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2007年05月04日
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■「市場の効率性」とは

投資に関わる理論的な知識で扱い方が曖昧な概念に「市場の効率性」、或いは「効率的市場仮説」と呼ばれるものがある。これは、簡単に言うと、株式市場のような資本市場では、情報が瞬時に伝達されて、正しく解釈されて、価格に反映するので、そこで実現する価格は常に正しい、という市場観のことだ。

正しい株価が常に実現するということは、企業の財務データや将来性などを分析して本来あるべき価値よりも割安な株価でその企業の株を買って、他人よりも儲ける、といったことが不可能になることを意味する。従って、市場が効率的だとすると、少なくとも、アクティブ運用には出番がない、ということになる。そこで、運用業界では、たとえば投資顧問会社とその顧客である年金基金との間では、「市場は効率的だと思うか?」というような半ば神学論争のような議論が繰り返される。

議論の本筋には関係ないが、用語解説をしておくと、「効率的市場仮説」には、その内容の強度に応じて、「ウィーク・フォーム」、「セミ・ストロング・フォーム」、「ストロング・フォーム」の三段階があるとされる。最も弱い「ウィーク・フォーム」では価格情報を分析すること、たとえばチャート分析は、誰でも安価、かつ簡単に出来るから、投資情報として無意味だと考える。「セミ・ストロング・フォーム」では、情報の範囲が経済や企業の分析、いわゆるファンダメンタルズの分析も、情報が十分伝達されているし、価格に影響力のある複数のプロが市場に参加しているので、市場で形成される価格(株価)に反映してしまうので、無効だ、と考える。さらに、最も強い「ストロング・フォーム」では、いわゆるインサイダー情報のような企業の内部情報も、誰かが価格に反映させるので、投資収益を改善する役には立たないと考える。

真理が多数決にあるわけではないが、運用関連業界では、「ウィーク・フォーム」の市場の効率性が成立しているという見方と、「ストロング・フォーム」の市場の効率性までは成立していないという見方が、圧倒的な多数を占めていて、意見が割れるのは「セミ・ストロング・フォーム」の辺りだ。

たとえば、アマチュアの世界ではそれなりの人気があるチャート分析は、年金運用のような顧客側がプロ(年金基金も一応プロの範疇だ)の世界では、まともな投資分析手法だとは思って貰えない。年金運用のようなフォーマルな運用の世界では、チャート分析で運用している、というファンドマネジャーが雇われることは、ほとんどない。

逆に、「インサイダー情報も含めた、特別な情報収集に基づく」という運用手法は、そのような情報を本当に集めて運用することは難しそうだし、文字通りのインサイダー情報では、場合によっては法に触れる。つまり、「ストロング・フォーム」を否定するとしても、その応用を実現することは現実的に難しい。

そうなると、スポンサー(運用するお金の出し手)側では、ファンダメンタルズ分析が有効だと「信じて」アクティブ運用を採用したり、有効でないと考えて手数料が安いパッシブ運用を採用する、というような行動につながるし、運用側も、それぞれに対応した運用哲学を掲げたり、運用商品を開発したりする。


■アクティブ運用の有効性との本当の関係

それでは、「市場が効率的でない」とすると、アクティブ運用は有効なのか。また、株式市場そのものは「効率的」であるのか、否か。

面倒だから、まとめて答えてしまうと、現実の株式市場は「効率的」にはほど遠い。しかし、だからといって、アクティブ運用が有効だと言える保証はない、というのが答えだ。

「市場が効率的」という時の「効率的」には、チャンス(つまりミス・プライス)がないことが含意されているから、論理的に考えて、あるアクティブ運用が上手く行くことは、市場が効率的ではないことの証拠になると考えていい。しかし、市場が効率的でないということが、論理的に、すべてのアクティブ運用が有効であることの根拠にはならない。つまり、市場が効率的でないからといって、特定の(たとえば、どこかの投信会社の)アクティブ運用手法が有効であることは保証されない。

現実は、個々の投資家が持っている情報も、判断力も、共に、正しい価格を短期間に発見するに十分なレベルからは、ほど遠い。この点に関しては、理論が求めるようなレベルと比べると、プロも、アマも、お話にならないくらい低レベルで、しかも相対的なレベルは五十歩百歩でかつ不安定だ、というのが、洋の東西を問わず、今も昔も現実だろう。

「ドングリの背比べ」と喩えると、ドングリどうしの長さは、厳密に測ると差が付くし、その差は固定的だから、より正確な比喩として、「株式市場は『ドングリの影の長さ比べ』のようなものだ」と言ってみたい。ドングリは投資家の能力レベル、ドングリの影は投資家の運用パフォーマンスだ。投資家の能力レベルに多少の差があるとしても、所詮ドングリ程度であって、しかも、ドングリの影は、光の当たり具合や、そもそも不安定なドングリ自体の向きの変動によって、伸びたり縮んだりしていて、どのドングリの影が、全ドングリの影の平均を上回るかについては安定しない。

