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2006年09月01日
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■長期投資と短期トレーディング

 さて、本題である株式投資に戻って、株式投資が「投資」だとすると、「投機」と比べた場合、共に結果が不確実でいわゆるリスクはあるけれども、投資の場合は、時間の経過と共にプラスの収益が期待できるという点に特徴があります。繰り返しになりますが、株式投資は、生産活動に資本を提供しており、その見返りが期待できるので、100投資したものが、1年後には、105とか、110とかになることが期待できる「プラスの期待収益率のあるギャンブル」なのです。
 仮に「100投資して、1年後に110」と考えると、半年後には105、2年後には120などと期待値を考えることが出来ます。特に、長い期間投資する場合、たとえば2年後には、120ではなく、121といった具合に、複利運用の効果を期待することも出来ます。ちなみに、複利の効果は、単なる算術的な事実であって、それだから長期運用が「有利」なのだ、という根拠にはなりませんが、長期運用の結果、資産が「意外に大きくなる」ということは、覚えておく価値があります。

 ここで、問題なのは、たとえば、「デイ・トレーディング」と呼ばれるような、短期の株式取引にも、「投機」と比較した場合の「投資」のメリットがあるのか、ということです。これは、原理を考えるとよくお分かり頂けると思いますが、「厳密にはあるはずだが、現実にはほとんどない」が正解です。

 たとえば、トヨタ自動車がいかに高収益企業でも、利益を稼ぐための時間を与えてくれないと、株式の価値を増やすことは出来ません。「厳密に」というのは、たとえば同じ日の朝9時から午後3時の間にも、厳密には、利益を稼いでいるはずだが、という程度の意味であって、現実的には、限りになくゼロに近いと考えるべきでしょうし、さすがに近年の株式売買手数料が安いといっても、この時間内に反対売買するのでは、期待収益が売買コストに負ける公算が大きいでしょう。

 つまり、短期の株式取引にあっては、「投資」の側面はごく小さく、本来は殆ど同じ投資価値でありながら、株価だけが変動して、Aさんが買ったのと同じ株を売ったBさんの、どちらかが儲かって、どちらかが損をする、というゼロサム・ゲームの色彩が強まります。つまり、短期トレードの損益の多くは、経済的な性質としては「投機」から発生しているということができます。
 株式投資の基本は長期投資だ、というようなことがよく言われますが、このように考えると、大体の事情が飲み込めるのではないでしょうか。お金を与えて、時間を掛けることで、投資先企業に株式の価値を増やして貰うことを味方につける、ということが、長期投資の要諦です。

 ただし、投資の理論の観点では、投資期間が長期になると、それと共に投資家が負担するリスクは大きくなるのであり、長期投資では、それに見合った収益が期待できるということに過ぎないのであって、長期投資の方が短期投資よりも『有利だ』ということは簡単には言えません。また、もちろん、一定の期間、自分のお金を自分で使えないのですから、そのことのコストも考えなければなりません。
 株式を長期に保有することの明確なメリットは、実は、保有期間当たりの売買手数料を薄めることが出来るという、一時的なコストの希釈効果だけです。仮に、片道で、売買代金の0.5%の手数料コストが掛かるとすると、保有期間が1年間の場合、手数料による投資収益率のマイナス効果は1%ですが、保有期間を10年に延ばすと、年率では0.1%に縮めることが出来ます。

 金融機関など、手数料を顧客から取る側の立場から提供される投資教育では、長期投資の真のメリットが実は一時的な手数料の希釈効果にあるのだとは、教えてくれないようですが、これは真実です。しかし、現実には、困ったことに、いわゆる投資教育では、この正しい効果の方ではなく、「長期投資でリスクが縮小する」という嘘の方が教えられることが多いようです。

■「短期」であることのメリット

 また、長期投資のメリットとして、「経済や企業のことは、短期的にはブレがあって予測が難しいけれども、長期的な流れは確実に見ることが出来るから、長期の方が予測が当たる」と考える人が時々いるようなのですが、これも正しくありません。殆どの場合、より将来のことの方が、より不確実で、予測が難しくなります。
 株式投資に最も深く関係するのは、企業収益の予想でしょうが、ある程度の具体性と確信を持って特定の企業の収益を、「予想」あるいは「予測」できるのは、せいぜい2年先くらいまでだと考えるべきです。3年以上先の収益は、「予測」というよりは、「想像」するものだという方が実感に近いでしょう。

 それでは、長期の予想の方が当たりやすいように思えたり、投資信託などのファンドマネジャーが「中長期的な投資を行う」ことを強調したりするのは、どういった理由なのでしょうか。
 たぶん、直接的な理由は、短期の予想の方が「外れ」が目立つからでしょう。
 人間の脳は非常に柔軟に出来ているので(皮肉ではなく、真実です)、長期の予想の場合、時間の経過と共に過去の不都合な予想は印象が薄らいで来ますし、当たりの予想は、印象が強化されます。しかし、短期の場合には、なかなか、そうは行きません。
 たとえば、これは私の経験でもありますが、ファンドマネジャーの仕事をしていると、日本の景気についても、「良くなる」と思うこともあれば、「悪くなる」と思うこともあり、短期間にもいろいろな印象を持ちますし、それらはしばしば入れ替わります。ところが、それから、しばらく時間が経過すると、景気は、実際に、どちらかの方向に変化している訳ですが、何故という理由も含めて、「(やっぱり)×××だから、○○○だろうと私が思っていた通りになった」という印象を、自分では持ちやすいものです。

