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第294回 バフェット・ルール… (そのほか)楽天ブログ 【ケータイで見る】 【ログイン】

ウォール街からの日記

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2012年04月16日 楽天プロフィール Add to Google XML

第294回 バフェット・ルール

昨年8月NYタイムズ紙に、著名投資家であるウォーレン・バフェット氏の「大金持ちを甘やかすのはやめよう」という寄稿が掲載されました。簡単に内 容を要約すると、バフェット氏個人の所得税率は17.4%で、33-41%である社内の誰よりも低い、議会が10年間で少なくとも1.5兆ドルの財政赤字 を削減しないといけない時に大金持ちを甘やかしている場合ではない、所得100万ドル以上及び1,000万ドル以上の者に対する税率の即時引き上げを提案 する、といった内容です。

この寄稿は多くの反響を呼びました。一見「税金など金持ちに払わせておけばいい」と考える人に対しては政治的に受けが良さそうに見えますが、アメリ カでの反応は複雑です。批判的な内容としては、「世界3位の富豪であるバフェット氏が17%しか納税していないのはけしからん」「そう思うのなら自主的に 追加納税すればいい、他人を巻き込むな」「既に莫大な資産を築いた人が、これから築こうとする人のチャンスを奪おうとしている」といったところでしょう。 一方でオバマ大統領をはじめとする民主党は全面的にこの提案をサポート、所得100万ドル以上の人に最低30%の税率を課す事を選挙の公約に掲げていま す。

バフェット氏の税率は17%なのは、2003年のブッシュ減税で、1年以上保有している証券等に対するキャピタルゲイン税率が15%に引き下げられ た事が影響しています。現在アメリカの連邦最高所得税率は35%ですが、キャピタルゲインが殆どであるバフェット氏の税率はこの15%に限りなく近付いて いるという事です。

ここで一度、2003年にキャピタルゲイン税率が引き下げられた背景を振り返ってみたいと思います。多くの方がご存知ないかもしれませんが、実は当 時のキャピタルゲイン税率が引き下げには、実は2001-2年にかけて大きな問題になった不正会計問題が影響しているのです。2002年以前は、企業が資 金を調達したい場合、社債で調達すればその利子は企業レベルで損金計上、投資家レベルで最高38.6%の税率が課せられていました。一方で株式で調達した 場合、企業の利益は法人税で35%課され、投資家レベルで(キャピタルゲイン又は配当課税の形で)20%課されていたのです。要すれば、社債だと税金は合 計38.6%、株式だと48%(1-0.65X0.8)なので、税勘案後の企業の負担は社債の方が軽かったという事になります。

エンロンやワールドコムのような不正会計問題が多発したのはこのように、株式によりも、借入れによる調達が税制上優遇されていたために、企業が借入 れを積極化させた事が一因と見られました。実際業績が行き詰まり、借金返済に困った挙句不正会計に走った企業が殆どでした。2003年ブッシュ減税でキャ ピタルゲイン税率及び配当税率が引き下げられたのは、この借入れと株式の間の税制上の不公平を緩和し、不正会計のような問題の再発を防止する狙いがあった のです。

なのでバフェット氏の所得税率が17%といっても、それを額面通りに受け取るのは誤りです。バフェット氏が資本を投じる事によってその企業に利益が (もちろん新規の雇用も)生まれ、間接的にバフェット氏は法人税の形で35%を納めているのですから、実質的な税負担は46%(1-0.65X0.83) という事になります。そもそもバフェット氏がそのような投資を行っていなければ、アメリカ政府は法人税の35%も所得税の17%も得られていないのです。 それどころか、その事業に伴う雇用も創出されていなかった事になります。ですので、ここで本当に考えないといけないのは、今後次世代のバフェット氏がこの ような投資を実行するという判断が出来るように、税制上の環境を整備しておかなければならない、という事なのです。

どこの国でも多かれ少なかれ、税収の多寡は経済成長に大きく依存しています。学生さん等から「経済成長が何故必要なのか」という質問をよく受けます が、今日本で問題になっている、年金も医療も介護も経済が成長しないと維持不可能な仕組みになっているのです。メディアが取り上げる財政問題でよくあるの は「お金は要る、しかし財源がない、さてどうしよう」で終わるパターンです。それなら何故、最初から経済成長に焦点を当てないのか、私はいつも疑問に思っ ています。税金の集め方も、より経済成長につながる形である事が重要であると思っています。そのためには資本主義社会において景気が悪い時、又は財政を再 建しないといけない時は、資本の金融緩和第277回 資本の金融緩和(2011年2月4日)は最優先課題でなければならないはずだと思います。

そういう意味では、もしバフェット・ルール(所得100万ドル以上の人に最低30%の税率を課す)を採用し、かつ「次世代のバフェット氏」の投資を 妨げないようにするには、法人税の引き下げが不可欠という事になります。現行の法人税率は35%、キャピタルゲイン税率は15%なので株式に対する合計税 率は45%(1-0.65X0.85)。これを変えないようにするだけで、法人税率は21%(1-0.65X0.85/0.7)に引き下げられなければな らないという事になります。そうでなければバフェット・ルールは資本に対する実質増税になり、税収増を狙ったつもりが、実は投資抑制を通じて雇用や税収減 につながる事になりかねないのです。

11月の大統領選挙に向けては、オバマ大統領、ロムニー候補共に法人税率引き下げを提唱しているので、何らかの税率引き下げは実現しそうです。ただ 法人税率とキャピタルゲイン・配当税率を総合した実質の資本税率は選挙の行方によって大きく異なる事になるでしょう。そしてそれは、その後のアメリカの経 済成長、延いては財政再建の道のりに大きく影響を与える事になりそうです。

(2012年4月13日記)



最終更新日  2012年04月28日 10時53分19秒


2012年03月01日

第293回 2012年米国経済・株式相場の見通し(3)

これは去る1月28日、横浜にて開催された楽天証券新春講演会2012で講演させていただいた内容を要約したものです。

私が今年最も魅力的と見ている第三の投資対象は金です。我々が運用するファンドでは2009年春、初めて金への投資に踏み切りました。当時、金価格は1,000ドルに乗せる手前でした。当時金への投資に踏み切った理由は当コラムにも書きましたのでご参照下さい。

第251回 金への投資(2009年10月9日)

