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2006年01月02日
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2005年4月13日



(1)崩れている「一物一価」

 表は、投資信託と投資顧問を併営しているある大手資産運用会社の年金運用を対象とした投資顧問料率の数字です。

第五回 図1

 社団法人日本証券投資顧問業協会のホームページには、「投資顧問会社要覧」という投資顧問会社の会員各社の会社紹介が掲載された書籍があり、PDFファイルで閲覧できるようになっています。表の数字は、同書に掲載されている他の大手投資顧問会社も使っているごくありふれたものです。
 さて、表によると、この会社に日本株式の運用を頼むと、100億円を超える金額に関しては年率0.16%未満の料率で運用して貰えるということです。
 ところで、この運用会社は投資信託も運用しているのですが、投資信託の信託報酬率は、日本株式を運用するファンドの場合、年率1.5%程度のものが多く、高いものでは1.9%というものもあります。そして、これらの投資信託の運用資産は、100億円はもちろん、1000億円を超えるものが複数あるのです。
 投資信託で投資家の資産から差し引く信託報酬の内訳には、運用会社自身が取る運用報酬の他に、販売会社に支払われる「代行手数料」と称する手数料があり、さらに資産を保管する信託銀行に払う保管手数料があります。保管手数料は多くの場合0.08%くらいで、高くても0.1%といった程度の水準です。残りをほぼ半々くらいのイメージで運用会社と販売会社が分けるので、信託報酬は全て運用会社のものになるわけではありません。それでも、たとえばこの会社の、信託報酬を1.9%取るファンド(資産は数千億円)でいえば、約0.9%が運用会社の取り分になっています。
 同じ資産額の運用を、投資顧問として引き受ける場合の0.16%に満たない料率と比べると、投信の料率は、顧客の側から見た1.9%を見ても、この会社にとっての0.9%を見ても、投資顧問とは、かけ離れて高いことが分かります。どちらも同じ日本株の運用なのですが、「一物一価の法則」が全く成立していません。


(2)投信運用と年金運用の現実

 それでは、投資信託の運用の方が高級なのか、投資信託の方が運用に手間とコストが掛かるのか、というとそんなことはないように思えます。
 たとえば、アナリストの調査は、筆者の知る限り投信・投資顧問の両部門で共通に利用する会社が殆どです。加えて、彼らの名誉のためにも申し上げますと、ファンドマネージャーは運用料率が安いからといって運用の手を抜くということはまずありません(現実問題として付け加えるなら、手を抜いたからといってパフォーマンスが悪くなるわけでもありませんが)。
 また、少なくとも数年前までは、公平に見て投資顧問部門に、より優秀なスタッフを配していた会社が多かったように思います。投信の場合は運用者が顧客と直接接することは少ないのですが、投資顧問の場合は顧客と直接接して、運用の計画・結果双方について説明しなければならないので、どちらかといえば、後者にエース級の人材を配する傾向があったように思います。
 運用会社で、投信の方が大変な点はといえば、資金の変動に対する対応と毎日の基準価額計算くらいのものです。前者は、実際に運用してみると、そう大した問題ではありませんし、後者はシステムで何とかなる問題であって、大手の運用会社の場合、一本当たりのファンドに掛けているコストは、ファンドの運用資産額に対して微々たるものです。
 つまり、少なくとも、投信に劣るわけではない投資顧問の運用サービスが、投信の数分の一の価格で提供されているのです。もちろん、これは逆から見ると、投信の顧客は投資顧問の顧客の数倍の運用手数料を払っているということを意味します。


