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烏天日乗 [全110件](旧「ハリハリ資料室」001「ハリネズミとは?」後半部より改稿) ■ ハリネズミとは? ■ ・科と種 哺乳類の真無盲腸目 Eulipotyphla (食虫目 Insectivora ) ハリネズミ科 Family Erinaceidae は,ハリネズミ亜科 Subfamily Erinaceinae とジムヌラ亜科 Subfamily Hylomyinae に分かれる。ハリネズミとは,ハリネズミ亜科に分類される動物のことである。ジムヌラ亜科に属するジムヌラ(ムーンラット)は,東南アジアに分布する,ハリネズミと近縁の動物だが,針が未発達で,ハリネズミのように全身針だらけではない。 現生のハリネズミ亜科14種は,かつては4属に分類されていた。現在は5属に分けられるが,この14種のうち,一般によく親しまれているものは,数種に限られる。 ヨーロッパでよく知られているのは,どこかタヌキっぽい顔立ちをしたナミハリネズミ(ヨーロッパハリネズミ)West European hedgehog (学名 Erinaceus europaeus )である。西ヨーロッパでは人家近くにも棲息するので,人々によく親しまれている動物である。絵本に登場したり,ぬいぐるみになっているのも,多くはこのナミハリネズミである。 東アジアに棲むマンシュウハリネズミ Manchurian hedgehog (学名 Erinaceus amurensis )は,ナミハリネズミと同じハリネズミ属 Erinaceus に属し,ユーラシアの西端と東端に分布域が分かれているにもかかわらず,外見上もほとんど区別がつかない。人間の手によって持ち込まれたものが日本各地で野生化し,「侵略的外来種」として問題になっているものは,この種であると思われる。 一方,ペットショップで「ピグミーヘッジホッグ」等の名で売られている小型のブリーディング種は,アフリカハリネズミ属 Atelerix のヨツユビハリネズミ A. albiventris という種だ。本来はアフリカの砂漠地帯に暮らす種である。日本で個人が飼育しているハリネズミは,ほとんどがこの種であると考えて間違いない。 ほかには,大きな耳が愛嬌を感じさせる,オオミミハリネズミ属 Hemiechinus のオオミミハリネズミ H. auritus もペットとして出回っており,画像なども,ヨツユビハリネズミについでよく見られる。 ・ 形状と習性 ハリネズミの特徴と言えば,何と言っても背中一面を覆う針である。 危機に際しては体を丸めて頭と四肢を隠してしまい,全身の針を立てて身を守る。針の長さは2~3センチ弱である。 体長は種によって異なるが,西ヨーロッパに分布するナミハリネズミで20~30センチ,ペットショップでよく見られるヨツユビハリネズミで14~21センチになる。 丸まった状態で,体を揺する程度のことはできるが,自分の力で長い距離を転がることはできない。また,その針で敵を攻撃するなどということもまずない。 昆虫やミミズ,ナメクジなどを主に食べるが,他の多くの食虫類とは異なり,植物質のものも口にする。 寒い地方では冬眠するが,乾燥地帯に棲むものには,夏に夏眠をする習性がある。 ・分布 14種のハリネズミは,ユーラシアとアフリカ--具体的に言えば,朝鮮半島・中国を含む東アジアから中央・東南アジアを経て中東地域までのアジア,さらに西はブリテン諸島,南は南アフリカに至るヨーロッパ・アフリカ大陸,要するに,シベリアを除く旧大陸ほぼ全域にわたって分布する。一方,南北アメリカ大陸やオーストラリアには自然分布しない。 森林や草原,乾燥地帯のほか,分布地域の多くでは,人家の近くにも棲息し,身近な小動物として親しまれている。 上記のように,中国・朝鮮半島に分布する一方で,日本には,先史時代の化石は発見されているものの,現在は自然分布しない。だが,一部地域では,静岡県の伊豆地方や神奈川県の小田原市などいくつかの地域で,ペットとして輸入されたマンシュウハリネズミの帰化が報告されており,それらの地域では,人家の近くでも野生化したハリネズミの姿が見られることがあるが,国や地方自治体によって,駆除が進められている。また,ニュージーランドにも,人為的に放されたナミハリネズミが定着している。 ・人とのかかわり ヨーロッパでは,ハリネズミはウサギなどと同様のありふれた小動物で,絵本や物語にもしばしば登場する。 そのわりに,たいていの場合は人畜無害な小動物として,あまり関心を払われてこなかったようだ。ほぼ唯一の例外は,ロマ(いわゆるジプシー)の人々で,彼らはある種のシンパシーと思い入れをもって,ハリネズミを愛するとともに,彼らを特別のご馳走として,食膳にも供してきた。ヨーロッパのハリネズミは,街中では道路の横断中に車に轢かれるようなことも多く,最近では,自然保護に関心の高い英国やドイツで,要保護動物として注目されている。 日本では,1990年代後半あたりからか,ハムスターを中心とする“ネズミ系”人気の高まりの中で,ペットショップなどでも普通に見られるようになり,飼っている人もそれほど珍しくはなくなっている。同時に,テレビCM等やさまざまなグッズの意匠にも,しばしばハリネズミの姿が見られるようになってきている。 (2001.09.18. 最終推敲:2011.06.29.)
