人を動かす懐石
自分を成長させるためのモチベーションってある日突然やって来るものですね。三月のある日、私は銀座の「懐食みちば」へ食事に出掛けました。いわずと知れた和の鉄人・道場六三郎さんのお店です。ミーハーですが、東京に引っ越してきてから、いつかはぜひ道場さんのお店で料理を味わってみたい、という思いがあったからです。出てくるお料理はどれも想像していた以上においしく、時には軽い衝撃を覚えるほど創造的で深い味わいがありました。食事が終わる頃、私は不思議な気持ちに包まれていました。それは、「こんなすばらしい料理をいただくのに ふさわしい人間になりたい。」というものでした。食事代が高かったからではありません。純粋に、「あ、私、食事負けしてるな。」と思ったのです。質の高いものはもちろん奮発してお金を払えば手に入れることができます。けれど、今の自分にはその良さを十分享受するほど中身が伴っていないことを痛感させられ、ちょっぴり罪悪感さえ感じました。よく、若い女性がエルメスのケリーバックを持てるくらい経験を重ねて女っぷりを上げたい、といいますが、まさにその心境です。友人はティファニーのダイヤモンドをご主人に送ってもらったとき、同じように感じたそうです。「このジュエリーにふさわしい上品さを身に着けよう!」と。食事が終わって帰る頃、私は「あー、おいしかった!」ではなく、「明日に向かってがんばろう!!」というエネルギーでいっぱいになりました。そういう気持ちにさせてくれた食事は初めてで、人を動かすきっかけになるものって、いろいろあるんだなあ、という発見のあった夜でした。