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碁法の谷の庵にて
風の精ルーラの囲碁と法律雑記

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2012年01月06日 楽天プロフィール Add to Google XML

「事務管理」「不当利得」をぶっ潰せ!?
[ 事件・裁判から法制度を考える ]    

 最初に、こんな例を考えてみましょう。

 Aは業者Bに、家の屋根の修理を5万円で依頼した。それで業者Bは、屋根を修理していた所、屋根の他に塀が壊れている所を見つけた。業者Bは、その時手持ちの道具で修繕は何とかなること、Aは修理を任せて子供に留守番をさせて出かけてしまったことから、Aに告げることなく塀も直した。
 そして直してしまった上で、帰宅したAに対して修理費として5万円を追加して10万円を請求した。


 実は、これは私が又聞きした事例にインスパイアを得て作ったものです。
 そして、実際これに類することは少なからず起こっているのが実情らしいです。

 Aとしては、あ、どうもありがとうございましたと言って素直に追加料金を支払うという選択肢もあると言えばあります(そうやって平穏に済んだ件については統計があるわけではないのですが、実は多数派かもしれません)。
 しかしながら、塀を勝手に直したのはBだ!!なんで5万円も追加で支払わなければならないのと言う悲鳴を上げたくなる場合もあるでしょう。塀が壊れているのは知っていたけれど、この際塀については大規模修繕をしようと別の業者に依頼して、遅れについては少しの我慢をしていた所だったのに二重出費をさせられてしまうなんて冗談ではない、ということもあるところです。

 しかし、Bとしては(契約に関する基礎的な知識の欠如はともかくとして)悪徳業者どころか単なる善意のつもりでやっていることもあり、まさか怒られるとは思わなかったということすらあります。



 ここで、少し民法全体のことを話してみたいと思います。
 近代民法の大原則の一つが、私的自治の原則です。法律関係は個人の意思によること、もう少し噛み砕くと、市民は自分の意思によって権利を得、義務を負担するという原則です。逆に意思に基づかないのに、債務を勝手に負担させられたりすることはない、と言うのが原則(修正原理として、過失責任の原則など)です。
 しかしながら、それでは済まない場合として、3つのパターンが民法にはあげられています。


一つが、不法行為。
 要するに故意か過失で損害を与えたら賠償しろというものです。用語はともかくとして、その概念自体はなじみやすいでしょう。

一つが、事務管理。
 本人の依頼を受けていないのに他人が本人のために勝手に仕事を始めてしまった場合について、なんと本人が費用を負担してあげなさい、という制度です。
 そんなの余計なお節介なんだから負担なんかする必要はない、と言う価値判断は当然あることだと思いますが、現行民法はそのような価値判断を取らず、相互扶助の精神からその程度は負担しなさいと言う対応を取りました。

一つが、不当利得。
 贈与とか、売買とか、法律上の意思に基づいて動いたのではなく、財産がぱっと移動してしまうことがあります。落ちていたものをネコババするだけではありません。例えば、最初は売買契約を結んでいたけど、それが取り消され、最初から売買契約がなかったことになった場合、売買に基づいて移動した財産や物は移動しっぱなしです。
こういった関係を清算し、他人の損のもとに得た利得は返しましょう、というのが不当利得と言う考え方です。
 過払金請求なんかも、不当利得(債務が存在しないのに支払ったので)の考え方を使っています。


 この3つのうち、不法行為については基本的に故意や過失が要件ですから(そうでないものもありますが、今回は省きます)、自己責任だ、ということが可能でしょう。
 ところが、事務管理と不当利得の考え方を形式的に適用すると恐ろしいことになる、と言う例があります。
 特にそれが顕著になりやすいのがいわゆる消費者問題です。


 消費者保護では、立場的に弱い消費者に対して、様々な理由で契約の取消を認めます。例えば詐欺だ、という訳ではなくとも、大事な所をきちんと教えてもらってないなどと言う理由で取消可能です(消費者契約法4条など)。