当時アメリカはデフレを乗り越えるため、ドルを印刷して財政出動していました(具体的には財政出動に伴う国債増発分をFRBが購入し、対価であるド ルを供給)。これによってドルの価値が下落する事は容易に予想できましたが、果たしてどうすればそのリスクをヘッジできるか。我々が考えた選択肢は「ド ル・円を売る」か、「金を買う」か、でした。では何故、「ドル・円を売る」選択肢を選ばなかったか? それは日本の財政状況が悪かったからです。

自国通貨を発行している国は国債の返済に困ったとしても、いざとなったら投資家に自国通貨を渡せば解決します。日本のようにあれだけ中央銀行が頑な な国であっても、最後の最後デフォルトか通貨印刷か、と究極の選択を迫られたら通貨印刷を選ぶでしょう。そこまで行かなくても、円高・デフレがこれだけ日 本経済を傷め、一日100人近くもの自殺者が出ている最も大きな理由が経済状況という中で、いつまでも日本だけ量的緩和に二の足を踏み続けると考えるのは 不自然です(実際この講演から約1カ月後の2月下旬、日本銀行は初めて物価目標の設定を発表しました)。

要するに、状況によって人類が自由に発行できてしまう通貨ではヘッジにならない、というのが我々の出した結論でした。結果的にあれから円はドルに対 して17%上昇、一方で金価格は77%上昇していますから、この選択は正しかったという事になります。それではこの先はどうでしょうか? 引き続き金は魅 力的な投資対象だと考えています。何故なら世界的な財政の悪化(=通貨が印刷されやすい状況)はまだまだ継続中であるからです。

とりわけ注目に値するのは欧州の状況です。これまで欧州はその債務危機に対して、大袈裟な発表、問題先送り、遅い対応、隠蔽体質と、出来るだけカネがかからないように済ませたいという魂胆が見え見えの対応を繰り返してきました(第287回 「大き過ぎて潰せない」再び(2011年9月26日)参照)。メルケル首相とサルコジ大統領が会談というニュースだけでマーケットは反発、大袈裟な声明発表でしばらく時間は稼げるものの、具体性、実現性に欠けるものである事が明らかになるにつれ問題がさらに悪化していく、というサイクルを何度も繰り返してきました。

しかし去年11月、ECBにドラギ総裁が就任した事によって変化が見られるようになりました。私は欧州債務問題は大きく、財政か金融か、又はその組 み合わせで解決するしかないと考えています。これまでECBの姿勢は通貨の信認維持が最優先で、債務問題の解決には極めて消極的でした。しかしドラギ総裁 が就任してからECBはいきなり政策金利を引き下げ。翌月には金利1%で3年物資金を無制限供給という大胆な策を打ち出したのです。この資金供給は2月末 にも実施される予定です。

今後状況が悪化すれば、条件を緩和する事によってさらにこの資金供給を拡大する事も可能です。金利を引き下げる事もできますし、期間や満期を延長す る事もできます。ECBは担保要件をシングルA以上としていますが、これをトリプルBに引き下げる事も可能です。欧州債務危機が改善に向かうまで、この財 政の問題を、金融でサポートしようという訳です。ドラギ総裁就任によって明らかに金融面でのサポートが大きくなったと言えます。

3年とはいえ、この間はユーロが印刷されている状態になります。そう、2009年のアメリカ同様、債務問題解決のために欧州も通貨印刷を積極化し始 めているのです。ただ、欧州債務危機が既にユーロ下落要因でしたから、問題解決のための通貨印刷であればユーロ下落要因にはならないかもしれません。アメ リカもまだQE3(第三弾量的緩和)実施の可能性がありますし、日本もいつまでも何もしない事はないでしょう。こうして考えると、世界的に人類が自由に発 行できてしまう通貨の価値が実質的に下落していく状況に、まだまだ変化はないと考えるのが自然です。

金価格は株価指数や為替と違い、かなり大きな動きをします。1,000ドルから1,900ドルに上昇し、その後1,500ドル台まで下落した後 1,700台ドルという変動に耐えられないという方もいらっしゃるでしょう。しかし金の価格変動というのはそんなものです。金に投資するのであれば予め、 短期間に200-300ドル動いても気にならないくらいの覚悟が必要だと思います。重要なのはそういった目先の値動きではなく、世界的に悪化している財政 状況に改善傾向が見えてくるかどうかという事なのです。

(2012年1月28日横浜にて)



最終更新日  2012年04月28日 10時52分02秒

2012年02月17日

第292回 2012年米国経済・株式相場の見通し(2)

これは去る1月28日、横浜にて開催された楽天証券新春講演会2012で講演させていただいた内容を要約したものです。

金融危機は2007年7月に始まりました。住宅価格の下落をきっかけに証券化商品など様々な資産の価格下落が顕在化してきました。資産の価値は減少しても負債の価値は減少してくれませんから、その差額である自己資本はどんどん減少していったのです。そして資産に対する負債の比率が高い、即ちレバレッジの高い主体ほど自己資本が減少するスピードが速く、破綻が訪れていきました。

金融危機が始まって、最も早く破綻、又はそれに近い状態に陥ったのは、2007年にこのコラムでも数回にわたって取り上げたモノライン(金融保証会社)で、レバレッジは100倍以上でした。次に50-60倍の政府系住宅金融機関、リーマンを含む30-40倍の大手証券会社、10-20倍の銀行へ、次々と破綻が連鎖していきました。しかし政府としては、銀行といういわば公的使命をも負っている主体までも放ったらかしにしておくわけにはいきません。そこでようやく政府が重い腰を上げ、大手金融機関に対して、税金負担となる公的資金注入に踏み切ったのです。

当然の事ながら、これは負担が政府に移っただけの話なので、今度は政府にリスクが飛び火します。このコラムでも再三にわたってこのリスクを指摘してきましたが、遂に2011年夏、欧州債務危機やアメリカ国債のトリプルA喪失によってこれらの予想が現実のものとなりました。ここまではこれまで私のコラムや講演をお聴きくださった方はご理解いただいていると思います。問題はここから何が起こるか、という事です。

実はこの政府のリスク、即ちソブリンリスクが大きな問題になるのは多くの場合、金融危機が最終局面に来ている時なのです。当社(ホリコ・キャピタル)にはこれまで世界で起きた数多くの金融ショックを洗い出し、その後どのような経路で景気が回復してきたかを調査した資料があります。その資料によると、金融ショックが起こった後のパターンは概ね下記の通りです。

