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碁法の谷の庵にて

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2016年10月21日
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カテゴリ:その他雑考
 もちろん三浦弘行九段の事件を意識してのお題ですが,ひとまず一般論としてお読みください。

 囲碁将棋でのプロ棋戦において,検討ソフト使用が不正行為であり,バレたら失格になる行為であるとします。


 ソフト使用を理由に失格とされた棋士が地位確認の訴えを起こす。
 対局料を失格を理由にもらえなければ対局料を請求。
 逆にスポンサーサイドから過去に遡って払った対局料の返還などを請求。
 名誉毀損などを理由に不法行為でソフト使用を名指しした人物を訴える。


 こういった訴訟を考えると、ほぼ間違いなく争点になるのは「本当にソフトを使ったのか?」という問題です。
 (考えていて,これって司法権の対象となる「法律上の争訟に当たるのかな?」という気もしなくもないのですが、今回はそこはパスしたものとします)


 疑惑の当事者となったプロ棋士が否認し,目撃証言や防犯カメラの画像などがないということになれば,間接事実の積み重ねによって立証ということになります。
 その場合にどんな間接事実を積み重ねるのでしょうか。
 私にぱっと思いつく方法論としては以下の通りです。当然そこに反論があることも考えられます。
 主張のやり取りを想定してみました。(もちろん具体的な態様と,準備できた証拠の兼ね合いの問題が出てきます)
赤字=「ソフト使用を主張する側」
青字=「ソフト不使用を主張するプロ棋士」(「疑惑棋士」とします)
緑字=「裁判所」


1.ソフト指し手との一致率

「疑惑棋士の着手は想定されるソフトの指し手と93%(今回の件の報道によりますが,とりあえず仮です)も一致している。」

1-1(棋力・研究による一致)
「ソフトの実力はもうプロを倒すほどになっている(電王戦の記録などを出せば良い)。疑惑棋士も厳しい試験を勝ち抜いたプロである。強い棋士同士が指していて、あるいは検討していて着手や読みが一致することは何らおかしなことではない。」
「棋士が将棋ソフトを使って研究すること自体は既に日常的になっており、それ自体は全く問題になっていない。ソフトの指し手を意識して指すこと自体は当然にあることである。現状ソフトを用いた研究は反則ではありえない。」
1-1-1
「一局の最初から最後まで全部ソフトが指すのでなくとも,手所でだけ使うのでも十分に不正であるし,不正としての効果は十分にある。手所でだけ使ったのであれば,不正の根拠として十分成立する。」
1-1-1-1
「手所になってくればくるほど,正解手はそんなに多くはない。従って,棋士やソフトと対局者であるプロと読みが一致することも全くおかしくないのではないか。」


1-2(ソフト・棋士的個性)
「93%というが,他のソフトとの一致率は不明である。将棋電王戦や叡王戦などでプロを破ったソフトやコンピュータ将棋選手権でプロを破ったソフトと対局して優秀な成績を残しているソフトは多数ある。ソフトによってある程度個性もあるようだ。他のソフトなら一致率は違ってくるのではないか?
特定ソフトと棋風や考え方が一致した、というだけでは一致の理由にならない。」
「93%というが,他の不正をしていないと考えられる棋士はどうなのか。
他の棋士も不正をせず優れた棋譜を残しているが,ソフトとの一致率は検証されていない。
ソフトとよく似た指し手をする棋士がいたとしても全くおかしくないはずだ。」

1-2-1
「使っているソフトは一つなのが普通と考えられる。
 一つだけでも一致して,更にそのソフトが市販ないしは何らかの形での入手ができるものであれば十分そのソフトの使用を推認できる。」




1-3(対局の個別性)
「棋士にもその日の好調不調・指し運や事前の研究にはまったかなどによってはどうしても名局拙局は出てきてしまうし、一致率に波が出てくることもあると考えられる。
 そんな中でたまたま何局か一致率の高い将棋が続いたとして、それで疑惑棋士の不正行為を推認するのはあまりに乱暴だ。」


裁判所の希望
「93%という数値が高いのか低いのか,裁判所ではよく分かりません。
 使用の疑いのあるソフトとその他の主要な市販ソフト,さらに疑惑棋士と段位や在籍クラスなどの点で同レベルと考えられる棋士、タイトルホルダーなどのトップ棋士で、持ち時間などの条件などが一致していて有意と考えられる棋譜を集めた上で,何か見える形で「相場となる一致率」等を教えてもらえませんか。」
 裁判官も囲碁将棋に詳しい人ばかりとは限りません。
 この場合,証拠を出すのはやはりソフト使用を主張する側になるでしょう。
 連盟ならいいのですが,名誉毀損訴訟とかになった場合には発言者には場合によっては非常に厳しいことになる(多数のソフトや棋譜を集めて検証しなければならない)かもしれません。
 私が将棋ウォッチに使っている「激指」の場合ソフトの棋風までいじることができたりもしますし。
 もっとも,支援者などがつくことによってなんだかんだと「双方の検証結果が出そろう」可能性はあるでしょうが。