 ところが、取消の後に、不当利得と言うことにされてしまうと、業者サイドとしては私たちの負担した部分を返してくれ、と言うことが可能になります。
 いや、不当利得や事務管理の場合、そもそも取り消し以前に「契約」なんてなくてもいい(冒頭の事例だって、塀の修理については何の契約もしていない)のです。外に向かって開けている所でやられた場合(一例としてお墓や公道に面した壁など)には住居侵入罪とすることは困難ですし、物の客観的価値を高めている行為を器物損壊と言うのも困難でしょう。

 業者の負担の下で、消費者が利益を得ているのですから、形式的に見れば不当利得にはなります(相手のためにやってあげたんだということで、事務管理の成立も考えられ得ます。別の先生と冒頭の問題の原題について話したら消費者問題にかなり詳しい先生でも「事務管理にならない?」と言う意見が出たことがありました)。
 冒頭の事例に照らせば、業者の原材料費と手間賃と言う負担の下で、「直った塀と言う利益を得た」ということになるのですから、基本的な不当利得の考え方からすれば、当然業者には直った塀に見合った手間賃や原材料費、設置によって一時的に蒙った利得くらいは損失として払えと言うことが可能になると考えられてしまうのです。

 とはいえ、このような結論が無茶苦茶であることは当然でしょう。
 在庫に苦しむ業者が本人の意思すら無視して強引に設置していったら最後、お金は返しませんいやむしろ請求しますと言う言い分が通るのでは洒落にもなりません。泣き寝入り狙いの業者に裁判所がお墨付きを与えるなどと言うことは断じてあってはならないと声を大にしておきたい所です。


 このような現状について、契約の上でクーリング・オフをした場合は立法的手当があります(特定商取引法9条5項)。既に受けたサービスについて、その利益を返す必要はありません。
 また、ネガティブ・オプション、つまり家などに商品を送り付けて、「○日以内に返送しないと買ったことにする、送り返すか金を振り込め」などと要求する理不尽極まりない商法についても、立法的な手当てがされています。(特定商取引法59条)

 しかしながら、その他の取消などの場合については、不当利得による清算が消費者に免除されているわけではありません
 結果、せっかく取消権があった、あるいは取消以前に契約なんかしていないはずだったのに金銭で返還請求されてしまい業者は在庫を処理、消費者はいらない利得を押し付けられて泣き寝入りとなるとなるのでは、シャレになりません。


 これに対してどのように対応すべきでしょうか。

 私がぱぱっと思いついたのは以下の考え方です。

 一、業者側の主張については権利濫用として、形式的には不当利得とした上で請求を認めないという方策を取る。

 二、一方的に押し付ける行為は公序良俗に違反する商法であると認め、不法原因給付(民法708条)として業者側からの不当利得返還請求を認めない

 三、押し付けられたサービスについては、サービスをそもそも利得と認めない。(利得がなければ、不当利得や事務管理でも金銭を支払う必要はない)本人が希望するからこそサービスはサービスたりえるのだと考える。

 四、クーリング・オフ等の規定を類推解釈(似ている事例、趣旨が一致する場合に別の規定の解釈を引っ張ってくる)する。(苦しい解釈であることは否めないが、これに近い類推で保証人の保護などが図られる例もあるので荒唐無稽でもない)


 他にネットで調べた所、こんな論文()()も見つけましたが、流石私に考え付くレベルの事はちゃんと検討されておりました(←失礼極まりない)。

 ただし、不当利得制度をどういう制度と捉えるのかという認識の対立や、実際上の不都合は不法行為のレベルで検討して不当利得としては旧来通りに決着させるという考え方もあるようであり、問題は一筋縄ではいかないようです。
 それでも、おそらくそんな押し付け行為について消費者が泣き寝入りするような結論があってはならないということは、おそらく異論を見ないと思います。

 それ以上の詳細については、私が細々と語るより論文の方に直接あたっていただきましょう。


最終更新日  2012年01月06日 18時51分58秒
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