(旧「ハリハリ資料室」001「ハリネズミとは?」前半部より改稿) ■ 真無盲腸類について - ハリネズミは何のなかまか - 3/3 ■ さて,「原始的な食虫性の小型哺乳類のグループ」として位置づけられた「食虫類」だが,研究が進むにつれて,何度もメンバー・チェンジを余儀なくされた。もともと,進化の系統についての仮説よりは,外面的な形態や生態の単純な類似性によって,1つにまとめれたグループであったから,当然と言えば当然のことである。その過程で,「食虫目」の正式名称が「無盲腸目」になったりもしたのだが,このあたりはなかなか煩雑なので,Wikipedia の「モグラ目」の項目に譲りたい(誰かそれなりに専門的な知識のある人がまとめてくれたらしく,なかなか立派な内容となっている。僕あたりでは,とてもああはいかない)。 ともあれ,20世紀後半になると,「食虫目/無盲腸目」は,メジャー・メンバーとしてはモグラ類・トガリネズミ類・ハリネズミ類,マイナー・メンバーとしてはキンモグラ類・テンレック類・ソレノドン類,3科×2で計6科の現生哺乳類からなるグループとなっていた。しかしこのグループは,その後,解体されることになってしまったのである。 実は20世紀と21世紀の変わり目のころには,食虫目に限らず,哺乳類の「目」そのものの一部が,大きく組み替えらている。一例として,「鯨偶蹄目(げいぐうていもく/くじらぐうていもく)」という新たなグループの成立を挙げることができるだろう。ウシやヤギ,カバ,イノシシなどからなる「偶蹄目」と,クジラやイルカの仲間である「鯨目」が,一つの目にまとめられ,「鯨偶蹄目」となったのだ。これは,偶蹄目の中心グループに属するウシなどの動物から見たときに,同じ偶蹄類のカバなどよりも,別の目に分類されていたクジラ類の方が,系統的にはむしろ近縁であることがわかり(この発見は,日本のある研究グループによるものだ),「偶蹄目」というグループが,系統分類学上,意味を持たない概念となってしまったためである。 分子生物学が哺乳類の研究にもたらした,最も大きな知見の一つは,現生哺乳類のうち,ハリモグラなどの「単孔類」・カンガルーやコアラなどの「有袋類」のグループを除いた「真獣類」(=胎盤をもつ哺乳類)と呼ばれる最大グループが,進化系統的に見ると,大きく4つのグループに分けられることを明らかにしたことだろう。ゾウ類などの「アフリカ獣類」,アルマジロなどの「異節類」,齧歯類や霊長類などを含む「真主齧類」,そして,食肉類や偶蹄類・鯨類などを含む「ローラシア獣類」の4つである。 この4つの系統グループは,もともとは「パンゲア」という一つの超大陸にまとまっていた地球上の陸地が,その後,大陸移動によってバラバラに分かれていった際に,各大陸塊に別れ別れになった哺乳類たちが,それぞれ独自の進化を遂げたために生まれたものと考えられている。 この新しい「4大グループ」の概念によって,息の根を止められることになったのが,他ならぬ我らが「食虫目」というグループだった。何しろ,「食虫目」を構成する6つのグループのうち,トガリネズミ科・モグラ科・ハリネズミ科・ソレノドン科の4つは「ローラシア獣類」,現在もアフリカを生息域とするテンレック科・キンモグラ科は「アフリカ獣類」と,別々のグループに属することがわかったからである。進化上の系統が異なる以上,これら6つのグループが一つの目にまとまることはあり得ない。そこで,アフリカ獣類とされた2グループを「アフリカ食虫目」として分離し,ローラシア獣類とされた残り4グループは「真無盲腸目」としたのである。先に書いたように,「食虫目」はこれより以前に正式名称を「無盲腸目」と変えていたから,「真食虫目」ではなく「真無盲腸目」となったわけだ。 ※ ついでに言えば,この「真~」というタイプの分類名は,ここ最近,特によく見られるようになった。一種,流行りの分類名と言ってもよい。 これは,研究の進展によって新設されたグループ名に,よく見られる名前である。つまり,たとえば仮に「○○類」というグループがあったとして,新たな研究によって,そのうち一部の種が,実は本来,別の系統に属するものであることがわかった,というようなときに(もちろん,「真無盲腸目」はこの例である),それらの“よそ者”を除いた新しいグループを,旧来の「○○類」(この分類名はすでに無効なので,廃止されることになるわけだが)と区別するために,「真○○類」と命名し直すのである。 もう一つのパターンとしては,ある大グループの中の一部が,そのグループだけの独自の特徴を共有し,一つの独立した系統をなしていることがわかったときに,その新しく判明したより狭いグループを「真○○類」とするようなこともある。 