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カウンターしかない小さな店で出会ったのは、きっと偶然じゃなかった。
十一人しか入れないために、完全予約制となっているこの店で、もう何度も顔を合わせて来た。女将さんと一緒に笑ったり、話を小耳に挟んだり。こちらは2人だったり、向こうは4人だったりと、いつも誰かが一緒だったけれど、店を出てからカラオケに行ったりボウリングに行ったこともある。 アドレスは交換したけれど、直接掛かってくることはなかった。何か用がないと電話できないし、そもそもこちらからの用などなかった。でも、店で会ったら「また会いましたね」と会釈する。特別な言葉を交わさなくても、同じグループのようにこの店で飲んできた。 いつも大体金曜日の夜にこの店に来ることにしている。毎週ではないけれど、翌日を気にしないで飲みたいし、金曜日に連れ添う彼もいないから。本当は毎週でも通いたいのだけれど、そんな女って痛いと思うから、ちょっと遠慮する。悔しいけれど、それくらいのプライドはまだ少しだけ残っているみたい。 その店で彼と出会うことが何回か続いて、「最近よく会うね」と言うと少し照れたような顔をして笑った。隣の席になってお互いの連れを交えながら、少しだけ彼自身の話をしたり、自分の話をしたりし始めた頃だった。 偶然を強調する無邪気な話をしたら、女将さんの眉がピクリと動く。 「あら、やだ。まだそんなことを言ってるんですか?」 いつもの高い声に釣られて、その言葉を聞き返すと 「偶然なんてこと、ある訳がないじゃありませんか!」 隣の彼が苦笑している。 「このお人はね、偉い方なんですよ。毎週金曜日に予約されて、あなたのいらっしゃる日をじっと待っているんです。 私はそういうことを教えないから、とにかく毎週いらっしゃって。あなたに会えたらラッキーなんですって。こないだ、酔いつぶれておっしゃってましたよ。 でもね、もう毎週ここにいられても困りますから、早く告白なさい、って申し上げたんです。それが前々回の金曜日。もうとっくに受け入れて、今日はそういうことでご一緒なのかと思っていたのに」 「女将さん、まだ何にも言っていないのに、そんなこと言ったらダメだよ」 そう言ってからチラッと私を見てうつむく彼の耳はもう真っ赤だった。 「あなたがそういう人だからいつまで経っても、なんです。 実はね、今日いらっしゃっているお客様はみんな気がついてたんですよ。 もちろん私からは何にも申しません。 でもみなさん、ここにいらっしゃるたびに『あの二人はどうなった?』と聞くので、『ええい、そんなにみなさんが気にしてるなら、いっそのこと貸切で2人だけで決着させます』と申し上げたんです。そしたらみなさんが『それでこの店を貸切にするのは二人には贅沢すぎる。野次馬だけど邪魔しないから』とおっしゃって。 今日のメンバーはお二人とも一度はお話されたことのある方たちばかりですよ」 そう言われてみると、十一人の座っているカウンターには、私の親友と、彼のいつもの友達三人に、いつか焼酎のボトルをおすそ分けしてくれた、どこかの会社の役員をやっているおじさん二人と、ヤクザみたいな風貌だが実は心やさしい常連組三人である。この調子では連れの仲間も全員仕掛け人なのだろう。 「というわけで、いろんな人に支えられてる、僕らが出会ったこの店できちんと申し込みたかったんだ。 でも、いざとなるとなかなか言えなくて。いつもの調子ではなかなか話せないしね。 とりあえず、今度は二人でこの店に来るっていうので、いかがですか?」 それからは、何だかわからないうちにみんなが祝福の乾杯をし出すし、とりあえずこの店にまた来るっていうのはナイスだなと納得するオヤジどもや、まだ何にも返事していないのにうれし泣きをする私の親友とか、ハイタッチをする彼の友人たちとか、めちゃくちゃだった。 はっきりと断れない状態になったけれど、確かにこの店に来ることには異論がない。この店が好きな人に悪い人はいないだろうし、この店で何度も会って話してるから違和感もない。だからといって彼氏にしていいのかとも思ったが、彼氏にしなくてもこの店でまた会う気がしたので、おいしいものはおいしく食べたいと思った。 女将さんが焼いたつくねがとてもおいしくて、つい満面の笑みをしたのがOKのサインだと思われたらしく、否定する間もなかったが、おいしいものを食べて笑顔になるのは偶然ではなく必然だろうと思ったら、何かいい感じだとも思えた。 「どうせならこの店で披露宴とかやれば?」 「ここで、ですか?」 「ああ、君らを抜かせば九人座れる。披露宴のテーブル一つって大体そんな人数だろ?」 「そうだよ、それぞれの親類をさぁ、この店に連れて来て毎日宴会をしたら、二週間くらいで終わるんじゃねえの?」 「小学校の友達の日、とか会社の上司たちの日とか、な」 「でもここじゃケーキ入刀ができねえぞ」 「この店にケーキは似合わないよ。レバ刺し用の肉の塊に包丁が入ればいいことにしよう」 「キャンドルサービスは?」 「それは備長炭の上に、串を乗せようよ。火を扱ってる感じがするし」 「2人の初の共同作業ってか」 「新郎新婦はみなさんの器に、二人手を取り合いながら、鶏がらスープを入れてお酌もします」 「めでたいなぁ。女将さん、この横丁から花嫁が出るなんて、女将さん以来じゃねえのかい?」 「あら、まぁ、うれしいことを。その通りです。私、この横丁を文金高島田で練り歩きました。横丁の二階から紙吹雪とお祝い金がお賽銭のように降ってきました。なつかしいです」 「じゃあ、またこの横丁も忙しくなるねえ。めでたしめでたし、今年はいい年になりそうだねぇ」 この記事のトラックバックURL:
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渋谷のんべい横丁。今年初の名店潜入。 この眺めは渋谷ではないみたいだ。 モ(Feb 12, 2008 02:50:45 PM)
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