たとえば、ある投資家は、株式投資について、或いは個々の企業について、他人よりも明らかに詳しいかも知れない。しかし、その知識が運用結果に有効に生きるかどうかは、運用をやってみなければ分からない。そして、企業の事情について詳しいことは、多分、運用パフォーマンスを安定的には改善しないだろう。これが、プロ・アマ含めて、たぶん、熱心に勉強した投資家の到達点なのだ。

ちょっとガッカリされるだろうか。或いは、いつまでも刺激があって面白い、或いは、勝つドングリになることの難しさが分かって、一層張り合いが出る、とでもポジティブに考えていただけるだろうか。


■市場の非効率性の根拠

さて、「市場は非効率的だ」また「投資家の判断力は(ドングリの背丈並みに)乏しい」と決めつけたことの根拠をまだ説明していなかった。

市場の効率性を否定する実証データとしては、行動ファイナンスの研究などでは、たとえば、ロイヤル・ダッチ・シェル社の株価の英・蘭両市場での理論値からの長期的な乖離(要は裁定が十分働かないということ)、ミューチュアル・ファンドやカントリー・ファンドの市場価格がファンド資産の純資産価値と大幅に乖離することがしばしばあること(これも不十分な裁定だが、ファンダメンタル・バリューからの乖離でもある)、及び、各種のアノマリーと呼ばれるような現象(小型株効果や低PBR効果、リターン・リバーサルなど)を挙げることなどが一般的だ。もちろん、行動ファイナンス系の本や論文でこうした現象を学ぶことも有意義だが、筆者としては、もう二つ付け加えておきたい。

一つには、日本の1980年代後半の株価を含めた資産価格バブルや、アメリカでも2000年に崩壊したネット株バブルのような、少なくとも後から見ると、合理的に説明がつかない、俗に言う「バブル」が市場ではしばしば起こっていることだ。個別の株価ばかりでなく、銘柄群の平均で個別の誤差を均して見ても、「正しい価格」の発見能力が市場にあるわけではないことが、明らかではないだろうか。

もう一つは、実証的というよりも、実感的だが、率直に言って、個別の企業の株価が幾らであるべきなのか、私も含めて、投資家個人が明確な根拠の下に絶対値を求めることがどう見ても不可能だ、という現実だ。個々の企業に関して時間と労力をかけて調査しているはずの証券会社のアナリストのレポートを見ても、企業の1、2年先の収益を予想することに力が入っていても、その数字の活かし方は、せいぜい何らかの修正利益に対する相対PERで見て「高い」とか「安い」とかいったものであり、他の銘柄のものも含めた市場価格に依存した株価判断になっていることから見ても明らかだろう。

率直に言って、トヨタ自動車でもソニーでも、個別の株式の適正株価を財務データだけを見て、独力で求めることは難しい。たとえばトヨタなら、ホンダや日産と比べてPERがどうか、とか、米国のビッグ・スリー(そろそろ死語になるのかも知れないが)と比べてどうなのか、といった銘柄間の相対評価や、トヨタ自身の以前の株価と比べてどうなのか、といった時間的な相対評価、つまり結局は相当程度他人の評価に依存して、適正株価の判断をしているのが現実だ。

しかし、伝統的なファイナンス理論が投資家に要求しているレベルは、個々の投資家が正しい価格を瞬時に判断できるというレベルなのであり(そのためには数千銘柄の相関関係から、将来のキャッシュフローの割引現在価値まで、瞬時に計算できなければならない)、それぞれが正しい判断を行うことが出来て初めて、将来の期待リターンとリスクに関して投資家間の前提条件が一致して、CAPM(資本資産価格モデル)のようなポートフォリオ理論が導かれる(なお、リスクをどれだけとりたいかという点に関しては多様であっても理論構築上の不都合はない)。

ポートフォリオ理論に関しては、投資家の計算能力についても、理論の要求と現実には大きなギャップがある。たとえば東証一部だけでも、ざっと1500銘柄あるが、理論では、投資家は、これらの銘柄の期待リターンとリスク、それにリターンの相関関係を考慮して、リスク・リターンの効率がベストのポートフォリオを(ということは、個々の銘柄の最適な投資比率を)計算することができなければならない。しかし、はっきり言って、それは、亀に腹筋運動をさせようとするくらい無理な要求だ。

(2)へ続く





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最終更新日  2007年05月09日 09時52分15秒
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