(3)信託報酬高騰の不思議

 ところで、投信の信託報酬ですが、90年代初頭と比べると、実は、二倍近くになっています。日本株で運用する普通のファンドの信託報酬は90年代の初頭は0.8%程度だったのですが、これが徐々に上昇して、94年くらいから1%を超えて、98年くらいから1.5%前後の水準になってほぼ現在に至っています。
 考えてみると、この間、世間一般は不景気でしたし、日本株式の運用パフォーマンスが冴えない時期だったので、投信の顧客の満足度が高かったはずがないのですが、「投信運用」というサービスの価格は約二倍になったのですから、これは驚くべき事でしょう。
 それでは、なぜこのような事が起こったのかというと、実に不思議に聞こえるかも知れませんが、直接的な理由は、投信運用会社の過当競争です。しかし、経済常識的には、競争が激しい場合は、価格が下がって当然と思えるのですが、これがそうならなかったことが日本の投信マーケットの歪みを象徴しています。
 経緯のあらましはこういうことでした。90年代に外資系をはじめとして投信運用会社が多数新規参入したときに、ファンドを売らないとビジネスが立ち行かないわけですから、証券会社の販売窓口を争いました。この際に、証券会社は、まずは販売手数料(平均2%程度から3%程度に上昇しました)、次に信託報酬の中から払われる代行手数料が大きなファンドを好んで売りました。実際、筆者がある証券会社に在職していた時の経験でいえば、手数料のちがう同種類のファンドが同時期にスタートすると、手数料の高いファンドの方が何倍も売れるという現象を目にしました。
 これは、セールス部隊が手数料の高いファンドを好むからでしたが、同時に、投信のお客様の多くが、手数料をあまり気にしなかった結果でした。これは、より厳しい言い方をすると、手数料の多寡に対して鈍感なレベルの顧客ばかりを相手に投信を売っていたということです。
 このような状況でしたから、投信運用会社は、最終顧客よりも、販売証券会社に向けて商品を開発したのは当然です。当時、日本の証券会社の投信販売事情を知り尽くした外資系の投信会社が手数料引き上げのプライス・リーダーになったのだと記憶しています。
 こうした投資家にとって不幸な状況は、投信の銀行窓口での販売が始まってからも改善していないようです。むしろ、投信に不慣れな顧客が、投信の商品性を理解するまでに時間が掛かっていることから、手数料の高いファンドのマーケティングが一時的に更に楽になっているような印象さえあります。たとえば、毎月分配型の外債ファンドは、債券ファンドであるにもかかわらず1.25%といった「暴利」(筆者は暴利だと思っています)をむさぼりつつ販売額を伸ばす状況になっています。


(4)投信マーケティングの袋小路

 筆者は、たとえば日本株の普通のファンドで、信託報酬だけで年率1.5%(現在、長期金利にほぼ匹敵します!)といった手数料を取るのであれば、こうしたファンドの中には、自分が買いたいファンドはもちろん、他人に勧めたいファンドなど一本もないと断言したいと思います。個人金融資産が1400兆円もあるといわれている日本で、本来ならば100兆、200兆の残高があっておかしくない日本の投資信託が未だに50兆円台の残高にとどまっているという惨状は、多くの常識ある投資家にとって、投信が魅力的な商品ではないからだと思います。
 それでは、手数料を下げた投信を売り出せばいいのではないかという考えが当然浮かびますが(筆者は、個人的にはチャンスがあれば是非やってみたいと思っています)、現在、なぜそうした戦略を採る大手投信会社がないのでしょうか。
 たとえば、冒頭に紹介した大手資産運用会社の場合、投資顧問の運用料率を見ると、年間0.5%くらいの信託報酬のファンドを出すことは難しくないように思えます。しかし、仮にこの会社がそうした良心的なファンドを出すと、多分、最初に予想される現象は、この会社の既存の高手数料ファンドが解約されて、良心的ファンドに資産が移ることでしょう。こうした心配があるために、既存の少なくとも大手投信会社は、低価格戦略を採ることが出来なくなっているのだと思われます。
 これは、投信業界として見ると、手数料に鈍感な投資家に対して商品を最適化しすぎたために、より広いマーケットに対して商品が合わなくなっており、しかし、広いマーケット向けの商品を出すと、当面は自分の収入源と競合してしまうという、いわば「投信マーケティングの袋小路」のような状況に陥ったということでしょう。


(5)投資家はどうすればいいか

 「投信マーケティングの袋小路」は、運用会社にとっての問題ですが、投資対象として検討に値する良心的なファンドがないという現状で、投資家はどうするべきでしょうか。
 かつてであれば、ETF(上場型投資信託)のようなインデックス投信は安い手数料で分散投資が出来る有力な投資対象でした。詳しくはまたご説明する機会があろうかと思いますが、TOPIX連動型も日経平均連動型も、銘柄(及びウェイトの)変更の度にファンドが損をする状態がパターン化しつつあって、現在はお勧めできません。
 現時点では、日本株の運用については、自分で数銘柄に分散投資すると、上手に銘柄を組み合わせるとインデックスとほぼ変わらないくらいのリスクに抑えたポートフォリオを作ることが出来るので、これがベストではないかというのが筆者の見解です。
 数銘柄から十数銘柄の分散投資では、インデックスとの勝ち負けには結構なばらつきが生じるので、プロのファンドマネージャーには不都合ですが、全体のリスクの大きさがインデックスと変わらないなら、個人にとっては不都合がないように思えます。
 結局、自分の資産は自分で運用するのがベストであり、インターネットの発達と委託売買手数料の低下が、これを可能にする環境を提供しているように思います。
 少々手間を掛けて、多少の勝ち負けのリスクを引き受ける覚悟があれば、「投信なんかいらない!」と言い切っても構わないと筆者は思っています。





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最終更新日  2006年02月08日 00時15分23秒
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