3411457 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

碁法の谷の庵にて

碁法の谷の庵にて

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2016年09月23日
XML
特殊詐欺(オレオレ詐欺・振り込め詐欺・・・)は無視するに限る。よく言われる話です。
 ところが、特殊詐欺だと思って無視したら実は裁判所を使った正式な請求であり,民事裁判の被告にされていた!ということがあります。
 法務省のHPにも注意喚起があるので,参照して頂ければと思います。


 裁判所からの書類は「特別送達」と言って本人あるいは弁えのある者(民事訴訟法106条1項)に正式に渡すことが必要です。
 送達についてはこちらの記事で触れましたのでこちらを参照していただきましょう。
 弁えのある者がもらったきりほったらかして伝えなかった結果、本人に伝わらなかったというようなケースでも、裁判所としては「あなたに伝えましたからね」ということができます。
 仮にそれで損害を被ったとしても、その弁えのある者にそちらで責任追及しろ、となります。


 そして、送達がなされた以上、裁判は始まっています。
 裁判が始まったことを理解した上で、病気で行けないとか、その日は仕事が外せないとか,そういった事情を電話なり書類なりできちんと伝えれば、裁判所もある程度は配慮をしてくれることが多くなります。

 しかし、「全く無視してしまいました」となると話は変わってしまいます。
 裁判においては、「どうせ何をやっても負けなので裁判で書類も出さず裁判にも行かず不戦敗を決め込む」人はとても多いですし,そんな人に付き合って不戦敗を認めないことにしたら,本当に権利のある人たちが困ってしまいます。
 なので,裁判所は「来ない,おかしいな?」とは考えてはくれません。
 訴訟で相手の主張を争うことを明らかにしない場合には、相手の言い分を認めたものとして扱われてしまいます(民事訴訟法159条1項・3項)。

 結果として、裁判ではたとえ真実と違っていようと相手方の言い分が通り、相手方の言い分に従って財産を差押えられたとしても文句は言えないことになります。


 後から事態に気付いて取り消してもらおうと思っても、裁判所に

「あなたの下に裁判書類を送ることで、あなたの言い分を聞く機会は与えました。
 それを自ら無視したのですから、言い分を出さないで負けたとしてもそれは自己責任です。
 一度出した裁判の結果を変えることは、裁判制度を無意味にしかねないので認めません。
 あなたの言い分が本当であったとしても知ったことではありません。
 特殊詐欺と間違えたのも民事訴訟法を知らないあなたの責任ですから変えません。
 給料を差押えられようが,家屋敷なくそうが裁判所の責任ではありません。
 裁判に来ない場合には自白したものとして扱うのは裁判所の義務です。」


と対応されてしまいます。

 そして、例え提訴した側が裁判制度を悪用した詐欺であったとしても、裁判を起こす権利が憲法上の権利である以上(憲法32条)、特殊詐欺犯であれ裁判を起こすこと自体を禁止することは困難です。(裁判所が申立をした人間を特殊詐欺犯と認めること自体まず考えられないでしょう)
 結果として,特殊詐欺犯(刑法上詐欺罪が成立するかは微妙でも、それに類する連中)に極めて正当な形であなたの財産を差し押さえられる・・・という身の毛もよだつ事態が実際に起こりえるのです。

 もちろん,きちんと訴訟に対応して勝訴した上で,あからさまに不当な訴訟を起こしてきたことが明確になったならば不当訴訟として特殊詐欺犯に損害賠償を求める訴えを提起することはできますが,特殊詐欺犯の財産を見つけること自体至難の業です。
 また,仮に裁判に負けた後,裁判を悪用した特殊詐欺だったことがはっきりしたとしても,既に民事訴訟法に則って行った裁判手続の結果を違法と扱うことは難しく,賠償金という形で金銭を取り返すことも難しい可能性があります。


 また,特殊詐欺犯をはじめとする悪意のあるクズだけが、あなたに身に覚えのない訴訟を起こすとは限らない、という点にも注意が必要です。
 裁判を起こされた、どうしよう…身に覚えがないのに…ということで弁護士に相談に来る人もいます。

