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不思議の泉

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2012.11.04
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カテゴリ:イラスト詩



 「愛は悲しいものかも知れないわ。」

 打ち捨てられた人形のようなひとりぽっちの遠い眼差し。誰が蒔いたかわからない、いつ

咲いたのかわからない、――でも、吹き倒されたのを傷ましがっている、リリアは、
 、、、、、、
 碧い水球の夢。

 (リリー、リリアーヌ、リリアン・・)

 「愛は女神の壺から止め処なく蜜のように溢れ出で、魂を塩にして、粉々にしながらポセ

イドンが浚っていってしまうの。それでいて、振り返ることもないんだわ。ほんの気まぐれ

みたいな陽だまりに、思い出という記憶の結晶質、ぽわん、って夢の角砂糖を見つけて、指

先でつまんで、それをゆっくり溶かしこむ。黒い液体の時間。それは砂時計だったかも知れ

ないと思うの、誰彼なしにはもたされていないから、けれど――砂は、人体の一部であるか

ら。そしていま、私はただ月明かりにしか咲かない儚い花時計をたよりに、愛のゆくえを黙

って見ているしかないの。」

 水球のなかからリリアが送ってくるイメージと声、記憶を媒介としたAccess、僕にとっては

それがリリアのすべて。

 その場所は、知らない、時折断片のようなものが浮かぶが、全景はとらえきれない。古代

都市の神殿や、城壁、城下町・・でもそんなものは、些細なもので、これといった決定打に欠

ける。ただ、リリアは美しい。おそらく美しいのだろう。その容貌が時折くっきりとした三

次元画像で現れては、擦り切れ、幾何学的模様に変わったかと思うと、カオスに融けていっ

た。シュールだ。しかしリリアの実体のない波のような声はいつも柔らかで、僕の疲れきっ

た頭の中の繊細なキーを調律する。

 (リリー、リリアーヌ、リリアン・・)

 「けれど、あなたの心を奏でる水笛・・青空に蒸発したグラスのような言葉の、せせらぎに

愛を浮かべていたら、悲しみはさらさらと、無数の気泡になった。流して――流して・・・優し

さだけが珠のような雫。木の葉のように、すぐ風に吹き飛んでしまう頼りない私に、この救

われない闇の運命に、ほんのひと粒、ほんのひと雫の輝き――奇跡のような輝きをくれる。

そんな気がするの。ねえ、そんな気がするの・・」

 リリアのタイミングの良さにはすっかり舌を巻いた。
      ゆうべ
 何しろ、昨夜の僕ときたら、締め切り間際の請負論文の陳腐さに、すっかりもうやってら

れるかと嫌気が差して、バーボンに救いを求めようとしていたから。

 しかし、不思議な関係だ。時々、無力な脳味噌を奮い立たせて、記憶の糸を張ろうとして

みるが、決して手繰り寄せられずにいる。まだわからずにいる、リリアとの出会い。

 そして僕を愛しているのか、たったそれだけの質問。YES/NO のシンプルな答え。

 リリアはこんな風にいつも僕を混濁させる。あるいは、混乱させる話をした。出会いに関

する僕の頭の中の記憶チップも、ドロドロに焼き切れたような、そんな感じで混濁・・。

 「あなたには‥、とびきりシアワセになって欲しいの。」

 リリアはいつも最後になると、飛躍して、こう締めくくった。そして、僕ははぐらかされ

た不満と、リリアの愛が僕への明白な正のベクトルをもっていることの満足にシーソーされ

、こう呟くのがお決まり。

 「リリア‥、触れたい。」
 、、、、、、、、、
 揺らぐリリアの心は、そのままカオスの揺らめきの色となって掴むことができた。暗紫色

に浮かび上がる、レモンイエロー、そして鮮やかなオレンジとブルー。この色の変移に、僕

は待っている。何を? 僕の過去のシナリオを。そう、超える色の創出を。桃色への吐息の

遷移を。そのあとに生まれる真紅の蕾を。そして未だ触れたことのない新たな色を。リリア

の愛そのものの色の誕生を。











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Last updated  2012.11.04 18:14:10
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いわねぇ@ Re:P1266 廴の彩_zero(02/11) スマホだと、こんなに見えるし、読めるの…
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