第84回 ペトロチャイナの新油田発見について
今日のまとめ 1.ジ東・南堡油田は大慶油田に次ぐ規模である 2.渤海湾の絶好のロケーションに位置している 3.石油鉱床構造は効率的な生産を容易にするものと思われる 4.同社株のビジネス・リスクは軽減される 5.ペトロチャイナの今後の投資計画は「内向き」になる 背景 5月3日にペトロチャイナ(中国石油天然気:0857、ADRティッカーはPTR)が新油田を発見したと発表しました。同社のニュース・リリースの内容から判断するとこの新油田の規模はかなり大きいです。この油田の発見はペトロチャイナの将来の生産計画(プロダクション・プロフィール)やコスト構造、さらに今後の投資計画などに大きな影響を与えそうです。従って今日はこの新油田について考えてみたいと思います。 会社側の発表 ペトロチャイナの発表によると今回発見されたジ東・南堡(Jidong/Nanpu)油田は唐山に近い渤海湾の沿岸地域に位置し(地図参照)、油田は内陸、浅瀬、沖合いにまたがっています。埋蔵量に関しては:と発表されています。石油鉱床は4箇所の油層を含み同油田は高品質で採取効率の高い油田になるだろうと主張しています。油層の平均の厚みは80~100メートル、油層の深度は1.8~2.8キロメートルで鉱床構造は採掘に適しているとのことです。ペトロチャイナの油田ポートフォリオの中での新油田の位置づけ さて、それではこの新油田はペトロチャイナにとってどれだけ重要な発見なのでしょうか?。今回発見されたジ東・南堡油田の確認埋蔵量は上の表にあるように4.05億トンです。ジ東・南堡油田は「高品質である」という記述があることからAPIグラビティー(原油の等級のことを指します。ペトロチャイナの全社平均は34です)が38だと仮定するとトン→バレルの換算率は7.55ですので: 405 (million ton) × 7.55 = 3,057.75 (million barrel) となります。つまり30.58億バレルということになるわけです。ペトロチャイナ全体の確認埋蔵量(Proved, developed & undeveloped reserve、但し原油のみ)は2005年の時点で115.36億バレルでした。新油田の確認埋蔵量を合算した新しい総確認埋蔵量をベースに計算するとジ東・南堡油田は全体の20.95%を占めることになります。これは大慶油田(ペトロチャイナの新総確認埋蔵量に占めるシェア=30.13%)に次いで2番目に大きな油田ということになります。(なお、なるべく現実的、且つコンサーバティブな試算をするために推定埋蔵量、予想埋蔵量、天然ガス確認埋蔵量は計算から除外しました。ウォール・ストリートのアナリストが同様の計算をする場合でも慣例から考えて、多分、それらの数字は全て無視すると思います。) 次にジ東・南堡油田の確認埋蔵量(30.58億バレル)を加えて世界の主要石油会社の石油ならびに天然ガスの総確認埋蔵量を比較してみると下のグラフのようにペトロチャイナ(226.13億BOE)がエクソン(220億BOE)、ルクオイル(201億BOE)を抜いて世界第1位となります。(但し天然ガス主体の企業であるガスプロムは石油会社ではないという判断から比較の対象から除いてあります。) ペトロチャイナのストーリーがどう変わるか? 次に今回の発見でペトロチャイナ株の銘柄としてのストーリーがどう変わるかについて考えてみたいと思います。ペトロチャイナ株は今回の新油田発見のニュースが出るまでじり安を辿る展開でした。これは主力の大慶油田の生産が徐々に落ち込み始めている事が原因であることは「第七十九回 中国の石油業界 (2007年3月22日)」のレポートで紹介しました。ペトロチャイナは現在、原油生産の約4割を大慶油田に依存しているのですが含水量(water cut)が89.78%と極めて高く、生産量が今後つるべ落としに減り始めることが懸念されています。直近の決算でコストがオーバーランした理由のひとつは汲み出しても汲み出しても水ばかり出るので生産コストが嵩んでしまったことによります。従って「早く代わりになる油田を発見しないと大変なことになる」と投資家の不安は高まっていました。その点、今回発見されたジ東・南堡油田はただ単に規模が大きいだけでなく操業条件や品質の面でも期待が持てます。 ジ東・南堡油田が本格的に生産に入るのは未だ数年先のことだと思いますので当面はペトロチャイナの株主は同社の不安定なコスト構造を我慢する必要があるでしょう。しかし会社側の「採取効率が高い」という発表を額面通り受け止めれば、今後同油田の全社生産量に占める比率が高まるとともにペトロチャイナの収益は安定度を増すと考えられます。つまりジ東・南堡油田の発見は単にペトロチャイナの埋蔵量が伸びたということだけではなく、同社のビジネス・リスクを軽減し、収益力を引き上げる可能性があるということです。 さらに国内でこのように有利な巨大油田が発見されたことで、今後の油田開発費用の割り振りとしては政治的リスクの高いアフリカなどを徐々に後回しにし、比較的リスクの低いジ東・南堡油田を本格的に立ち上げることに向けられると予想されます。