なお,上記のWikipedia 「モグラ目」の項によれば,かつて R. Saban (1954) という研究者は,形態を用いた系統学的解析により,「無盲腸目(食虫類)の中ではハリネズミ科が他より離れている」とし,無盲腸目を「ハリネズミ型亜目」(ハリネズミ科)と「トガリネズミ型亜目」(その他全て)に分けた。この旧分類を継承して,「真無盲腸目」を「ハリネズミ目」(ハリネズミ類)と「トガリネズミ目」(トガリネズミ類+モグラ類+ソレノドン類)に分ける考え方が提唱されたことがある(Wilson and Reeder, Mammal Species of the World, the 3rd ed, 2005)。 この考え方によれば,ハリネズミ類は,単独で一つの「目」を構えることになる。つまり,分類上の“格”としては,ハリネズミ類だけで,イヌ,ネコ,イタチ,クマ,アシカなどを含む「食肉目」や,かつての偶蹄類と鯨類を包摂する「鯨偶蹄目」などと“同格”に並ぶことになってしまうのだから,これは言ってみれば,なかなかの“快挙”だった。 だが,残念ながら,この分類は,大きな支持を得るには至らず,今後も認められることはなさそうである。なぜなら,最新の分子系統学的研究によれば,下のような系統関係が示されているからだ(Roca et al. (2004), Mesozoic origin for West Indian insectivores. Nature, vol. 429, pp. 649-651)。 真無盲腸目(現生) = ソレノドン類 + {モグラ類 + (トガリネズミ類 + ハリネズミ類)} つまり,真無盲腸類のグループから,まずソレノドン類が,次いでモグラ類が分岐し,最後にトガリネズミ類とハリネズミ類が分化した,ということである。この研究が正しいとすれば,現生真無盲腸類の中で,他のグループとの共通点の一番少ないのは,ハリネズミではなく,ソレノドン類ということになる。また,ハリネズミ類はトガリネズミ類と「姉妹群」で,最も多くの共通点を持つことになる。ハリネズミが最も特異である,とした Saban の分類は,およそ見当違いということになってしまうのだ。 (2001.09.18. 最終推敲:2011.06.27.) (旧「ハリハリ資料室」001「ハリネズミとは?」前半部より改稿) ■ 真無盲腸類について - ハリネズミは何のなかまか - 2/3 ■ 「真無盲腸目」を構成する残り2つのグループは,モグラ類とトガリネズミ類である。どちらも,ソレノドンとは違って,日本国内に複数の種が分布しているという意味でも,世界的にはさらに多くの種が広い範囲に生息しているという意味でも,立派なメジャー・グループである。しかし,「真無盲腸類」の中で,我々にとって最も身近なものということになると,どうしたってトガリネズミに勝ち目はなく,モグラどんに軍配が上がることになる。現にかつての「食虫目」も,「文部省式カタカナ目名」では,「モグラ目」となっていた。 ※ ここで,「文部省式カタカナ目名」について説明しておく。 かつて,当時の文部省(現在の文部科学省)が,お節介にも生物の「目名」を勝手に“わかりやすく”書き換えようとして,問題になったことがある。哺乳類で言えば,たとえば「食肉目」を「ネコ目」,「偶蹄目」を「ウシ目」という具合に,とにかく身近な生き物の名前で代表させようとしたのだ。そのように名前を改めることを,文部省は各学会に対して(強制力はないものだから)“推奨”したのである。 僕に言わせれば,これは「程度を下げてやれば,愚かな国民どもも喜んで,少しは科学に興味を持つようになるだろう」という,文字通り“人を馬鹿にした”施策であった。その発想は,「少数の計算は難しいので,円周率は『ほぼ3』とする」とか,「台形の面積公式は長くておぼえにくいので,小学校では教えない」とかいった,当時の「ゆとり教育」とも通底するもののように思えてならない。そこには,「課題は難しければ難しいほど嫌われ,易しければ易しいほど歓迎される」という,何ともお粗末な人間観が透けて見える。文部省職員の“教育観”が,この程度の基礎の上に築かれているとすれば,本当に恐ろしいことであると思う。 文部省によるもう一つのお節介施策である「常用漢字」制度から発生したのが,あのみっともない「混ぜ書き」の習慣である(常用漢字が「漢字の全廃」という驚くべき最終目標への途中過程として定められた制度であることは,どの程度知られているのだろう? 「常用漢字」の前身である「当用漢字」は,漢字全廃までの“当”面の間“用”いることにする漢字,ということである。そんなことが本気でやりたいなら,文科省は1か月間ばかり,全文書をかな書き乃至ローマ字書きのみでやりとりする実験を実施してみるといい。その不便,その不合理を,率先して,身を以て体験すればよいのだ)。これによって,「哺乳類」は「ほ乳類」,「爬虫類」は「は虫類」となったし,「齧歯目」は原則として「げっ歯目」と表記されることになった。ついでに言えば,「両棲類」が「両生類」に改められたのも,「棲」の字が常用漢字からもれたためである。 なるほど,「齧歯目」を初見で読めというのは,ちょっと厳しい要求かもしれない。だが,ルビ(ふりがな)をふれば何の問題もないし,わからなければ人に訊いてもいいし,ものの本に当たってみてもよいのだ。