景気が後退します。すると民間部門が債務圧縮にかかります。それが極限に達すると政府部門が景気対策なり公的資金注入等を行うので、公的債務は増え続け、やがてソブリン危機に発展します。しかし多くの場合、その頃既に景気は回復の兆しを見せ始めており、民間部門も債務圧縮を控えるようになっています。景気回復と共に民間部門はむしろ積極姿勢に転じ、税収も回復する結果公的債務は徐々に減少していきます。

このパターンの中で、株式投資に最も望ましいのはどのタイミングでしょう? 景気回復の兆しが見え始めている時、というのは明らかだと思います。(講演の)前日、アメリカの昨年10-12月期のGDPが+2.8%と発表されました。これは1年半ぶりの高水準です。政府部門のマイナス0.9%がなければ+3.7%となり、民間部門は既に景気回復局面に入っていると見て良いと思います。一方でニュースでは連日「ソブリン危機」の報道。これは典型的に、株式投資に踏み切るべきタイミングなのです。即ち、景気回復の初期にソブリン危機が騒がれているのは当然の事であり、株式投資を躊躇う理由になってはいけない、ソブリン危機にだまされてはいけない、という事です。

景気回復の証拠は他にも観測できます。今回の金融危機は住宅価格の下落から始まったわけですが、その住宅市場に最近底打ちの兆しが見られます。私は住宅関連指標の中でも最も先行性の高い住宅市場指数を重視しているのですが、この住宅市場指数がここ4カ月連続で上昇、既に2007年夏金融危機が始まる前の水準にまで回復しているのです。先行性が高い分、実際の住宅指標に回復が反映されてくるのは時間がかかると見られますが、今年が住宅市場底打ちの年となる可能性は高まっていると言えます。住宅市場が回復すれば一連の金融危機は終わりです。

それでは株価の水準はどうか? アメリカの主要株価指数であるS&P500指数はまだ、12年前とほぼ同じ水準です。その間、利益はほぼ2.5倍になっていますから、バリュエーションは当時よりもずっと割安と言えます。さらにドル・円は当時よりも30%ほど円高になっていますから、日本の人にとってはかなり有利な条件でアメリカ株に投資できる状況が提供されているのです。現在、S&P500指数の配当利回りは10年物国債の利回りをやや上回っています。これは金融危機の時以外には見られなかった現象です。アメリカ企業の業績は堅調なので配当は安泰、FRBは2014年後半まで低金利維持を表明している訳ですから、この現象が解消するには株式が上昇するしかないのです。

従って私が今年最も魅力的と見ている投資対象は第一に、最初にお話させていただいたドル・円。そして第二はアメリカ株なのです。

(2012年1月28日横浜にて)



最終更新日  2012年03月12日 09時42分17秒

2012年02月07日

第291回 2012年米国経済・株式相場の見通し(1)

これは去る1月28日、横浜にて開催された楽天証券新春講演会2012で講演させていただいた内容を要約したものです。

投資において最も大きなチャンスが提供されるのは相場が転換する時です。株式、債券、為替、商品など様々な金融商品の中で、今年はドル・円に最も大きなチャンスが訪れる、即ち相場の転換点が近付いていると考えています。そこで今回は最初に、ドル・円の見通しについてお話させていただきたいと思います。

近年、ドル・円相場は概ね日米の2年物国債の利回り差に連動するような動きをしてきました。しかし金融危機をきっかけにドル金利もほぼゼロに張り付くようになり、以降利回り差という指標が役に立たなくなりました。そこで2年前にこの講演会でご覧いただいたのがマネー供給量の日米欧の比較です。金融危機以降、アメリカやヨーロッパがM1を20%前後増やしてきたのに対し、日本は殆ど増やさなかった。これでは円高が進むのは当然です。金融危機前のドル・円が123円。そこからアメリカはM1を46%増加させた一方、日本はたったの7%。ほぼこの差(39%)分だけ円高が進行しているのです(123×(1-0.39)=75.03)。

特に2010年8月末、ジャクソンホールでバーナンキFRB議長がQE2(第二弾量的金融緩和)を表明した時、政府・日銀の関係者一行はその場に居たはずです。QE2施行をきっかけにさらにマネー供給量の差は拡大したわけですが、その後も日本は大胆な円供給策を打たずに円高が進行。円高が日本経済を直撃、今も1日100人近くの自殺者を生む大きな要因になっていますが、これはとても残念な事態です。それではどうして、日米でこれだけ対応が異なるのでしょうか? それはそれぞれの中央銀行の使命に大きな違いがあるからです。

日本銀行法第二条には「物価の安定を通じて国民経済の健全な発展…」と記されています。一方で米連銀法2Aには「雇用の最大化、物価の安定、適正長期金利」が記されています。物価の安定と適正長期金利はほぼ同義ですから、異なるのは「雇用の最大化」の部分という事になります。なので景気(雇用情勢)の良い時は日米の金融政策にそれほど相違はありませんが、一旦雇用情勢が悪化すると、日米の中央銀行のスタンスには大きな差が出てくるのです。

80年代以降のアメリカの非農業部門雇用者数の増減を見ると、アメリカの景気サイクルは約10年で一巡している事が分かります。概ね5年が雇用増(景気が良い)、5年が雇用減(景気が悪い)の期間です。雇用が減少している時、アメリカの中央銀行FRBは金利を引き下げる、又は量的に緩和する等によって雇用の最大化を目指す使命を負っています。80年代以降、ドル・円は一度下がり始めると約5年下落する傾向が見られますが、これは日米中央銀行の使命の違いを如実に反映した結果と言えるでしょう。

私は特に金融危機以降、テレビや講演等で来るべき円高に備えるよう申し上げてきました。しかし今回の円高は2007年7月に始まっており、既にその5年が経過しようとしています。これまでのアメリカの景気サイクルによると、そろそろ雇用が回復し始める頃、即ちFRBが「雇用の最大化」から「物価の安定」にギアを切り替えるタイミングが近付いていると言えます。(講演の)前日発表された雇用統計では失業率が8.3%と、約3年ぶりの低水準にまで低下しましたが、FRBの政策転換が徐々に近付きつつある事を確認する内容となっています。

とはいえ、アメリカが目標とする失業率6%台まではまだまだですし、そのためにQE3を実施してくる可能性もあるでしょう。なので当面、ドル・円で言えばもう一段の円高が進行する可能性の方が高いと見ています。ただ、市場というのはいつも変化を先取りするものです。大きな視点で見た時、ドル・円は恐らく約5年に1回しか見られないような大きな転換点に差し掛かっているとの認識が必要だと思います。

