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碁法の谷の庵にて

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2018年01月26日
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事件報道などで,被疑者や被告人が黙秘したり否認していたりすると沸き起こるのが「弁護士(弁護人)が入れ知恵してるんだ!!」と言う指摘です。まあ大体が,感情的になって知識もなく思い込みを言っているだけの方で,弁護士はクズだとかなんだとかいう主張に続いていくのですが。

 では,弁護士が,刑事事件で「入れ知恵」することはあるのでしょうか?

 私の答えは​「あります」

​「あるのかよ!?」と思うかもしれませんが,​理由あってのこと​だと考えています。 


被疑者の人生をいきなり全部掌握するのは無理!


 まず,事件が起きてから突然つく弁護士は,被疑者被告人の人生の全てを突然掌握することはできません。被疑者被告人当人ですら,自分のことを正確に覚えていないことは珍しくもないでしょう。自分のことだとしても,何でもかんでも覚えている訳ではない人は少なくありません。
 例えば,3日前に出かけていたかどうか,出かけた場所はと聞かれて,間違って4日前に出かけていた所を答えてしまう記憶違いくらいなら,皆さんも経験があるのではないでしょうか。 
 そして,そんな記憶違いですら,アリバイなどの形で有罪無罪を分けてしまう場合もある訳です。そういった記憶を引き出すためには,弁護人から「もしかしてこんなことはなかったのか」と聞いていくことが必要になることは珍しくありません。

刑法を知らないと、せっかくの弁解が宝の持ち腐れ!


 また,刑事実体法においては,思わぬ事項が有罪無罪や成立する犯罪,裁判官の心証を分ける場合があります。
 きちんと弁解すれば無罪or軽い処罰で済んだのに,その時弁解しなかったのだから信用できないと判断されてしまうケースも珍しくありません。
 挙証責任が検察にあるにしても,「検察側によって一定の立証がなされれば,その先は弁護側から何らかの弁解を出さない限りそのまま有罪になる」というケースは確実に存在するのです。 
 
 例えば食い逃げで捕まった場合も,食事した後に財布忘れに気づいて逃げただけなら,実は罪にはなりません。
 自転車の一時拝借なども,本当に一時拝借にとどまるのであれば罪にはならない場合があります。
 他人の物を持って出てしまったのは事実だが,間違って他人のものを自分のものと間違え持って出てしまっただけで盗むつもりではなかった,というようなケースも罪にはなりません。


 ところが,「財布忘れでも食い逃げになるんだ」「自分が他人の物を持って出てしまったのは事実なんだから自分は犯罪者だ」「警察に捕まったということは自分のあれは犯罪だったんだ」
と思ってしまい、はいやりましたとだけ答えてしまうような方は意外にいます。
 ましてや,その知識に基づいて自分の身を護る,と言うことは不可能でしょう。一般の方はそういった刑事法の知識に詳しくないからこそ,弁護士という有資格者が弁護人になっているのです。

知的な能力に問題のある被疑者も多い!


 更には,少年であったり知的な能力に問題があるなどで,「A?」と問われれば「A」と答え,「B?」と答えると「B」と答えてしまうような人たちもいます。別に知的な能力に全く問題のなさそうな大人の被疑者・被告人ですら,「警察がそういうんならそうなんだと思います」とか調書に書いてあること,珍しくも何ともありません。

 つまり,警察に話していることも「警察がAと聞いたからAと答えているだけで,本当に警察の言っているAという前提は正しいのか?あるいはこうした弁解については警察から聞かれていないのでは?」と疑うべきケースもあります。本当はしっかり聞いているのだとしても,弁護人は取り調べに立ち会えないし,そういう被疑者の場合弁護人の質問にすらきちんと答えられていない可能性もあるので,そこは疑ってかかるしかないのです。

聞き出すことも弁護人のお仕事



 こんな風に,犯罪の成否を分ける重要な事実について,出すべき弁解を持っているにもかかわらず,本人がその価値に気づいていないために言わない。
 知的な能力に問題があるため出せない。

 ​そういった事態を避けるためには,弁護人は被疑者・被告人から有効になりそうな弁解に当たりをつけて聞き出すことが必要になります。​弁解を聞いてみて,もしやと思ったら突っ込んで聞きだす。聞き出した結果として,「それは大事な弁解だから取り調べや裁判できちんと話すように。話しておいてくれれば,後になって突然降ってわいた弁解として信用できないなどと言われる可能性を減らせる。」「警察はきちんと事情を聴いていないようなので,ねじ曲がった調書ができてしまうと後で大事になる。これ以降の取調べには応じず黙秘するように」というような戦術を伝授するケースも当然に考えられるのです。

 傍から見れば,​弁護士と話した途端に弁解が出て来るという形式になるので,入れ知恵と考えられるのは仕方のない面もあるでしょう。​


悪用リスクは刑事裁判の宿命



 もちろん,それによって被疑者・被告人の中には

 ​「そうか,この弁護士のこの言い分に従えば無罪になるなら,(実は違うのだけど)それに賭けてみようか」​

と考える不届き者が現れてしまうかもしれません。

 被疑者・被告人の事件当時の記憶が曖昧であったような場合「もしかしたら自分はそういう風に考えていたのかも・・・」というように,意図せず間違った方向に自分の記憶が変わってしまうことも考えられます。(目撃者などによる誤った証言による冤罪事件は,こうした供述の誘導が深刻な問題です)

 後になって弁護人が検察の揃えた証拠を見て「やっぱり検察の主張の方が正しかったのでは・・・」と考えたとしても,被疑者・被告人がすでにその弁解を固めてしまえば弁護人として握りつぶすことはできません。捜査段階では,弁護人は検察の整えている証拠を閲覧できず、嘘だったとしても嘘であるか確認する方法がないため、目の前の被疑者に同調するしかないことに注意が必要です。
 そうすると,弁護士のアドバイスの結果として,今まで認めていた被告人がインチキな弁解を出し始めてしまうということもあり得ると言えます。
 もちろん弁護人としてもそうならないように気を付けはしますし,黙秘は勧めても「意図的に嘘の弁解をしろ」と指示する弁護人はいないのではないかと思いますが,弁護人が知恵をつけた結果,被疑者被告人が意図的に,場合によって意図せず間違った弁解のきっかけとなってしまう可能性を排除することは不可能と言ってもいいでしょう。

 弁護人が言わせた弁解を主張するというのは,ある意味でマッチポンプな側面も否定できません。
 しかし,そうしないと本来無罪の人が,無知で弁解がまずかったがゆえに有罪になってしまう可能性が当然に考えられる訳です。無実の人間を罰しないためには,そうやって弁解を引き出すことによるリスクや不便はやむを得ません。
 仮に弁護人がその観点から聴取し、間違った弁解を始めさせてしまったとしても,その場合には「検察が間違った弁解をつぶせるほどの証拠や論理を準備する義務がある」というのが日本の刑事裁判のルールであると考えて割り切る必要があると考えます。
 また真犯人が不届きな考えを抱いてインチキな弁解を始め,それによって自爆したとしても、それは真犯人の自己責任の側面と割り切らざるをえないと考えています。





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最終更新日  2018年01月26日 13時59分15秒
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