それを咎める人は,誰もいないはずである。ところが,「げっ歯目」などという表記にしてしまっては,「げっぱめ」と読んでください,と言っているようなものではないか。嘘だと思ったら,一度「げっぱめ」で検索をかけてみてほしい。いったい何件のヒットがあるか。こんな阿呆らしい誤読を誘導しているのが,他ならぬ我が国の教育・文化の所管省庁なのだから,まったくもって畏れ入るほかはない。お試しついでに,お手許のワープロソフトで「げっしるい」と打ち込んで,変換してみていただきたい。「げっ歯類」は出るが,「齧歯類」は出ないはずだ。なんと,お上によるメーカーへのご親切な「指導」のおかげで,我々は,正しい用字を知る機会そのものを奪われているのである。規制緩和が聞いて呆れる。これを「衆愚政策」と言わずして,何と言えばよいのだろう。 話が逸れたが,「文部省式カタカナ目名」については,Wikipedia の「哺乳類」の項に,僕が以前(あの界隈で尊重されている「中立性」にも,できる限り配慮しながら)執筆した記事が,おおむねそのままの形で残されているので,ここではこれ以上書かない。ただ,僕は自分の文章の中では,旧来の目名を用い,原則として文部省式カタカナ目名は採らないことを,ここに断っておく。 さて,かつての「食虫目」なり,現在の「真無盲腸目」なりを説明する言葉として,最も明快なのは,やはり「モグラのなかま」という一言だろう。実際,この説明は,ウェブ上でもあちこちで見ることができる。これも「文部省式カタカナ目名」の「モグラ目」と同じ発想で,わかりやすく明快に表現したつもりなのだろうが,おかげでかえって,あらぬ勘違いが横行することになってしまった。 つまり,「モグラのなかま」というのは,もちろん「モグラと同じグループ」ということなのだが,迂闊な人や素直すぎる人がこれを見ると,これ即ち「モグラの一種」ということかと思い込んでしまうのだ。実際には,ハリネズミはハリネズミ科,モグラはモグラ科で,同じ目に属してはいても,まぎれもなく別のグループである。普通に考えれば気づきそうなものなのだが,そこが迂闊な人の迂闊な人たる所以であろうか。現にウェブ上でも,「ハリネズミはネズミではなく,モグラです!」なんて,得々として書いてしまっている人が,少なからずある。喩えて言うと,「リスはネズミです」とか,「人間はチンパンジーです」とか,「トラはライオンです」とか,「チワワはセント・バーナードです」とか言うようなもので,実に乱暴極まりない早とちりなのだが,これも,「わかりやすい」表現は,往々にして,まったくわかりやすくない,ということの一例と言ってよいかと思う。 ところで,ハリネズミの属するグループは,なぜ「食虫目」から「真無盲腸目」に変わってしまったのだろうか。それは,それまで一つのグループであると思われていた「食虫目」が,最近になって,実は系統のまったく異なる2つのグループの混成軍であったことがわかり,あらためて「真無盲腸目」と別のグループとに分けられたためである。 哺乳類(に限らないが)の分類について,必ず言っておかなければならないのは,1990年ごろから,つまり,ここ20年ほどの間に,この分野の研究が非常に大きな進展を果たし,分類群についての専門家の考え方が,それまでとはかなり大きく変わってしまった,ということだ。簡単に言えば,遺伝子レベルの研究が進み,現生生物の進化的な系統が,それまでよりもずっと高い正確さで確かめられるようになったのである。 現生哺乳類は,従来,「偶蹄目」「霊長目」「食肉目」など,「目(もく)」と呼ばれる20あまりのグループに分けられていた。哺乳類に限らず,「界」→「綱」→「目」→「科」→「属」→「種」というのが生物を分類するときの基本的な階層で,右に行くほど細かくなり,最小単位は,原則として「種」である。これに,「亜~」「下~」といった“枝”を付けて運用する(「種」の下に「亜種」,その下には「変種」が来る)。「哺乳類」も正式な言い方では「哺乳綱」であり(「~類」というのは,「~のなかま」というほどの意味で,特定の分類階層を指す言葉ではない),「綱」の次に来る分類階層が「目」ということになる。 すでにふれたとおり,ハリネズミが属していたのは「食虫目」で,これは,昆虫類--より正確に言えば,“昆虫類をはじめとする無脊椎動物”(たとえば,ハリネズミが捕食するミミズやナメクジは,いわゆる“ムシ”ではあっても,「昆虫」ではない)--を主な食物とする,比較的原始的な哺乳類のグループである。 現生哺乳類の祖先となった,中生代の“原始的”な哺乳類の哺乳類の多くは,巨大な爬虫類の闊歩する「恐竜の王国」にあって,昆虫類,いや,“昆虫類をはじめとする無脊椎動物”を,言わば夜陰に乗じて,こそこそとあさる生活を送っていた,と考えられる。 哺乳類の大きな特徴である「保温性」は,変温動物が苦手とする「夜間」というニッチ(隙間)を攻略するための,強力な武器であっただろう。ある程度気温が下がると,変温動物の体温もそれに応じて下がり,体を動かすことができなくなってしまうのだ。恒温動物である(大部分の)哺乳類には,その心配がない(例外として,哺乳類の中でもコウモリ類やヤマネなど一部の小動物は,ある程度気温が低下すると体温が下がり,冬眠に入ることが知られている)。 