2.棋士等による鑑定
「将棋界最高の棋士たちが疑惑棋士の着手について一致と感じている。」
「棋士はアマチュアの棋力なども審査することがあり、他人の棋力や棋風の診断には敏感だ。疑惑棋士の着手を十分鑑定できる」


2-1(鑑定の信用性)
「棋士による鑑定は全く意味がない。印象などにも左右されると考えられる。」
「現在将棋ソフトの棋力はトップ棋士と互角かそれ以上になっている。
 棋士より下のアマチュアの棋力ならまだしも,ソフトの棋力と疑惑棋士の力の違いなどはトップ棋士の棋力をもってしても測れないのではないか。」


裁判所の希望

「本当にトップ棋士であればソフト指しとそうでない棋譜,あるいは途中からソフト指しになった棋譜を判断できるのですか?
 途中からのソフト指し対局をプロ同士で何局かやって、それを主な棋士に鑑定させて、正答率を実験してみてもらえませんか。
 途中からソフト指しした対局、実はソフトを使っていないプロ同士の対局、ソフトだけでの対局、鑑定人に一切事前情報を伝えず、どの程度の正答率をはじき出すかやってみてください。
 途中からソフト指しした対局の場合、どこからのソフト指しかも鑑定させてください。
 もちろん、ソフトや対局者についても固定せず、いろいろ変えて、やってみてください。
 棋士の間での研究量を考えれば,既存の棋譜ではわかってしまう可能性もあります。新規の棋譜を用意してさせてみてください。」


 これで鑑定に当たった棋士がどのくらいの正答率をはじき出すかによります。
 ある程度鑑定人に実績のある世界ならよいのですが,何ぶん初めての世界なので,これくらいの実験を踏まえないことには、棋士による鑑定による認定は非常に難しいという感覚でいます。
 感覚ですが、有意な正答率90%くらいは叩き出せるようでないと・・・
 もっとも、今回の件を告発した棋士も、それくらいできる自信があるからこそこういった強硬手段に踏み切ったのだと思うのですが。


3.対局中の離席率

「対局中にこんなに離席しています。その隙に使ったに違いありません」


3-1(離席行動自体の自然性)

「対局中の離席はルール上禁じられていないし,現に離席する棋士も多い。対局に集中して疲れた頭を休めるためには必要な行動である。」

3-2(離席と着手の関係)

「離席する棋士がいるとしても,離席の前後で明らかに棋風や着手が変わっている」



裁判所の希望
「その棋士がいつ離席したのか,何分程度の離席だったのか。
 具体的に不正疑惑があるなら,以前の離席状況と不正疑惑のある離席状況は違うのか。
 記録などがあったら用意して頂けますか。
 もちろん,離席の前後での指し手の変化についてもプログラムに読ませてみてください。」
離席自体は当然にあることなので、離席からストレートに認定するのは無理でしょう。
離席と不正と疑われる着手の関係で認定しなければならないと考えます。


4,調査時の対応

「不正に対する調査が行われたにもかかわらず、機器類の提出に応じない等不誠実な対応しかしていない。
 これは,自分の不正の発覚を恐れたためである。」



4-1(調査協力義務の有無)

「(規則などに明文がない場合)調査に応じる義務はない。」
「プライバシーにかかわる情報を見せないからと言って失格処分にされる理由はない。」


4-1-1
「棋士であるならば,その対局の公正を疑わせる事情が発生したときに調査に応じる義務があると考えるべきだ。」


4-2(不利益推認の可否と認定して良い不利益の程度)
「調査に応じる義務が仮にあるとしても,何らの明文ある規則に基づかず不利益推認される理由はないし、仮に推認できるとしてもさほど強力な証明力はない。」


4-2-1
「調査に応じる義務があることを前提とすれば、義務違反として不利益推認はやむを得ない。(ドーピング検査などでは検査拒否は不利益推認が許されている)」


裁判所の希望
「当時手持ちのスマートフォンやパソコンの使用履歴、できれば鑑定して出してほしいな…
 当事者や当事者の委託した業者等による鑑定が信用できないなら,裁判所が入って鑑定嘱託しましょうか?」


 個人的にはこの手の情報はせいぜい参考程度と思っているのですが,裁判官は結構こういうのを気にして事実認定する人が多いという印象です。




 もちろん、これは私にぱぱっと思いついたものに過ぎません。
 仮に裁判になったとして他にどんな証拠や間接事実が出てくるのか、不謹慎ながらちょっと楽しみにしているところもあります。
 なお、おそらく裁判になれば,不正の主張立証責任は不正を主張する側にあると考えられます。
 つまり,不正の立証に失敗すれば痛い目を見るのは不正を主張する側という訳です。
 おそらくは主張立証責任に関係なく、疑惑棋士側も可能な限り白に近づけるような主張立証をしていくとは思うのですが。
 





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最終更新日  2016年10月21日 00時25分16秒
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