第288回 日本にとって本当のリスク:円安(2011年11月11日)で申し上げた通り、日本の方にとっての本当のリスクは円安だと思います。日本は資源に恵まれていないからです。世界的に資源価格は上昇基調にありますが、日本でそれほど感じないのは、これまで円高によって緩和されてきただけです。目先、時間的にも値幅的にもどれだけ続くか分からないような円高を追いかけるよりも、今は本格的な円安局面に備えて保有資産をもう一度見直す、重要なタイミングが近付いてきているように思います。

とはいえ、欧州債務問題が心配で、なかなか外貨建て資産に手が出ないとおっしゃる方が多いのではないでしょうか。確かに欧州債務問題の解決に向けては前途多難ですが、少なくとも市場に与える影響としては、それほど気にしなくて良くなる可能性が高いと見ています。その理由をこれからご説明させていただきます。

(2012年1月28日横浜にて)



最終更新日  2012年03月12日 09時40分25秒

2012年02月02日

第290回 金融ショックは何故起こるのか?(2)

市場が正常に機能していれば、市場参加者は全て自己の責任においてリスクとリターンを判断し、投資に関わる判断をしている筈です。予めリスクに対する覚悟が出来ていれば、例えそのリスクが現実のものとなったとしてもショックに発展する事はありません。通常は、よりリスク・リターンの関係が改善した状態になるため、新たにリスクを担ってくれる別の投資家が次々と現れてくるからです。しかししばしば、リスクの担い手とリターンを得る主体が一致しない状況が、意図的に、又は意図せざる所で出来上がってしまう事があります。そしてその状況が長引けば長引くほど問題のマグマが大きくなる。それが爆発して起こるのが金融ショックです。

例えば2008年9月に破綻した政府系住宅金融機関のケース。政府系住宅金融機関を示す略語GSEのSはSponsored(発起した)という意味です。要するに単に政府が発起して出来たというだけで、政府の機関でも、政府が保証している機関でもないのです。しかし市場は長年誤りを続け、政府系住宅金融機関が発行する債券は、あたかも政府の保証が付いているかのような水準の利回りで取引されていたのです。実際に政府が保証してくれているものではないと市場が気付き始めたのは実質破綻の数ヶ月前。結局アメリカ政府はパニックを抑えるため、債権者に対して元々市場が考えていた通りの扱い、即ち政府の全面保証という形を取らざるを得なくなりました。この結果、これまで政府系住宅金融機関には約12兆円の税金が投入されています。

その翌週に破綻したリーマン・ショックのケースで言うと、市場は「大きい金融機関は政府が救済してくれるだろう」という、要するにリスクは政府が担ってくれるという、誤った期待の下にリーマン・ブラザーズと取引していたのです。実際にリーマンが破綻して初めて「大きい金融機関でも救済してもらえないんだ」という認識が市場に広がり、次々に大手金融機関に危機が波及していくに至ったのです。そして2009年3月に財務省が大手19行を保護する、即ち「やっぱり大きい金融機関は救済する」と宣言するまで危機が収まる事はありませんでした。

ここ数年、金融ショックの頻度が増加しており、その度に「XXファンドが空売りしたから」「YYがショックを仕掛けた」等の論調が見られます。しかし繰り返しになりますが、金融ショックはそんな事で起こるものではありません。金融ショックはこれまで何年にもわたって積み上げられてきた、上記のような「市場の誤り」がそもそもの原因なのであり、ショックはそのような誤りを正しい方向に修正する動きなのです。XXファンドはむしろ、そのような正しい方向に修正する動きを促したという点で、マグマがさらに大きくなるのを防ぐという、非常に重要な役割を果たしていたと言えます。

規制等によりそのような「市場の誤り」を修正する事も必要だったでしょう。政府系住宅金融機関には、政府から保証を受けているようなフリをして低金利で資金を調達するという特権を利用させない、又はそのような状態を放置しない事が必要だったのです。「大手金融機関なら潰れない」という市場の期待を、そもそも持たせないようにしておけば、リーマンショックは起きなかったでしょう。しかし実際には、住宅ローンが低金利で借りられれば誰もがハッピーだし、大手金融機関が安定していれば金融システムを強固な状態に維持できます。政治的に不人気な税金投入もしなくて済みます。要するにこれまで、政治、規制当局を含め多くの主体がこのような「市場の誤り」に気付いていても、ハッピーだから、楽だから、便利だからと言って、そのまま放置してきた結果がこれらの金融ショックなのです。

欧州金融危機についても同様の事が言えます。金融危機前まで、ユーロ加盟国の国債の利回りはどこも殆ど同じ水準で取引されていました。要するに市場は「もし何かあっても他のユーロ加盟国が救済するだろう」という期待を持っていた事になります。ギリシャやポルトガルが低金利で資金を調達できれば周辺国の景気浮揚にも貢献します。もともと危機に瀕する国が出てきた際、加盟国が救済するという確約は政治的に不人気で出来なかったけれども、そのような「市場の誤り」を利用する事はユーロ加盟国にとってメリットがあったので、それを修正する動きが出てこなかったのでしょう。

しかし実際にギリシャ危機が起こってみると救済案を巡って各国政府の思惑は様々。すったもんだの挙句ようやく救済案で合意に達しても、上限金額が決められているので、これまで市場が当然の如く信じていた「他のユーロ加盟国が救済するだろう」という期待は元には戻りません。リーマンショック同様、市場が「こんな筈じゃなかった」とショックを起こしている訳ですから、これを収めるには市場が期待していた元の状態、即ち「何かあれば他のユーロ加盟国が救済する」に戻すしかないのです。

もっとも自国通貨建てで国債を発行できるアメリカや日本に比べるとユーロにはハンディがあります。何故ならアメリカや日本は、いざとなったら通貨を印刷して国債返済を求める投資家に渡せば良いのですが、現状のユーロではそうはいきません。しかし私は、最終的にはECB(ヨーロッパ中央銀行)を利用して、アメリカや日本のように通貨の印刷同然の行為を可能にするのではないかと見ています。そして実質的に「何かあれば他のユーロ加盟国が救済する」という状態に戻していく可能性が高いと考えています。逆にユーロが今の危機を乗り切る道はそれくらいしか残されていないからです。アメリカの金融危機時の例を見る限り、ユーロ加盟国がそういう思い切った決断をするまで、危機やショックが収まる事はないでしょう。

(2011年12月27日記)



最終更新日  2012年03月12日 09時38分22秒

2012年02月01日

第289回 金融ショックは何故起こるのか?(1)

皆さんはこんな新聞やTVの市況を見たり聞いたりした事はありませんか?

