えられています判例は最高裁でまで出ています(別論点と混同していましたので訂正します。ただし、そのように解されることがあるという指摘は多々なされています・・・と言うより、いわゆる人質司法として常々指摘されていることです)から仕方ありません。その正当性を認めるかどうかにかかわらず、少なくとも黙秘をすることでそういうデメリットがあることを計算することは必要です。

第二に、逮捕・勾留されている場合はどうでしょうか。

 黙秘をしていると、勾留期間が延びてしまうことがあります。弁解して、調べて裏が取れれば10日で済んだはずの勾留が伸びてしまうということがありえるのです。刑事訴訟法ゼミで東京地検に見学に行ったときに、応対に出た検察官が語っていましたから、間違いありません。検察だって捜査する必要があるし、裁判所だって捜査の必要も考えなければいけません。分からないからいつまでも身柄を拘束して調べるという大義名分が立ってしまうのです。
 また、最初のうちは弁解していなくて、後から弁解を出すのは「その弁解が信用ならん」と判断される原因の一つです。彼が騒ぎたてている差戻し控訴審の判決文ですら、今更出す理由がないと指摘されて信用性が排斥されているのです。
 もちろん、黙秘してみてそれでダメだったから方針変更ということ自体はありえますが、囲碁もいったん立てた方針を変えるのは損を招くことが少なくありません。その覚悟でもって黙秘をしなければならないということです。

第三に、黙秘しても有罪になった場合、量刑ではどうでしょうか。
 黙秘をしていることを量刑上不利益に扱うことは許されるかどうか・・・実はこれは争いがあり、判例でも見解が分かれるようです。
 しかし、現実問題として黙秘をしていると不利です。というのも、「自白」については反省の兆候とみなして、あるいは犯人を発見するための政策的考慮として、量刑を減らす傾向があります。ケースによっては、自白が自首(法律上の減軽理由!!)にあたるケースもあります。
 黙秘をするということは、少なくともこういった量刑を減らすチャンスを自ら放り投げることは覚悟する必要があります。



 第四に、事実認定はどうでしょうか。ここがhidew氏の珍説の本丸でもあるので、少し厚く書きます。

 黙秘をすることで、こいつはやったんだな・・・と推認することは、日本では許されないと考えられています。しかし、です。だから不利益になりえないと言うのも実は浅はかな理解・・・というか、そのまま実務家はやれないでしょう。
 例えば、近接所持という事実認定の手法があります。平たく言えば、泥棒がいて、被害があった後、それから間がない時期にその盗品を持っている人がいた場合など、特段の事情がない限り、彼によって泥棒がされたと認定していいという事実認定の考え方で、司法研修所や法科大学院で幅広く教えられています。強盗事件とかだと、裁判員がこの考え方で事実認定する例もあるでしょう。
 そして、特段の事情として扱われるのが、「被告人の検察官にも崩せない合理的な弁解」です。
 例えば、盗まれた財布を持っていた理由として、誰かが落としたので拾ったとか、家族からもらったとか、人から買い取ったとかです。
 こうした弁解が、一概に不合理と言えないな、と判断されれば、上記の近接所持による認定が覆ります。
  
 しかし、これらは「弁解しなければ考慮のしてもらいようがありません」。
  現実問題として、およそ弁解されないものまで、ありとあらゆる可能性を全て考慮しなさいと言うのは裁判上も無茶です。また、およそ弁解自体できないような人は、そもそも心神喪失にあたり、裁判で被告人として起訴することもできません。
 つまり、せっかく通用する弁解を持っていても、出さなければ=黙秘していれば宝の持ち腐れで終わり、負けということは当然にありえるし、それを違法ということもできないのです。

 札幌高裁判例平成14年3月19日(被告人が終始黙秘していた事例、検察は黙秘を不利益に推認すべきと主張したらしいが、裁判所は否定し無罪判決とした)に、以下のようなくだりがあります。

「被告人が事実について一切黙秘し何の説明も弁明もしないために,検察官側の立証により形成された心証を崩すことができず,それが事実上被告人に不利益に働いてしまうということがあることは否定できないところと思われる。所論のいうところをそのようにとらえれば,それは一般論としては不当なところはないように思われる。」

 なぜ黙秘権行使が訴訟上有効な戦術たりえるのか、それは挙証責任(ここでは「立証の現実の必要」という意味の挙証責任)が「まず」検察にあるからです。もし「まず被告人が立証しないとダメ」ということなら、黙秘は自殺行為です。
 しかし、正当防衛や緊急避難等がよく基本書では出されますが、近接所持の例を見れば分かる通り、本来弁解することで崩すことができた検察側の立証によってできた心証を崩せないために黙秘が不利益に働く、「弁護側が何か立証しないとアウトになる事態」は確実にあるのです。
 もちろん検察官の方で出す証拠にそれを示すものがあれば、検察官や裁判官の方で考慮してくれる可能性はありますが、先日も書いたように「検察官と裁判官では弁護役は本来足りない」のです。出せる事情は自ら出さなければ、自分の身を守れないと言う現象は確実にあるのです。
 もちろん、こんな考え方おかしいんだ、と批判することは自由でしょう。しかし、現実に裁判官がそう言う以上、黙秘をする場合には、裁判官にそう判断されるデメリットを覚悟しなければ被告人の利益は守れません。


 そして、光市母子殺害事件差戻控訴審ならば、被告人に比較的有利な判決を出した一審と二審の判決でさえも「殺意に関する挙証責任の壁」などはとっくに崩壊済、殺意なしについて、事実上弁護側に立証の必要があることは明らかです。
 もちろん弁解しても殺意認定が落ちる水準になど行きっこないところかもしれませんが、かといって「弁解しなければ、ますますもって傷害致死の認定など取れっこない」のです。

 結局、黙秘をしても不利益にならないと言うのは、所詮「黙秘自体が処罰されない」「黙秘を直接の理由に事実を不利に認定されない」と言う程度の話。黙秘が「効果的な戦術」たり得るかどうかはあくまで黙秘という戦術の利「害」得「失」や自分の持っている武器の双方をきちんと把握した上で対処することが必要です。



 で、これもできないのに、黙秘が不利益にならないと言う10字余りの言葉だけで騒ぐのはhidew氏。
 私の例示の下手さ加減の上げ足を取り続けて、いつしか俺様理解の方が全て正しいと思うようになったのでしょうか。まあ、当時は私のような一介の院生どころか、弁護士のブログに刑事弁護の神髄を説いて回る一般人も多数いらっしゃったので、それと似たようなもんだとは言えるのかもしれませんが、今になってサンプルが登場すると言うのも凄いものです。


最終更新日  2010年01月28日 00時56分05秒
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おもしろい   素数3さん


Re:おもしろい(01/19)   風の精ルーラさん


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