しかし,高い体温を維持するには,多くのエネルギーを要するから,カロリーの高い食料を,絶え間なく摂り続ける必要が生ずる。その難しい条件を可能にしたのが,「昆虫食」という選択であった。昆虫類は,植物質の食料の大部分よりはるかにカロリーの高い動物蛋白である。しかも,地上に存在する「バイオマス」(生体の総量)が非常に大きいので,一旦それに合った生態と形態さえ確立してしまえば,大量摂取も不可能ではない。つまり,やや乱暴に言えば,「食虫類の生態」こそが,中生代という長い雌伏の時代を通して,哺乳類の存続を可能ならしめ,次に来る「哺乳類の時代」を準備した,高度に有効な戦略であったのだ。 なお,中生代のすべての哺乳類が「食虫目」グループに属したわけではないということ,哺乳類に限らず,恐竜をはじめとする主竜類(鳥類もここに含まれる)も,ある程度の恒温性を獲得していたらしいということの2点を,念のため付記しておいた方がよいかもしれない。実のところ「食虫目」は,あくまで原始真獣類に多く見られた特徴を現在まで残した,1つのグループに過ぎない。中生代の哺乳類にも,ムシ類以外の食物,たとえば脊椎動物(恐竜の子供など)を捕食したものがあったことが知られている。また,体温調節は,哺乳類の得意分野ではあっても,専売特許というわけではない。(続く) (2001.09.18. 最終推敲:2011.06.27.) (旧「ハリハリ資料室」001「ハリネズミとは?」前半部より改稿) ■ 真無盲腸類について - ハリネズミは何のなかまか - 1/3 ■ まず,これだけははっきりさせておこう。 「ハリネズミは,ネ ズ ミ の 仲 間 で は な い 」 もう一つ,明言しておかなければいけないことがある。 「ハリネズミは,モ グ ラ の 一 種 で も な い 」 読者諸賢におかれては,何を措いてもこの2点だけは,くれぐれもしっかりと弁えておいていただきたい。これら2点は,我々があまりにも頻々と目にする,ハリネズミに関する悲しい誤解に対する,真摯なる異議申し立てなのだ。 順に見ていこう。まずはネズミについてだが,彼らは昔から,「齧歯目(げっしもく) Rodent 」というグループに分類されてきた。門歯(前歯)が一生伸び続けるので,絶えず何か硬いものを齧り続けていなければならない動物のグループである。もしも齧るものが見つからなければ,伸びきった前歯が下あごにつっかえて口が閉じられなくなり,ものが食べられなくなってしまう。不便なことだと思われるかもしれないが,食性の関係で,いつも硬いものを齧っているという生態をもつ動物にとっては,こうした歯は,むしろ都合がいいと考えられる。歯というのは,硬いようでも,使っていくうちにどんどん磨り減っていくものだ。かつて,馬を商う者は,馬の口の中を調べて,歯のすり減り具合からその年齢を知ったという。草食動物である馬にしてそうだから,ネズミのように硬いものばかり齧っていると,摩滅していつかはなくなってしまうはずだ(なるほど齧歯類の寿命は,大して長くはないが,体が小さい分,歯そのものもひどく小さいのだということを忘れてはいけない)。歯がなくなってしまえば,ものが食べられなくなるわけだから,その個体は飢え死にしてしまうしかない。歯が伸び続ける,というのは,ネコ類の爪と同じで,それを必要とする生活に対応した特徴であり,紛れもなく自然選択(自然淘汰)の賜物であると言える。ときどき,人家に住まうネズミが,この何万年来の習性に忠実にふるまうことによって,自らの寄食する家の中の電線を齧り,結果,漏電による火事の原因となってしまうのは(このとき,ネズミ自身もたいてい感電死してしまうようだが),ひとえに彼らの生活域にそんな剣呑なものを勝手に設置しておいた人間様の,無精横着不見識によるものであると言える。猫を追うより皿を引け,とは,至言ではないか。 一方,ハリネズミは,かつては「食虫目(しょくちゅうもく) Insectivora 」とされたが,それが解体された後,現在は「真無盲腸目(しん・むもうちょうもく)」というグループに分類されている。旧グループ名からわかるように,主に「ムシ」を食べて生きている。やわらかいムシ類を餌とする以上,その門歯には,一生伸び続ける性質などないし,硬いものを齧り続ける必要も,当然ない。ハリネズミのオーナーさんたちにとっては,わざわざ言われるまでもないことだろう。 つまるところ,「齧歯目」のネズミと,「食虫目」改め「真無盲腸目」のハリネズミは,異なるグループのメンバー同士である。ハリネズミは,ネズミの兄弟でも親戚でも,何でもないのだ。 ※ 齧歯目に属する動物のグループとしては,圧倒的な巨大グループであるネズミ類と比べればはるかに慎ましい小所帯だけれど,ほかにリス類やビーバー類などがある。いずれも,よく目立つ前歯を持った動物たちである。伸び続ける門歯もその一例だが,形態的にも生態的にも,齧歯目は食虫目より,一段階高度な進化を遂げたグループであると言える。 