 また、これはファンドマネジャーの職業上の秘密に属するかも知れませんが、「長期投資なので(長い目で見てください)」という台詞は、予測が外れたり、結果が悪かったりした時に、第一に使うべき、この職業の「言い訳の定番」なのです。この台詞を、発言の意図に忠実な別の日本語に言い換えると、「(長期投資なの)だから、短期の結果で責めないで下さいよ」ということになります。プロは、将来の自分の言い訳を通りやすくするために、「投資は長期だ」ということを、あらかじめ強調しがちなのです。

 ところで、損益の要因として「投機」が支配的である場合、時間の問題をどう考えたらいいのでしょうか。投機の利益は、他人と自分との間に見通しの違いがあって、自分の見通しの方が結果的に優れていた場合に発生するものだと考えられます。要は、単なる幸運を除くと、自分が、他人の多くが持っていない有効な情報を持っている場合に儲かるということですが、こうした情報は、他人に伝わって、彼らの行動に影響を与え、株価の動きに反映されるまでに時間が掛かります。また、株価は、通常、たった一つだけの情報で形成される訳ではありません。株価には、複数の要因が影響します。

 たとえば、ある会社が非常に有望な新製品を近い将来発表するという情報は、プラスの追加的な収益をもたらしそうな好材料ですが、この情報が株式市場の他の参加者に知られる前に、株価にとってはネガティブな別の情報が発生することがあります(たとえば、別の製品での失敗とか、経営者の不祥事とか)。こうした場合、理想を言えば、自分が株式を買ってしまった後は、「買い」の根拠になった情報が、なるべく早く他の市場参加者に知れ渡って、余計な情報が邪魔をしないうちに、株価が上がり、自分が利益を確定できることが望ましいわけです。

 つまり、しかるべき根拠のある場合に限りますが、「投機」は短期間に決着がつく方が良いのです。反対に、「投資」の有利性を実現するためには、時間が掛かります。そして、現実の株式投資には、投資の要素もあれば、投機の要素もあります。
 自分がある株式を買う根拠が、他人が知らない有益な情報なり判断なりを自分が持っているという判断にあるとするなら、余計な情報が影響しない短期で決着を付けようと考えるべきでしょうし、投資先の企業の収益に期待して資本を提供しているという意味で投資しようとするなら、心の中で「長期投資、長期投資」と唱えるべきです。前者では、時間は敵ですが、後者では時間が強い味方です。

 また、純粋に資金の効率を考えると、同じ儲けなら、短期で儲かる方がいいに決まっています。賭けようとするチャンスが、短期のものである、ということについて、罪悪感を感じる必要はありません。
 簡単ではないかも知れませんが、自分が、やろうとしていることが、「投資」なのか「投機」なのか、意味的にはどういった比率で、どんな行動をしようとしているのかを、よく考えてみましょう。

 なお、「投機」というと、悪いことのように思われるかも知れませんが、これは、「投資」のように時間を味方に付けることが出来ないというだけであって、自分の行為としても、社会的な行為としても、決して悪いことではありません。たとえば、投機を英語で言うと「スペキュレーション(speculation)」ですが、スペキュレイト(speculate)とい動詞は、「熟考して判断を下す(そして、賭ける)」といった、ある意味では、人間の精神の最も高級な活動を表す言葉です。また、「投機」を行う人がいることによって、株式市場には流動性がもたらされて、「投資」もより円滑に行うことが出来ます。また、為替市場や、商品先物市場のような、本質的には投機の市場でも、取引を通じて、リスクを移転できることは、最終的に経済の生産活動の役に立っています。よく、為替レートが大きく変動した場合に、財務大臣などが、非難のニュアンスを込めて「投機的な動きが見られる」とか「投機的な動きには、断固とした措置を取る(≒介入する)」といったコメントを吐くことが多いのですが、取引がルールに則っていてフェアである限り、「投機だから悪い」というようなことは、いささかも言えません。確かに、一般的な構造として「投機」は「投資」よりも不利ですが、その不利は、投機に参加している本人が負うのであって、他人が負うのではありません。「投機は悪い」というのは、一言で言うなら「余計なお世話」です。ついでに言えば、投機よりも面白いものが、世の中に、そうたくさんあるものではありません。つまらない批判は気にせずに、自分なりのペースで楽しむのが得策です。

 もっとも、繰り返しになりますが、時間の経過と共に、運用資産額の期待値が成長する「投資」は、ゼロサム・ゲーム的な収益しか期待できない「投機」よりも有利なのです。そして、個人個人の意思決定としては、「有利だから株式に投資する」ということであり、それ以上でも以下でもあり得ません。

以上





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最終更新日  2006年09月01日 17時27分36秒
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