 しかし、弁護士からよく事情を聴いてみると、

相続などが発生し、自分の債務になっていたことが発覚。
印影などからすると、相談者としては身に覚えがなくとも家族などががなりすました可能性が高く、正しい請求ではないが原告側としては悪意ある請求とも言えない。少なくとも裁判所で「このサインとハンコは偽物です」と言わないとアウトになっていた可能性が高い。
借りたことをすっかり忘れていた。

などと言うことで、実際には請求している側の請求が100%正当であったというケース、あるいは結論的には退けられる請求かもしれないが、相手も何者かに騙されているとも知らず本気で請求してきており、放置しておけば裁判所が請求を認めたと考えられる件は、結構多いという感触を抱いています。

 こういった方々は、まだしも相談に来てくれていますから、弁護士も「これはきちんと対応しないとだめだよ」とアドバイスできます。
 しかし、素人判断で「これは特殊詐欺に違いないから無視」を決め込んだ結果、取り返しのつかない事態を招くという危険性も確かにあるのです。
 時には、「自称法律に詳しい人」に相談してそれを信じた結果取り返しのつかない債務を負担させられ、家屋敷手放すことに・・・というケースも、考えられないわけではありません。
 その「自称法律に詳しい人」への責任追及は、それこそ悪意を持って意図的に虚偽を教えたようなケースでもないと難しいでしょう。


 特殊詐欺ではないか?と思われるような「書類」が届いた場合には、本当に要注意です。
 裁判所からの正式な手続きに関する書類は特別送達という形で行われますが、特別送達と普通の郵便の到着の違いがしっかり分かっている人も少ないでしょう。
 少なくとも,裁判所(らしき組織)から送られてきた封筒が届いたならば、裁判所からの正式な書類である可能性を踏まえて、必ず警察や弁護士に相談して,本物かどうかについて意見を仰ぐべきでしょう。
 本当に身に覚えのない訴訟を起こされたならば、お気の毒ですがきちんと対応してください、としか言いようがないのです。


 しかし、特殊詐欺対策に携わる方々も、こうしたリスクに対して無頓着であるという印象があります。
 私は、現在とある警察署協議会で委員をし、特殊詐欺対策についての意見交換をしたこともあるのですが、実はこうした事態に対しては警察も認識が甘いのが現状でした。
 「無視しろ、無視しろ」と連呼するばかりで「無視したらやばい請求がある」ということを知らない方は決して少なくはありませんでした。
 一歩間違うと警察の間違った広報のせいで・・・ということにもなりかねません。
 特殊詐欺対策に必要な呼びかけは「無視しろ、無視しろ」ではなく「警察でも弁護士でもとにかく相談してくれ!!」だと声を大にして叫びたいです。



 余談ですが,実は、弁護士や検察官も特殊詐欺のせいで困る、ということもあります。

 例えば、検察官ならば、被疑者に検察庁に来てもらって事情を聴きたい。それで電話を掛けた結果、特殊詐欺と間違われ、捜査に非協力的な対応を取られてしまう。
 結果として直に訪問するか、最悪被疑者の逃亡の恐れを疑わざるを得なくなって勾留という形で身柄を取ることに。
 被疑者としてはシャレになりませんが、ありえることです。

 弁護人ならば、家族から被害弁償の原資を受け取って速やかに被害弁償し、早期の被疑者の釈放(特に勾留に移行する前)を勝ち取りたい。
 ところが、それで電話を掛けた結果特殊詐欺と間違われ、本当のことを知っていればお金を出すつもりだったご家族から協力を得られない。
 時間をかけて接触し、やっと自分たちが本物であることを理解してもらったものの、ご家族まで本当の電話だと知って愕然。(被害弁償の必要な被疑者であれば、ある程度は自業自得の可能性が高いのが救いと言えば救いですが…)

 特殊詐欺は、こういった送達を中心とした司法制度への信頼を破壊すると言う意味でも、非常に悪質な犯罪であると言えるでしょう。
 また、このような事態を招くという意味でも、特殊詐欺は厳罰に処されるべきであると考えています。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2016年09月23日 16時01分45秒
コメント(0) | コメントを書く
[弁護士としての経験から] カテゴリの最新記事


PR

キーワードサーチ

▼キーワード検索

カレンダー

カテゴリ


© Rakuten Group, Inc.