「ヘッジファンドが買ったから上がった」「売りを仕掛けたから下がった」

率直に申し上げて、これらは日本でのみ見られる市況の表現で、海外で殆ど見かける事はありません。そして当事者の方には申し訳ないですが、これらはかなり残念な表現と言わざるを得ません。

理由として第一に、ヘッジファンドは世界に何千もあります。中には下落相場でも買っているヘッジファンドがある筈です。それでもヘッジファンドの売りが理由で下落していると報道するのであれば、過半数のヘッジファンドをリアルタイムで取材したという根拠がなければならないでしょう。数からしても秘密保持原則からしても、これは明らかに非現実的です。第二に私の経験では、例えば相場が大きく下落するのは、誰かが売りを仕掛けている時というよりも、買う人が殆どいなくなっている時です。相場が大きく下がるとよく投機筋のせいにされますが、殆どの場合、相場下落の本質は買い手が不在である事、即ち「貴方が買わない(何もしない)から」なのです。

2008年アメリカの金融危機や、現在進行中の欧州債務危機においても同じです。確かに中には、2008年の金融危機時、住宅ローン証券の空売りで利益を上げたポールソン氏のような、分かりやすい例はあります。しかし当時、そもそも住宅ローン証券を空売りする手段など殆ど無く、ポールソン氏のケースも証券会社にわざわざそのような商品を限られた金額分だけ作ってもらって空売りできたのが実情です。住宅ローン証券全体の相場が急落となったのは、誰かが売りを仕掛けたというよりも、下落の過程で買い手が殆ど現れなかったからなのです。

ここ数年続いている円高を例に取ってみましょう。アメリカでは金融危機を受けて2009年初に約70兆円に上るオバマ景気対策と共に、約150兆円に上る第一弾量的金融緩和(QE1)が実施されました。さらに去年は約40兆円に上るブッシュ減税延長と共に、約50兆円に上る第二弾量的金融緩和(QE2)が実施されました。アメリカ政府は国債を発行して財政で国民にお金をばら撒きますが、その国債はFRBが購入したので、結果的にドル札を印刷して配ったのと同じです。恐らくアメリカ国民一人当たり合計50万円ほどのドル札が印刷され、「為替市場で売れるほど」ドルを十分持つに至ったのです。ドルが余ったから売ったとも言えますし、需要と供給の関係でドルが下がったとも言えるでしょう。

一方日本はどうでしょう? 日本政府は相変わらず「円高は投機のせい」と勘違いして円売り介入を続けています。この勘違いは外国為替資金特別会計に発生している40兆円もの為替損という巨額の代償となって表れてきています。それでは円高の本当の理由は何なのでしょうか?簡単に言えば、皆さんが為替市場で、上記のドル売りに立ち向かうほど十分な円売りをしないからです。しかしそれは皆さんが、為替市場で売れるほど十分な量の円を持っていないから。だから本来は、日本政府は円高を投機のせいにするのではなく「日本国民が円を売らない(又は何もしない)からだ」と自国民を批判しなければならないのです。そうなれば皆さんは即座に日本政府に反論するべきです。アメリカもヨーロッパも中国も自国民に十分な通貨を与えている中、日本政府だけは通貨を与えてくれないからだ、と。

2008年アメリカの金融危機や、現在進行中の欧州債務危機でも、いまだにヘッジファンドが仕掛けたから等の表現が散見されます。欧州債務危機においては、いち早く投機筋の仕掛けが原因と誤解したフランス、イタリア、スペイン等が金融銘柄の空売り規制を実施しました。しかし当然の事ながらそんな事で金融銘柄の下落が止まるはずがありません。何故なら金融銘柄の下落はそもそも、誰かが空売りしているからというよりも金融銘柄を買う人がいなくなっているからであり、それは当該金融機関のファンダメンタルズが問題だからです。ファンダメンタルズを改善しない限り、空売り規制のような小手先の対応をやっても全く問題の解決にならないし、短期的に効果があったように見えて根本的な欧州債務問題の解決が後手後手に回ったという点では、為替介入と同様、むしろ有害なのです。

市場が正常に機能している時は、相場が下落しても、実はその相場下落自体が問題の解決につながるケースが殆どです。例えば景気の弱い国の通貨が下落する事によって輸出競争力が高まり、延いては景気回復に貢献します。住宅価格は下落する事によってより多くの人が購入できるようになり、自然に下げ止まります。これが市場の自動調節機能です。しかし中には、相場の下落が他の問題を併発してしまい、金融市場に大きなショックとなって表れてくる事があります。しかしこれは市場というシステムが問題なのではなくて、実は正常な市場の機能を阻害する何かが存在しているからなのです。2008年アメリカの金融危機や、現在進行中の欧州債務危機がこれに当たります。それではこれらの金融ショックは何が問題で市場の自動調節機能が働かなくなってしまったのでしょうか。誰かが売りを仕掛けたから、と勘違いを繰り返し、この市場の本来の機能を阻害する問題の本質を理解しなければ、いつまでたっても金融ショックは繰り返される事でしょう。次号ではその本質について書かせていただきたいと思います。

(2011年11月23日記)



最終更新日  2012年03月12日 09時36分14秒

2011年11月11日

第288回 日本にとって本当のリスク:円安

先月、テレビ東京「MプラスEx」に出演させていただく機会がありました。滅多にお邪魔できない番組でもあり、中長期的観点から今後の投資についてお話させていただいたつもりです。番組の時間枠に入りきらなかった内容も含めて、以下ご紹介したいと思います。

アメリカ経済は大まかに見ると10年の景気サイクルで動いています。一番分かりやすいのは非農業部門雇用者数の増減で見た雇用情勢です。当然の事な がら景気の良い時は雇用が増加し、景気の悪い時は雇用が減少します。アメリカの雇用情勢はこの上下動を約10年のサイクルで繰り返しているのが分かりま す。