そもそも,我々がネズミを無意識のうちに「小型哺乳類の代表」と考え,ハリネズミやトガリネズミのような,分類学上は別グループに属する動物まで,無頓着に「ネズミ」の名で呼んでいるのは,「家ネズミ」と総称されるドブネズミ・クマネズミ・ハツカネズミの3種が,人家の中にまで生活域を広げ,その結果,我々にとって家畜類の次くらいに“身近な”哺乳類となっていることによるものと言える。 このこと自体,ネズミ類の高度な適応力の一つの現れと言ってよいだろうが,そのような齧歯類の特徴のために,人家の中に侵入して暮らす小器用さなどは持つべくもない,愚直で素朴な食虫類の動物たちにまで「ネズミ」の名が与えられることになったのは,幾分皮肉な話ではある。 もっとも,これは日本語に限った話で,たとえば英語では,ドブネズミやクマネズミは rat,体の小さなハツカネズミは mouse と呼ばれるのに対して,トガリネズミは shrew,ハリネズミは hedgehog(生垣の豚)であって,互いに何の関係もない。 また,「食虫目」よりさらに“原始的”な現生の哺乳類としては,卵を産む唯一の哺乳類である「単孔目」と,卵こそ産まないものの,胎盤をもたず,育児嚢(いくじのう)と呼ばれる袋で子どもを育てる「有袋類」のグループとがある。有袋類は,かつては「有袋目」として一つの「目」と見なされていたが,現在では,「真獣類」と並ぶような,より上位のグループと見なされるようになり(「有袋類」と厳密に同じ意味というわけではないが,現在は「後獣類」というグループ名で呼ばれることも多い),さらにいくつかの「目」に分割されている。 単孔目には,「ハリモグラ」と呼ばれる動物がいる。単孔目のハリモグラは真無盲腸目のモグラの名を騙り,真無盲腸目のハリネズミは齧歯目のネズミを僭称する。思うに,どうも動物たちは,より“原始的”でない,進化の階梯を一段登ったグループの名前で呼ばれたがる傾向があるようだ。もっとも,齧歯目のハリハリ動物である「ヤマアラシ」だけは,何をねらったものやら,皆目見当もつかないのだが。 では,ネズミの仲間でないとすれば,ハリネズミはいったい何の仲間なのだろう? 「真無盲腸目」には,ハリネズミのほかに,トガリネズミ類とモグラ類,それにソレノドン類の,3つのグループが属している。このうち,あとの2つはともかくとして,ソレノドンについては,何やら耳慣れない名前だと思われる向きが多いのではないだろうか。もしかしたら,遠い昔に地上から姿を消してしまった古代生物のような名前だ,と思われるかもしれない。 どっこい,ソレノドンは,カリブ海の西インド諸島で,細々と,わずかに2種だけではあるが,今でも立派に暮らしている,現役の哺乳類である。カリブの海賊たちは,ディズニー映画の中でしか生き残れなかったかもしれないが,ソレノドンたちはまだ滅びてはいないのである。 そもそも,「~オドン -odon 」というのは,ギリシャ語で「~の歯」という意味だ。恐竜の化石というのは,たいていは骨と歯しか残っていない。だから,世界ではじめて化石が発見された恐竜の一つである,由緒正しき「イグアノドン Iguanodon (イグアナの歯)」をはじめ,「~の歯」という名称の恐竜が少なからず生まれているのは,(ユダヤ教やキリスト教の天使の名前が「~エル -el 」(神の~)というものになりやすいのと同じく)無理からぬ話だと思われる。ついでに,特撮番組なんかの「怪獣」の名前にも「~ドン」というものがあるが,これは恐竜の学名からヒントを得たのが半分,語呂で決めたのが半分といったところだろう。 何にせよ,ソレノドンが,動物園でもまずお目にかかれない珍しい動物であるばかりか,たとえ千歳一遇,盲亀浮木の大幸運でもって出会うことができたとしても,3秒で記憶から消えてしまいそうなくらい地味な動物である以上,一般の人にとって馴染みが薄いのは,どうにも仕方のないことだろう。ソレノドンの成獣は実に30センチを超え,体重も1キロほどになるから,「ネズミにしてはえらく大きい」とか,あるいは「鼻先が妙にとんがっている」という程度の印象は与えるだろうが,せいぜいその程度である。 実は,ソレノドン類には一つだけ,一見したところでそれとわかるわけではないが,哺乳類としてはたいへん珍しい特徴がある。それは,毒をもつということだ。「ソレノドン Solenodon 」とは「溝のある歯」という意味である。ソレノドンは唾液に毒を持ち,その毒は門歯にある特殊な溝によって,獲物の体に注入されるのだ。 哺乳類には毒を持つものが珍しく,ソレノドンのほかには,やはり餌を採るために唾液に毒を持つ一部のトガリネズミ(北米に生息するブラリナトガリネズミなど)と,オスの個体が蹴爪に毒腺を持つカモノハシのみであるという。とはいえ,ソレノドン類の毒は,餌とするムシ類の動きを鈍らせるためのもので,人間に対してはほとんど効力をもたないというから,やはり決定的なインパクトという意味では,どうしても見劣りがしてしまう。