カテゴリ:短編小説
冬翔竜さまが到来する冬の間にだけ、
この街には期間限定で開くカフェがある。 「スノーマンズ・カフェ」 その名の通り、カフェのマスターは、赤いマフラーを蝶ネクタイのように結んで、 同じく赤い手編みの帽子をかぶった、雪だるまさん。 お店の中も、雪の結晶のカタチの椅子とかテーブルとか。 雪だるま柄のカップとかあって、可愛い。 床をちょこまかと忙しく走り回る、 ちまっこいぷちダルマちゃんたちも、らぶり~♪ このお店は、特別メニューの『スノーマンズココアSP』(別名マスターすぺさる)っていう、 マシュマロを浮かべたマスター特製ココアがすっ…ごく美味しくて。 なんだかんだと、冬のあいだはここがみんなの溜まり場になっちゃっている。 ほんとにのんびりするにはいいところなのだ。 で、今日も3時のお茶をマスターのところでまったりしようと思ってたんだけど…… からんころんころんからからからん。 「ねえねえねえリタきいてきいてきいてーーーーー!!!」 やたらハイテンションな勢いで扉を開けて入ってきた人物のせいで、 それははかない夢と消えてしまった。 明るい栗毛のポニーテールに、くるくるっとした、 こぼれ落ちそうなくらい大きな蒼い瞳の女の子。 何をそんなにいれてるのか、っていう程、 ぱんぱんにふくらんだかばんを両手に下げている。 「こんどは何。セイラ……あ、マスター、『マスターすぺさる』一つお願いしまーす」 「うんとねうんとねーっっ……あ、私も同じのくださいなっ」 「……わかった。2つだな」 見かけからはあんまり想像できない、渋い声で注文を確認するマスター。 「で。どうしたって?」 「そうそうそれでねっ、噴水公園のあたりに開いてた『穴』の先で、すーごい好みなロボ見つけたのーーーー♪」 「なにそれ。ロボの世界にでもいったの?」 あやうくむせそうになりながら聞くと、セイラはふるふる、とかぶりをふって、 「ううん。人間の姿だったけどロボのにおいがしたのー」 「……どういう鼻してんの。あんたは。」 「スノーマンズココアSPお待ち。……まあ彼女の鼻は特別だからな」 注文したマスターすぺさるをカウンターごしに置いて、 マスターがぼそりともらす。 特別というか……なんというか。 彼女、セイラは世界に開いた『穴』を探す、という特技の持ち主。 『この世界』ではない別の『どこか』へと通じる穴。 わりと探せばあっちこっちにあるよ、と彼女はいうんだけれど……。 私も見えるには見えるけど、探すほうは全然。 セイラはその『穴』を見つけるのが妙に上手くて、その『穴』をくぐって別の世界に探険に行っては、珍しいモノや変なモノを仕入れてきて、雑貨屋さんというか骨董屋さんというか。そんな風なお店をしてる。 そして彼女は無類の――ロボ好きなのだ。 いや単なる『ロボ好き』とかそーいうレベルじゃなくて…… マニア?むしろストーカー?いやいやいや。 私があらぬ考えに囚われている間にも、彼女の話はえんえんと続いている。 「それがね?!背が高くってさらっさらの銀髪がお日さまの光に反射してきらめくのがすげきれいでねっ?! ロボにしとくにゃもったいないぐらいイケメンなの彼ーーーーーー!!!あたしが『穴』から出たときは、 噴水の近くで人待ち顔だったんだけど。それから女の子がきて、デートみたいなことしててさ」 「……あんたずっとその人いやロボ?つけまわしてたの?」 「そうだけど?」 「ロボって普通なんかしらのサーチシステムみたいのとかついてるでしょうに。気づかれてなかったの?」 「うん。ぜーんぜん」 セイラはふふーん。と小さい胸をはる。 そしてポケットがいっぱいある彼女の服の、右のポケットをごそごそやって、何か透き通った紫色の指輪みたいなものを取り出した。 「この!!セイラ特製!!『カクレルーンリングZ・改』を使ったからーーーー!!」 「…またそんな怪しげアイテム出す…」 「とにかくね!!とにかくね!!かっこいいの!!要チェックなの!! ちょっと寡黙っぽいとこもかなーりタイプなのよう~~!!街の人に聞いたらねっ、 彼、近くの古本屋さんで働いてるんだって!!ううんこりゃ通い詰めるしか!!そして常連になるしか!!」 ぐっ!!とやたら力強く拳をにぎりしめる。 あーあーあーもう、こうなったら止まんないな…セイラは。 苦笑しながらマスターの方を見ると、マスターも無言で首を横に振っていたり。 うーん、でもそこまでセイラが入れあげてるその彼ってーのもちょっと気になるかも…? 今度一緒につれてってもらおうかな。 「どうでもいいが、セイラ。ココア冷えるぞ?」 「……あ。」 またぼそりとマスターが一言。 ……セイラのその怪しげアイテムが本当に効くんだったら、だけどね…… あわててココアをすするセイラを見ながらそんなことを考えている昼下がり。なのだった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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