アメリカ経済が10年サイクルで上下する中、概ねその半分(5年)は景気の拡大期であり、残り半分は景気の収縮期です。歴史的にアメリカは景気の悪 い時には金利を引き下げて=ドルを下落させて景気を浮揚させる傾向があります。なので、これまでドル・円は一度下落を始めると概ね5年間は下落し続ける傾 向があります。これまで講演等で、「トレーディングされる分には構わないが、寝る前にはドル売り・円買いポジションを残す事」「この間は為替介入などなっ ても効果は無い」と度々申し上げてきたのはこのためです。

これは単なるサイクルだけではなく、日本とアメリカで中央銀行の使命が異なる事からも説明が付きます。日本銀行はその使命として「物価の安定」(※ 下落ではない)が課されていますが、アメリカの中央銀行であるFRBには「物価の安定」に加えて「雇用の最大化」が課せられています。景気の悪い時に金利 を下げたり、ドルを供給したりして雇用を回復させようとするのは中央銀行の義務でもあるのです。アメリカの雇用情勢が悪い時にドル・円が下落するのは、両 国の中央銀行の使命の違いを考えれば当然とも言えます。

さて最近再び円高・ドル安がニュースを賑わせていますが、私は来年の今頃もまだ円高で騒いでいるような事はないと思っています。むしろ円安が始まっ ている可能性の方が高いでしょう。というのは2007年7月に始まった円高・ドル安は既に4年3ヶ月続いており、既に終盤に差し掛かっていると言えるから です。また信じられない事に、これだけ景気が悪い時に日本では増税が予定されています。これは日本の景気にとって大きなマイナスになるでしょう。一方でア メリカの雇用情勢は厳しい状況が続いているものの徐々に改善の兆しも見えてきています。もちろんこの先70円台前半をトライするような場面は十分有り得る でしょうが、その後はドル高・円安方向の可能性の方が高いと考えています。

このような中、日本に居る人はこれまでの投資スタンスを今一度考え直す必要があると思います。というのは、日本は資源に恵まれない国であり、本当の リスクは円安にあるからです。例えばドル・円が80円から120円に上昇すると、これまで80円で買えた物が120円でしか買えないという状態になりま す。日本は生活必需品(食品・エネルギー等)の多くを輸入に頼っているため、ある意味、円高よりも深刻なリスクと言えます。このリスクをヘッジするには、 資産の一部を円以外で保有して購買力を確保しておく必要があります。現在のような、既に終盤に差し掛かっていると見られる円高局面は、むしろそのようなア クションを起こすチャンスとも言えます。

私はその投資先として、アメリカ株はその有力候補だと考えています。アメリカの主要株価指数であるS&P500指数は、1999年以来大きな上下動 を繰り返してきたものの、結局は当時と同じ1200近辺です。そして株価収益率を見ると当時の30倍弱に対して、今は12倍にまで低下しています。さらに この間の円高を勘案すると、日本の投資家にとっては更に割安になっているという見方も出来ます。

ただ割安だからと言ってすぐに上昇する訳ではなく、長期で考える事が必要です。というのは、割安にはアメリカの高齢化と税制が関係していると見られ るからです。アメリカでは59.5歳から無税で退職積立金を引き出す事ができます。アメリカの人は金融資産の役40%を株式で運用しており、しかもベビー ブーマーの退職時期に入ってきている事から、この世代による株売り圧力の影響は無視できません。実際、ここ10数年の株価収益率の低下と、退職世代の人口 増加との関係には強い相関関係が見られます。

この退職世代の人口増加はまだ数年続くので、株価収益率の低下もまだ数年続く可能性が高いという事になります。しかしその後低下は止まります。即ち アメリカ株式投資において注意しなければならないのは、昔のように、短期間で株価収益率が大きくなって株価が上昇するというような事を期待してはいけない という事、そして市場全体の株価収益率低下を補って余りあるような好業績企業に投資するべき、という事です。

そのような観点から注目すべきセクターは、第一に好業績で割安が目立ってきているハイテクセクター、第二に欧州危機による懸念から、中長期的観点か ら見れば恐らく売られ過ぎの領域に入っていると見られる金融セクターだと見ています。中長期観点からこのようなセクターへの投資は、円安とも相俟って、良 好なリターンをもたらしてくれると考えています。

(2011年10月24日テレビ東京「MプラスEx」より)



最終更新日  2011年11月16日 15時40分17秒

2011年09月26日

第287回 「大き過ぎて潰せない」再び

7月以降、大手欧州銀行株が急落となっています。BNPパリバ、バークレー、RBS、ドイツ銀行など欧州を代表する銀行の株価下落率は軒並み40%以上(現地通貨建)に上っています。そしてこれら全ての銀行に共通するのは資産規模で世界のトップ10に入るメガバンクである事、即ちToo Big To Fail(大き過ぎて潰せない)金融機関である事です。

私のギリシャ問題に対する見方は1年以上前にここ第263回 ギリシャ問題は2008年アメリカのデジャ・ヴ(2010年5月6日)に書かせていただいた通りです。要するに、政府というのはオオカミ少年で、大袈裟な声明や流動性供給など、出来るだけカネ(財政)のかからない方法を使って市場を沈静化しようとするものです。ギリシャ問題に関してもこの1年以上、大袈裟な声明や流動性供給など、その場しのぎの策は何度も発表されましたが、ギリシャに資本を注入する、又は債務免除するなど、根本的な解決策はこれまで何一つ示されてきませんでした。当時この根本的な解決策に着手していれば、かかるカネ(財政)は今よりもずっと少なくて済んだ事でしょう。そしてリーマンショック時のように「大き過ぎて潰せない」金融機関に対する対応も必要最小限で済んだと思います。従ってこの1年強の間の状況悪化は、いわばEUによる人災と言っても過言ではありません。

【1】大袈裟な発表

9月16日、日欧米の中央銀行がドル資金供給で合意、との声明が発表されました。しかし中身を見てみるとこれは金融危機後、一時期を除いてずっと実施されている流動性スワップ協定に他なりません。よくもまあ、新しい声明のように発表するものだと半ば呆れてしまいました。もっと言えばメディアも何故、新しい声明のように報道してしまうのか、不思議でなりません。案の定、一旦は騙されて上昇した市場も、翌週には急落です。