(続く) ★旧「ハリハリ資料室」記事タイトル一覧(全216項目) 001 ハリネズミとは? [0]ハリネズミの動物誌 002 滅びゆく謎のハリネズミ 003 ねむいねむい はりねずみ 004 これはヤマアラシではない 005 ハリネズミの天敵たち 006 最古のハリハリ動物学 007 ブタの鼻・イヌの鼻 008 東アジアのハリネズミ 009 体内器官 010 “虫食い屋”というグループ [1]ハリネズミの画像 011 ハリネズミのシグネチャ 012 秋山豊英さんの木版画 013 CGハリネズミ大活躍 014 借り物素材集 015 MS的ハリネズミ 016 筆まめ的ハリネズミ 017 衰退の理由 018 ちびギャラリーの 019 へっぽこハリたち 020 ぽたらの木 [1.5]ハリネズミの 図像学・考古学 021 紋章とハリネズミ 022 疑惑のネズミ1号・2号 023 古代エジプトのハリネズミ 024 古ヨーロッパの女神と 025 ハリネズミ土器 026 最古のハリネズミ土器 027 古代の工芸品をゲット! [2]ハリネズミと人間 028 飼育の伝統 029 「イヒ」の効用 030 英国ハリネズミ受難事情 031 元祖・ハリネズミ病院 032 ドイツの森のハリネズミ 033 その他のハリの用途 034 韓国のハリハリ・サイト 035 冷凍・解凍時の諸注意 036 日本に帰化したハリネズミ 037 水戸黄門とハリネズミ 038 ハリネズミを最も愛する民族 039 蛋白源としてのハリネズミ 040 カルトなサイトと呼ばないで [3]ハリネズミ・針鼠・波利禰豆美 041 「くさふ」って何だ? 042 ハリネズミを漢字で書けば 043 各国語の「ハリネズミ」 044 各国語の「ヤマアラシ」と「ウニ」 045 嵐の中のウニ小僧? 046 トンパ文字のハリネズミ 047 ハリネズミと呼ばれるもの 048 ハリネズミと呼ばれる兵器 049 ハリネズミと呼ばれる遺伝子 050 ヘッジホッグと呼ばれる部品 051 ハリネズミ島 052 失敗作・ハリハリ・カー 053 必殺技・ハリネズミ刺し 054 ヘッジホッグと呼ばれる植物 [4]トゲのある登場人物たち 055 ハリハリ本のリスト1 056 ハリハリ本のリスト2(作成中) 057 ハリハリ本のリスト3(作成中) ココロ本 058 トントのセラピー 文学 059 サキによるアンチ怪奇小説 060 帝政ロシアの寓話詩 児童書 061 アルマジロの作り方 062 オギーの成長 063 マックス&ノートン 064 ラッテの冒険 065 ムーミン谷のハリネズミ 066 ハリネズミと森のともだち 067 だれも死なない 068 ティム・ラビットとハリたち 069 舟崎作品のハリネズミたち 070 フクロハリネズミたちの運命 071 北の森のハリネズミ 絵本 072 洗濯屋のティギーおばさん 073 むぎばたけ 074 リトル・グレイ・ラビット 075 しずかな おはなし 076 フォックスウッドものがたり 077 ハンナのすてきな?ホテル 078 帰ってきたケースとケーチェ 079 ミッフィーの本名 080 きりのなかの はりねずみ 081 そらのさんぽ 082 たとえば僕が死んだら 083 バーバモジャの友達 084 朝御飯にはハリネズミさんを 085 てぶくろ付き「てぶくろ」 086 森の仕立屋たち 087 はりこの悩み 088 コッテンの成長 089 ピックルの孤独 090 くるりんの挑戦 091 バーナデットの絵本 092 ヨーロッパの絵本 漫画 093 はりはりハリ太郎 094 怪盗セイント・テール 095 ソファーとハリネズミ ゲーム 096 超音速の青い猫 097 どうぶつの森の仕立て屋姉妹 098 ゲームの中のハリネズミ 映像作品 099 霧につつまれたハリネズミ 100 ストーリー・テラー 101 ミート・ザ・フィーブルズ 102 北朝鮮のアニメーション 103 私立探偵ハリー その他の映像作品 舞台作品 104 トゲトゲ・ノーマンとハリネズミ=タヌキ説 [5]ハリネズミの民俗誌 105 伝統的なイメージ 106 “果物泥棒”として 107 ことわざ・慣用句 108 ハリネズミの日 109 “ヘビ食い”として 110 “瓜盗人”として 111 “ミルク泥棒”として 112 妖精の化身として 113 イソップ寓話 114 グリム・メルヒェン 115 ロシアの民話 116 モンゴルの民話 117 ブルガリアの民話 118 100のトリック 119 ハリネズミとイノシシ 120 ロマ(ジプシー)の民話 121 西アフリカ・ハウサ族の民話? 122 トラとカササギとハリネズミ 123 ゴビ砂漠の俗信 124 モロッコの俗信 [6]ハリネズミのイメージ 125 ハリネズミ族 vs.