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一夢庵 怪しい話 第3シリーズ 第835話 「グリルズ」
最近はあまり見かけなくなったのですが、一昔前は、虫歯の治療などで歯を削った後に金を被せる、いわゆる”金歯”という処置がありました。 成金の象徴のようなところがあったのか、口を開けると一面に金歯が並ぶ人もいたためか、奇談の定番として、そういった人が死んで荼毘にした後に、火葬場の従業員などが溶けた金歯の金を回収するという話もあったのですが、今となっては何のことか分からない話かもしれません。 つまり、最近は火葬に要する時間が2~3時間程度という火葬場が主流になってきているのですが、火葬場の火力が弱いと火葬が終了するまでに一晩 ・・・ 夕方に火を入れて翌朝に骨を拾う形式の火葬場が珍しく無く、骨を親族などが拾いに来るまでに若干の時間があったわけです。 それはさておき、口を開けると金の煌めきが見えるを、成金趣味というかゴージャスというかは意見が分かれるところだと思いますが、ヒップホップを歌う歌手の中に自分の歯の(当然、人から見える側の)表面の中央に宝石を埋め込む人が出てきて、そういった歯の宝飾のことを”グリルズ”と呼ぶのだそうです。 口を開いて歯を見せると色とりどりの宝石が煌めく光景を素敵と思う人が少なからずいるから複数の人がグリルズをするのだろうなあと思っていたのですが、歴史的には2500年以上前のメキシコの古代人も同じような事をやっていますので、単なる先祖返りかもしれません。 有名なのは、メキシコのチアバス州で発掘された頭蓋骨の標本ですが、北亜米利加南部というかメソアメリカと呼ばれる地帯から出土する頭蓋骨に残っている歯にはグリルズのような宝飾加工が希に見られるようです。 ちなみに、宝石を埋め込むだけでなく、歯に溝を削ったり一定の間隔で刻み目を入れているケースもあるのですが、いずれもその周辺が虫歯になっていないあたりが驚異的な歯科技術が ・・・ あるいは歯磨きの習慣が ・・・ あったのかもしれません。 ただ、そうした歯科技術の伝承は途絶えた ・・・ 遅くとも、当該地域を16世紀に西班牙人が制服した事で断絶してしまったようで、現在のメキシコ界隈で古伝の歯の加工法は伝承されていないようです。 南米で、頭蓋骨に穴を開ける高度な外科手術の跡が残っている頭蓋骨が出土する話は比較的知られていて、戦闘時に棍棒か何かで頭を強打されて脳圧が上がったときに頭の一部に穴を開けて頭の骨を四角く削り取ることで圧力を逃がしていたのではないか?という説もあるのですが、そういった処置をした後も生き残って骨が部分的に再生している頭蓋骨も出土しているそうです。 で、そういった外科手術をするときに、現在では麻薬に区分されているマジックマッシュルームやコカインなどの幻覚作用のある茸や植物が使われていたのではないか?という説もあるのですが、こちらの方は仮説に過ぎないようですが、もしそうだとすれば、人類が外科手術に麻酔を使うようになった起源がずいぶんと遡ることになるようです。 此の辺り、自分たちは最先端の事をやっているとか新しい事を発見したり開発したと思っている事の幾つかは、数千年前に誰かが既に発見したり開発していた事が途中で失伝して伝承が途切れただけではないのか?新しい発明と思ったら、既に誰かの特許が数百年前に出願されて成立していたのと同じような事が起こっているんじゃないのか?ということと大差がありません(笑)。 そう考えると、ボディ・モディフィケーション(身体改造)と呼ばれる奇妙な肉体の加工もまた、先祖返りしているだけなのかもしれないのですが、直接のルーツとされているのは1980年代に亜米利加西海岸で誕生した”モダン・プリミティブ”という体を使った芸術活動(?)ということになっているそうです。 ちなみに、日本に置けるこの手の身体改造は、”蛇にピアス(金原ひとみ:2003)”あたりで一般人にも知られるようになった感があるのですが、単純に体を加工すればボディ・モディフィケーションなのか?と考えると、”う~ん”と考え込まないでもありません。 もともとが芸術活動の一環ということもあって、苦痛をコントロールする(ペインコントロール)という概念を具象化するパフォーマンスを行う人達から、単に肉体を切り刻んで加工するだけで満足する人達が派生し分派もしていったようで、前者の場合は、ボディ・サスペンションに見られるように肩口に金属製のフックを埋め込んだり刺して、そこに紐を通して宙づりになるパフォーマンスなどが知られています。 * 自分で自分の体を鞭や棒などで打って苦痛を与えてそれに耐える事で信仰を証明するというか信仰心の強さを示すとする宗教の話は、”ダビンチコード(ダン・ブラウン)”などでも登場しましたが複数の宗教や宗派で散見されますから、その意味では宗教に近いのかもしれません。 もっとも、単なる身体改造として、サスペンションを捉えると、肩口にフックを刺す(スーサイド・スタイル)だけでなく、胸部、腹部、膝などにフックを刺すこともあるそうですし、必ずしもそうした金具を利用して宙づりにできる強度が確保されているとは限らない見た目重視の加工もあるそうです。 そう考えると、何らかのパフォーマンスをともなわない身体改造というのは、タトウ(刺青)やピアスなどの既存の身体加工の発展形というか延長上の加工と考えた方が良いのかもしれませんが、”自らの体を自らの意志でデザインして加工する”のが身体改造だとすれば、理髪や美容整形、ボディビルなども広義では身体改造に含まれるのかもしれませんから、あまり広く捉えると訳が分からなくなってしまいます(笑)。 とはいうものの、インプラント(何らかの素材を皮膚の下に埋め込むこと)やカッティング(皮膚に何らかの方法で模様をつけること)などを見ていると、古代の呪術の末裔という気がしてくるから不思議なもので、始まりは芸術であっても、そこに雑多な宗教の影響が次第に入り込んでくるのは不可避の現象なのかもしれません。 つまり、変身願望の具現化というか、人から離れることで逆説的に(意識的にしろ無意識にしろ)神に近づこうとしているのではないか?その意味では、”精神的な飢え”が彼ら彼女らを身体改造に走らせているのではないか?という気がしないでもないということで、神亡き時代に神を探す行為がボディ・モディフィケーションのような気がしてくるわけです。 もっとも、加工技法もさまざまで、豊胸手術で生理食塩水の入ったパックを乳房の下に埋め込む方法が知られているのですが、セイリーン・インフュージョンという加工は、主に顔面を含む頭部の皮膚の下に生理食塩水を注射器で注入して瘤を造る加工ですが、注入した量にもよりますが半日もすると生理食塩水が体に吸収されてしまい瘤は消えてしまいますから、パフォーマンスの要素を含んだ一過性の身体改造として知られています。 セイリン・インフュージョンと同じように、見た目のインパクトは大きいけれど、付加したものをが比較的簡単に取り外せて、取り外してしまえば普通の日常生活に戻ることもできる身体改造としては、”プレイピアッシング”や”縫いつけ”などが知られていますが、やり直しというか再加工が比較的容易なだけに、パフォーマンスとの相性が良いようで、自分の体を使った芸術活動の一環として取り入れている人が多いようです。 逆に、一度加工を施してしまうと後戻りができない加工の代表格が、”カッティング”で、刺青の系列に連なっているというか原始的な刺青に近い身体加工ですから、気軽に別の模様にというわけにはいかず、気軽に何も加工しなかった状態に戻すわけにもいかない身体加工の典型ではないか?と思われます。 ただし、ワニをトーテムとする阿弗利加の某部族などで、その傷跡がワニの表皮に似た模様になるように胴体に傷を刻む事が、起源が定かではないほど先祖代々の成人男性への通過儀礼になっている事例もあります。 ちなみに、カッティングと自傷癖との違いは、カッティングはスカリフィケーションと呼ばれる意識して一定の模様を皮膚の表面に刻む加工が典型で、スカリフィケーションには、焼き印で模様をつけるブランディングや皮を剥いだ傷跡を模様にするスキン・リムーバルなども含まれるのですが、いずれにしても”自分の意志で自分の体を加工する”事が大前提としてあり、発作的に切り刻むだけの自傷行為とは一線を画しています。 あるいは、タトウの技術と結びついて、元々は皮膚を切ってケロイド状に傷跡を盛り上がらせた傷跡で一定の図形を描くだけだったのが、タトウ用のインクを傷跡に流し込むというか擦り込む”インクラビング”技法などが開発されたように、時間の経過とともに新しい加工技術が導入されて広がっている成長過程の分野でもあるようです。 なお、美容整形やボディビルなどもそうですが、その美しさを維持したければですが、加工が完成したらそれでお終いではなく、日々の手入れや定期的な加工や点検などの手間暇が必要となり、その意味でも単純に体を痛めつける行為とは一線を画しているボディ・モディフィケーションの特徴の一つになっているのかもしれません ・・・ いずれにしても、私は痛いのは嫌いですから身体加工とは無縁ですが(笑)。 初出:一夢庵 怪しい話 第3シリーズ 第835話:(2010/06/21) │<< 前へ │次へ >> │一覧 │コメントを書く │ 一番上に戻る │ |