【2】問題先送り

繰り返しになりますが、ギリシャのような、いわば借金地獄に陥った国にいくらお金を貸しても問題の解決にはなりません。資本を注入するか、一旦債務を再編し、新しいスタートを切れるようにするしか解決方法はないのです。しかしEUはまだ金融支援や資金供給など、お金を貸す、貸さないの議論ばかりをしています。これは2008年のアメリカの例で言うとまだ、リーマンショック前の段階です。確かに公的資金を注入したり、債務を再編するのは誰かの負担になる訳であり、大変な痛みと調整が必要になります。2008年のアメリカでも金融機関への公的資金注入は議会で一旦は否決されるなど、簡単ではありませんでした。しかしこの過程を避ける事は問題の先送りであり、ますます問題が大きくなっていくだけです。

【3】遅い対応

ユーロ圏は17カ国の集合体であり、それぞれの国で政治事情が異なっています。ユーロとして重大決定をするには各国で調整が必要で、特に今回のギリシャのような問題をどう処理するかのコンセンサスを簡単に得られる訳はありません。だからこそこのような問題はユーロ発足時にきっちり取り決めをしておくべきだったのです。これはユーロ発足当時から指摘されていた問題です。

【4】隠蔽体質

欧州のストレステストほどオオカミ少年と言われるものは無いでしょう。去年の1回目のストレステストの結果も不信を買うものでしたが、7月に発表された結果はそもそもギリシャ国債の債務不履行を前提にしていない、全く役に立たないものでした。今後、市場は2度と欧州のストレステストを信用する事は無いでしょう。ちなみにこれはドイツ銀行のCEOが今月フランクフルトで行った講演での発言です。「これは公然の秘密だが、銀行が保有するソブリン債を時価で引き直さなければならないのなら、欧州の多くの銀行が破綻に追いやられる事になろう。」

欧州危機はリーマンショック、又はそれ以上に発展する可能性がどんどん高まってきています。リーマンショックと似ている点は、欧州の金融機関はソブリン向け与信に関しては規制上追加資本が必要なく、従ってCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を売る事は、あたかも無リスクでお金が入ってくるような取引であった事。これはアメリカで、リスク最上級の格付けAAAを付与されていたサブプライム住宅ローン関連証券を、実際のリスクを勘案せずに、他のAAA証券よりも利回りが高いという理由で金融機関が購入していたのに似ています。

異なるのは、アメリカの住宅バブルがせいぜい、2003年から2007年の4年間の現象であったのに対し、欧州危機はユーロという通貨が導入されて以来、12年以上に渡って積み上がってきたシステムの欠陥である事。ソブリンという、通常のAAAよりも信用が高く規模の大きな市場であるという事。そして欧州の金融機関を合わせると、資産規模はアメリカよりもずっと大きい、という事です。とりわけ問題がギリシャを初めとする小国にとどまらず、イタリア、スペイン等に飛び火するような事になれば、莫大な金額に膨れ上がってしまいます。

そしてそれを解決する手段があるか、です。2008-9年のアメリカや欧州は今に比べれば財政にも金融にも余裕がありました。しかし今は、連邦債務は法定上限に達し、金利はほぼゼロまで下がって非伝統的金融政策を発動しなければならない状況、欧州は文字通りの財政危機です。さらにオバマ大統領もサルコジ大統領も来年に選挙を控えています。大手金融機関救済によってあれだけ支持率を落とした2人が、今回大手金融機関の「もしも」に対してどのように対応するでしょうか? 例えばFDIC(連邦預金保険公社)は大手金融機関に対して、「もしも」の際に備えて「遺言状」を作成させる決定をしました。「もしも」の際、大手金融機関をこの遺言状に基づいて粛々と清算するためのものです。大手金融機関が救済でなく清算となった場合、そのショックはどのように波及していくでしょうか?

今後考えられる最善のシナリオは事前調整型の、比較的小規模国の債務再編でしょう。EUがこれまでのような、大袈裟な発表、問題先送り、遅い対応、隠蔽体質を即座に改め、早期に痛みの伴う公的資金や債務免除の調整に着手する事です。一方最悪のシナリオは、EUの体質が変わらず、結果としてリーマンショック以上の金融危機に発展してしまう事でしょう。

(2011年9月23日記)



最終更新日  2011年09月27日 10時18分47秒

2011年09月05日

第286回 ダブル・ディップ・リセッション

7月末に発表されたアメリカの4-6月期国内総生産はショッキングな内容でした。国内総生産の70%を占める個人消費支出の伸びが年率+0.1% (速報値;後に+0.4%に改定)と発表されたのです。これはアメリカでは通常、リセッション(景気後退期)前後にしか見られないような水準です。アメリ カは人口は増加している国なので、人口増加分を除くと実質的にマイナスであったという事になります。

4-6月期は過去の数字だとして、それではこの先はどうでしょうか? 個人消費の先行きを占う消費者信頼感指数は今週、金融危機以来の低水準となる 44.5と、前月の59.2から大幅な落ち込みを見せました。これは2009年リセッション時以来の水準です。中身を見てみますと、落ち込みの殆どが将来 の「期待指数」の低下によって説明が付く状態。要するに、個人消費の不振は今後も続く可能性が高い事を示唆しています。

それでは何故、今になってこのような景気の低迷が顕在化してきているのでしょうか。それは第283回 景気悪化は正常化の過程(2011年6月13日)に 書かせていただいた通りです。即ち、これまで100年に一度と言われる危機を乗り越えるために、財政、金融、為替とあらゆる策が取られてきましたが、その ような緊急時の対応はいつまでも取り続ける訳にはいきません。人工的なサポートによらず、経済が自力で回復軌道に戻れるよう、いずれ解除しなければならな い時が来るのです。それが、’09年オバマ景気対策の効果が薄れ始め、QE2(第二弾量的金融緩和)が終わる、このタイミングだったという事です。

しかし現在アメリカ経済、とりわけ雇用情勢はとても、自力で回復軌道に戻れるような状態ではありません。今日発表された8月雇用統計によると、非農 業部門就業者数の増加は無し、失業率は9.1%で高止まりとなっています。最近この水準の失業率には目が慣れてきた感がありますが、近代では最も厳しい状 況なのです。アメリカで前回、失業率がこの水準にまで上昇したのは30年前の1980年代前半です。当時は8%以上の失業率は2年3カ月続きました。今回 は既に2年7カ月続いており、このままだと3年を超えるのはほぼ確実な情勢です。上記の消費者信頼感指数の中でも、「職を得るのが困難」という項目が大幅 な悪化を示しており、個人消費不振の主因が厳しい雇用情勢にある事が明らかになっています。

