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カテゴリ:事件・裁判から法制度を考える
飲酒運転の「原則懲戒免職」という公務員処分に、見直しが進んでいるらしいとのこと。
念のため断わっておけば、別に原則懲戒免職、という規定を用意したとしても、それ自体がいけない訳ではないと思います。と言うよりそれはあくまでも内規レベルの話であって、裁判所は原則として関知しません。 「原則」懲戒免職と言うことは例外もあるということであり、その例外がどのように個別の事件に適用されるかで、その適否が決まってくることになります。業務上か否か、飲酒の程度がどうか、事故は起こったかどうか、素直に申し出て来たかどうか(自首を軽減理由とすることは刑事裁判ですらも自己負罪拒否権に反しないとされる)。 原則例外をどれくらい認めるかも、難しい問題ですが。 まあ、処分見直しもある程度は自然な成り行きでしょうね。 飲酒運転に対する社会の意識が高まること自体はいいことだと思う(近年の減少も、厳罰化、と言うよりはその辺の意識の高まりがもたらしたものだと思います)のですが、過剰反応のにおいは感じていました。 以前から、「飲酒運転やひき逃げの厳罰化を求める法改正への提言はいいが、そのために逃げ得という言葉を用いるのは事故を起こしてパニックになっている運転者にひき逃げの動機を与える恐れがあるし、かつ批判内容も正確とは言えず、適当ではない」と指摘してきました。法改正の主張に別に逃げ得という言葉は必要ではなく、どういう場合に逃げ得なのかをきちんと筋道立てていく方がよほど良いと思います。 それを無視して逃げ得という言葉のショッキングさに頼った運動は、一時的には効果が出るにしても、むしろ危険だと思うのですが、未だにこの言葉を使う遺族団体の方もいるようで、残念な気持ちになります。 実際、前日に飲んで車の中で寝て、翌朝になってもう酔いも覚めたと判断して運転したら、酒気帯びに引っ掛かり、それで一発で免職、と言うような事件もある(と言うか裁判例で取り消しになるのはそう言う事例が多い)ようです。酒気を帯びているという認識すらないということは、本来過失と評価する余地すらあることです。酒を飲んだら一生運転するな、ということでない限り。 こういうごく単純な過失で、しかも「実損害すら発生していない」のにクビが飛ぶ…と言うことすら起こっている訳です。この基準を例えば医療の世界に持って行ったら医療従事者のクビは次々と飛んで行って、しまいには医療従事者がいなくなってしまうんじゃないでしょうか? それに、飲酒運転に限らず、スピード違反や整備不良、わき見、信号無視などでも人の死につながる事故は起こりえます(スピード違反でなく制限速度内ですら交通事故は起こりえます)。 スピード違反だって、故意の可能性は十分ある訳ですが、それで切符切られたらたちまちオール解雇、あるいは解雇に準じた重い処分でしょうか?私は寡聞にしてそんな企業聞いたことがありません。 ネットで軽くするんじゃない!と騒いでいる人たちは、自分達がスピード違反も、わき見も、灯火ミスも、一時停止違反も、駐車違反も、その他ヒヤリハット一回もない、と言うのでしょうか? ちなみに私は今の所違反点数を食ってはいませんが、灯火忘れてた、ってことはありました。 免許なんか持ってないあるいはペーパードライバーなら分かりませんが、そうでない限り残念ながら私には軽くするなと騒いでいる人たちが潔癖にも何のミスもしていないなどとは思えません。 これに対して、ほめられたことでは全くないにせよ、ほんの些細なミスで職を奪われるということの意味を考える必要はあります。 常識的に考えれば、例えば停職3か月でも飲酒運転は割に合わない(3か月分の給与をすっ飛ばしてまで行う価値のある飲酒運転はそうそうない)ですから、更に厳罰化した所で飲酒運転の抑止になるかは怪しいのです。 第一、公務員はもちろん、企業の雇用関連に飲酒運転の抑止機能を求めること自体が本来はお門違いですからね。 職を奪われる、と言うのは、生活の基礎をはく奪されるに等しいことです。特に年配になってくれば職はなかなか見つからず生活保護も頼りにならない昨今、職を奪うということが処罰としてどれだけ厳しいか、という点も念頭に置く必要があります。 個人的所感としては、懲戒免職は、執行猶予付きの有罪判決で職がキープされるより厳しいと言っても間違ってないと思っています。「飲酒運転」くらいという感覚になってはいけない、と言う人は多いですが、他方で「職を奪うくらい」という感覚を持ってもダメなのです。 一応先ほどのネタ翌日の酒気帯びで検挙された、と言うのは比較的分かりやすい極端な例として挙げました。 しかし、罪と罰の均衡という意味では、もう少し中間的な事例であっても懲戒免職にはせず、停職くらいで済ませる方がよい(もちろん、その後に出世をさせないこともいけないことではない)と判断されることもあると思います。 なお、民間なら即クビ、と言う話を持ちだしてブログ上で気炎を上げる向きもありましたが、残念ながら民間ならどんな飲酒運転でもただちに懲戒解雇有効とはなかなかならないでしょう。 飲酒運転の内容や、その民間会社の、或いは当該労働者の職務の内容等に応じた処分であることが要請されるのは変わりなく、それを無視して過剰に重い処分をすれば解雇権の乱用で解雇無効、下手をすれば解雇して働いてもいなかった間の給料を利息付きで取られることは十分に考えられるのです。 重く処分しようと思えば、 一、会社の業務に関連して飲酒運転を行った(宅配便の運転手が仕事中に酒気帯びをしていたような場合) 二、自動車運転関連業など交通安全への信頼性確保の要請が特に強い業種である(運送業や、居酒屋業等、こちらも参照) 三、常習であるか、過去にも飲酒運転で処分を受けていた 四、事故を起こした 五、飲酒運転者の所属する会社までが幅広く報道されて会社の信用が失墜してしまった 等と言うような事情が必要であろうと考えられます。 旧来の裁判例でも、飲酒運転による解雇はやり過ぎと言う判例が多いようです。(こちら参照) まあ、飲酒運転に対する社会的非難や法定刑も高まった現在、当時の基準のまま判断されるかという問題はありますが、それでもいきなり方針がガラッと変わることは考えにくく、旧来から判断な微妙な事例で、処分を認める方向にぶれやすくなる程度ではないかと思います。 ちなみに、一瞬のわき見運転とかによる死亡事故で、事件の事後処理をきちんとすれば(保険に入っていて賠償が支払われるのは当然ですね)、大体は自動車運転過失致死罪で、刑事裁判なら懲役or禁錮(露骨な交通違反を伴わない運転ミスは、禁錮の可能性が比較的高い)1年6月前後、執行猶予3年前後ですが、それでも職場がいきなり解雇する、と言う例は私の知る限りでは少数だったと記憶しています。 事故に至っていない酒気帯び運転より死に至らせた人身事故の方が処分が甘い…って言うのは処分の重さに不均衡があるように思うのは、何も私だけではないはずです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010年06月29日 19時09分23秒
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