キツネ族 126 さみしいトゲトゲ屋 127 ハリアラシのジレンマ 128 ハリネズミのような連打 129 “針山状態”のイメージ 130 “つむじ曲がり”と“短髪” 131 “鉄壁防御”のイメージ 132 “家庭主義者”のイメージ 133 “徘徊者”のイメージ [7]ハリネズミ・グッズ 134 ぬいぐるみ・パペット 135 プー with ハリぐるみ on 136 キーチェーン 137 携帯電話カバー 138 プチ丸! 139 出目金ハリネズミ 140 辰年用ハリネズミ 141 クリスタル・ガラス 142 琥珀 143 花山河張り子 144 松かさの民芸品 145 Tシャツ・トレーナー 146 ジャケット 147 スタンプ 148 切手 149 バレンタイン用ハリネズミ 150 チョコチップハリネズミ 151 ハリネズミパン 152 立体デコパージュと 153 ペーパーナプキン 154 カード 155 ペーパーウェイト・ホルダー 156 ゴマ・グッズ 157 卓上ホルダー 158 フェルク&フォルム 159 マグ 160 キンダーサプライズ 161 ドイツのバーチ材引き車 162 フランスの赤い引き車 163 国籍不明の引き車 164 スロープ下りと球落とし 165 レゴベビーのハリ 166 トレジャー・ジェストほか 167 プレイモビル 168 犬・猫用おもちゃ 169 ガーデニング用品 170 アニマルライト 171 ジオラマ用フィギュア 172 その他のグッズ [8]ハリハリ・もの 173 ハリネズミの歌・海外篇 174 ハリハリわらべ歌 175 ハリネズミの歌・国内篇 176 ハリネズミの詩 177 ハリネズミの折り紙 178 ハリネズミのケーキ 179 点心 180 ハリネズミの岩 181 ハリネズミの夢 182 ハリハリ・ジョーク 183 ハリハリの短歌 [9]ハリネズミを探せ! 184 シェイクスピアとハリネズミ 185 チェブとゲーナとハリネズミ 186 旧約聖書のハリネズミ 187 地獄のハリネズミ 188 ゴムあたまポンたろう 189 「三十六禽」とハリネズミ 190 スキャリーおじさんとハリ 191 アリスとハリネズミ 192 プーとウサギとハリネズミ 193 ハリネズミぐるみ 194 ハリ×2 vs. オコジョさん 195 ちびおおかみ 196 ハリー・P氏とハリモドキ 197 リネアと冬眠ハリアラシ 198 サンドパンの正体は? 199 『旅の絵本』のハリ 200 子猫のピッチとハリネズミ 201 砂漠の動物園にて 202 哀愁のバラバラマン 203 ベイブレードのハリネズミ 204 シェーバーの広告 205 営団地下鉄「環境月間」ポスター 206 本箱のハリネズミ 207 『JAF-MATE』の表紙 208 ハリネズミにシャンプーを 209 トヨタ・ノアのCM [10]エトセトラ 210 ハリハリを漬けよう 211 ハリハリを煮よう 212 ハリハリサラダ 213 ハリハリを張ろう 214 ハリハリを名乗ろう 215 ハリアラシ問題 216 アブナい動物 ★「ハリハリ資料室」本館 閉鎖のお知らせ 長らくご愛顧いただきました「ハリハリ資料室」ですが,諸事情により,この6月をもって閉室いたしました。 画像ファイルについては修復の方途もありませんが,テキストにつきましては,逐次,本分室にて不定期に再掲していく予定です。 どなたから要望があるという訳でもなく,かつての本館の活動と同様,完全に自己満足のみを目的とした活動ではありますが,どうぞよろしくお願いいたします。
◆救われない話を書く作家がいる,という同僚の栗林先生(読書はもっぱら恋愛小説が専門)の話に興味を示したら,翌日,何冊か持ってきてくれた。 作家の名前は,本多孝好。とりあえず読み始めたのは,『真夜中の五分前』。 恋愛小説で,主人公は仕事ができて異性にもモテモテの,広告代理店の切れ者社員…… とくると,もうそれだけで読む気など薬にするほどもなくなってしまうはずなのだが,そんなことに気づいたのは,かなり読み進めてからのことで,困ったことに,これがすこぶる面白い。もしかしたら,このままこの作家のファンになってしまうかも。実に困ったことだ。 新潮文庫版・上巻,p.53とp.55に,ハリネズミ・レトリックが登場する。 「僕は成田さんの口が吐く煙草の煙と酒の匂いと繰言とにうんざりしながら、二人がセックスするするシーンを思い浮かべようとしたが。が、うまくいかなかった。鯨とハリネズミの交尾のほうがまだ想像できそうだった。 『俺たちは愛し合ってるんだ』と成田さんは言った。 確かに僕も、それ以外に原祥子が成田さんと付き合う理由なんて思い浮かばなかった。(p.53)」 「(前略)そう説明したところで、そんなもの周囲が納得するためのものでしかなくて、そんな理由で人は人と寝たりしない。ハリネズミだって、そんな理由では鯨と寝たりしない。 『たぶん、愛していたからでしょう』と僕は言った。 『愛?』 長内課長は繰り返して、白けた顔で僕を眺めた。 『愛です』と僕は頷いた。 『愛か』 『愛でしょうね』 小さなため息をついて、長内課長はぼやいた。 『君らの世代の冗談は、時々わかりにくくて困るよ』 『すみません』と僕は言った。」 この,さりげない毒。絶妙だ。 もう一つ,p.88には,「メランコリイ入門」向けの言葉も。 「『でも、遺伝子にそんな深い意味なんてあるのかな? 猿と人は遺伝子的にはほとんど同じなんだよね? 五パーセントくらいの違いだっけ? でも、猿は猿で、人は人だ』 『そうですか?』とかすみさんは眉をひそめた。『あなたの周りに、五パーセント以上、猿と区別のつく人がどれくらいいます?』」 |一覧| |
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