しかも、今は80年代前半よりもずっと、雇用を改善させる事は難しいでしょう。第一に、80年代前半は政策金利が15%を超える時代。金利を下げる 事によって景気を刺激し、雇用を創出する事が可能でした。しかし今はゼロ金利時代です。FRBが実質的にマイナス金利に持っていくような努力をしています が、当時と比べたハンディは明らかでしょう。第二に、80年代前半はインターネットなど普及していない時代です。中国やインドへのアウトソーシングが本格 化したのはここ10年ほどの話です。即ち労働市場における競争相手は、今やアメリカ国内だけではないという事です。この点についても、FRBは量的緩和に よってドル安誘導し、アメリカ人の世界の労働市場での競争条件を有利に持っていく努力をしています。しかし、例えば一度出て行ってしまった生産拠点などは その初期投資コストを考えれば、少々の条件改善があってもアメリカに戻ってくる事はないでしょう。こう考えれば、現在アメリカ政府が目標としている失業率 6%というのはかなり高いハードルで、気の遠くなる話のように見えます。

短期的な失業であれば失業保険によってその間の収入減を緩和し、個人消費の落ち込みを防ぐ事ができます。しかし今回のように構造的な失業となってく ると、失業保険の切れ目が個人消費の切れ目となってしまいます。金融危機後、通常最長6カ月の失業保険支給が最長1年4カ月にまで延長されています。それ でも厳しい雇用情勢が3年近く続くとなると、今後失業保険切れが続出し、延いては個人消費の不振に追い討ちをかけていく事になるでしょう。

個人消費の不振の背景には厳しい雇用情勢があり、その雇用情勢を改善させられる策に乏しいとなると、この先覚悟しなければならないものがあります。 それはリセッションです。アメリカでは数年の内に2度景気後退期が訪れる、いわゆるダブル・ディップ・リセッション(Double-Dip Recession)が起こるのは珍しい事です。しかし、その珍しいダブル・ディップ・リセッションが前回起こったのは1980年代前半です。しかも、今 は当時よりも厳しい状況なのです。

アメリカ経済は2007年末から約1年半のリセッションを経験しました。上記の通り、今回2度目のリセッションの前兆はあちこちに表れていますし、 1980年代前半との比較ではほぼ確実です。しかし株式市場はまだ、ダブル・ディップ・リセッションのシナリオは織り込んでいないようです。この認識 ギャップは当然、今後修正されていくはずです。

(2011年9月2日記)



最終更新日  2011年09月05日 19時05分24秒

2011年08月03日

第285回 誤診の連続で治らない病気~円高

為替介入がいかに愚策かについては、第254回 為替介入は愚策(2009年11月30日)第270回 口先介入も、非不胎化介入も、為替介入は愚策(2010年9月2日)第271回 為替介入(米国債購入)vs 日本国債購入(2010年9月22日)な ど、このコラムでも再三にわたってご説明してきました。同時に2009年以降、円高の主因は日米欧のマネー供給量の差である事は日頃出演させていただいて いるテレビやラジオにおいても図を示して繰り返しご説明してきました。にもかかわらず円高を投機のせいだと勘違いしている一部メディアの評論や新聞の社 説、そして輸出企業を中心とする財界は「為替介入を実施せよ」の大合唱。政府も円高を投機のせいだと勘違いしたのか、又は「何もしないのか」という世論を 気にしたのか、2010年9月、日本はまたもや介入の蟻地獄に突入してしまいました。そして納税者負担となる為替損がどんどん膨らむという、過去と全く同 じ過ちが再び進行中です。

さらに大震災後の円高進行時には経済財政担当相が「投機筋の風評による円高であり大変不見識だ」と発言した、とのニュースが流れました。円高が投機 によるもの、と判断するのは医者が誤診しているのと同じです。確かに本当に円高が投機によるものであれば為替介入は効果があるでしょう。一時の頭痛に鎮痛 剤を処方するようなものですから。しかし繰り返し申し上げてきたように、私の診断では、2007年に始まっている円高に殆ど投機性は見られません。むしろ もっと深刻な病気、日米欧のマネー供給量の差がそのまま円相場に表れてきている事は明らかです。鎮痛剤が一時的に効いたように見えてしまうがために、根本 的な治療がおろそかになってきた点では為替介入は害とも言えます。さらに鎮痛剤も常用していると次第に効かなくなるし、副作用も表れてきます。その副作用 とは外国為替資金特別会計に発生している、40兆円近くに上ると見られる損失です。本来アメリカ国民が負担すべき40兆円分を日本の納税者が肩代わりする 形になっている事を理解している人は、今も多くないのではないでしょうか。

しかし上記経済財政担当相発言の翌日、再び誤診を受けた治療(為替介入)は実施されました。3月18日、日本は為替介入を通じて米国債、欧州国債を購入。日本があれだけ大変な状況にもかかわらず外国政府の赤字をファイナンスするという、非常に違和感のある政策を実行したのです。決定のスピードといい、復興のためにいくら必要でも自国の国債はなかなかファイナンスしようとしないのとは大違いです。

そして今、再び誤診がなされています。日本のニュースでは円高の要因として「アメリカの債務上限引上げが難航しているから」と報じられています。確 かにそれはきっかけの一つだった可能性はあります。しかし、もしそれが円高の要因だとすれば、債務上限引上げが決まったら、ドル・円は上昇しなければなら ない筈ですね。ちょうど本稿執筆の最中に、懸案であった債務上限引上げに関する法案が上院を通過、即日オバマ大統領の署名を経てようやく成立に至りまし た。それなのに私の目の前のスクリーンでは、ドル・円相場はまだ史上最安値に近い77円スレスレで取引されています。従って「アメリカの債務上限引上げが 難航しているから」も誤診であったという事は明らかなのです。

円高が進行する度に、日米欧のマネー供給量の差という本質を避け、その時によって一般の人が納得しそうな理由がメディアで挙げられる。こんな状況だ と、もしかすると財務・金融当局が責任を追及されないために工作している可能性まで考えてしまいます。一方、誤診の代償は小さくありません。既に外国為替 資金特別会計には日本の納税者負担となる40兆円近くの損失が発生しているのです。皆さん、これら誤診の連続にはもう懲り懲りではないですか?

(2011年8月2日記)



最終更新日  2011年08月04日 16時49分21秒


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