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詩誌AVENUE【アヴェニュー】~大通りを歩こう~

詩誌AVENUE【アヴェニュー】~大通りを歩こう~

オリジナル意訳4

 ポール・ヴェルレーヌ

  Paul Marie Verlaine


 1844年3月30日~1896年1月8日。フランスの詩人。ステファヌ・マラルメ、アルチュール・ラ
ンボーらとともに、象徴派といわれる。多彩に韻を踏んだ約540篇の詩の中に、絶唱とされる
作品を含みながら、その人生は破滅的であった。


  
    それは 衰えはててゆく恍惚
     C’est l’extase langoureuse


 それは 衰えはててゆく恍惚
  
 それは 君の恋の懈怠

 それは 森の懐抱している艶種
              だきいだ
 さわやかな そよ風に 抱擁かれ・・

 薄墨の先・・ 鼠がふるえる枝を沈ませ

 恋のうれひも散りかへば――

    しな
 ああ 撓うかにして折れそうな囁き!

 それが かん高い声で何かを言って・・

  また言って――

 爪弾くよ 僕等のまだ柔らかい感性が・・

  耳を貸そうと貸すまいと・・また何を感じようと
 
 言って 動揺した草――美しい音色が切れる間に・・
               さめげ
 あなたは 言って この淡黄毛の水の下に

 水を切るように滑っていた 明るい 小石が

  いま 耳の中で くもぐってゆくことを――


 ごうごうと 咽喉の病魔に耳を澄ませる魂は

 心中激しく狼狽せざる この大きな炎をあげ

  いっそ もうお眠りと 呟けば・・

 恋の傷手も ねえ そうするの?

  ・・と 言うだろうか

 鉱石が見つかった あの山 よ

 言って ――私が 窒息すると・・

 どちらがじゃなくて 互いが 相手を

  ・・思い遣ったあとに 歌が生まれのたから

 かぼそい声 なまぬるい夕方を 冷やすのだ

  そして呟く ・・言って

 「もっと さみしくなりたいの」――と 僕は


    ・・と囁く びろうどの中で 無限に推し量れるものが
     Je devine, à travers un murmure


・・と囁く びろうどの中で 無限に推し量れるものが
              
いにしえの儒者の声の微妙な輪郭 
  ささめ
この低語きが 得べからぬのに意識に浸みこませ
            かなえ
 かかるためしに音楽は鼎を連ねて遇わんとす――

杳杳たる愛 ――夜明け!

 その声が 柔らかく囁くであろう 未来・・


――そして真実も! わたくしの魂の甘さ、いたましく
 かな
 愛しい わたくしの 唱えがたき心の臓に触れ・・

徐々に――速く・・ 次第にちらつき記憶も漸く薄らがんとし

この 震え――時は模様のように 淡く しかしはっきりと

 蕾 が 心地よく 膨らんでゆく・・
     アリア
ああ、詠唱曲! ・・響きわたるのが好きな――

 ・・その華やかなソプラノを 彩りながら!


ああ この死はしきりなしに ・・幕を降ろせしもの

 女優と崖――みな死ぬ時はひとり!よ・・と――

作り添え給え その休暇・・

 そして声の代わりに腕が痛くなるまで

 あなたが好きです!と肩に 触れたまえ――

揺れる老嬢の狂気!・・それとも勾配のきつい登り坂を
          ときふしごと
 転げ落ちるように 季節毎の 象徴的な姿と時間?・・

おお・・ それでも 揺れながら死にたい!――


    心の中でランボーが叫ぶ
     Il pleure dans mon cœur


華奢な魂が私の心の中で絶叫していた

そうさ 都市の篠突く雨みたいに

けだるさが残る夢うつつな季節・・

悪夢!――だとしても もう二度とアイツに会えない


ああ 柔らかな雨よ この非才を撲れ

いやな模様の煉瓦で おお濡れよ 屋根で!

お前がいなけりゃ人生は地獄より退屈・・

ああ 濡れ続ける歌!――


神に愛されたお前が涕いているのか
            イリュージョン
胸に刺さる うんざりな幻影・・

もう嫌だ! ・・彼の魂を刻む音だけだろ?

この喪が服従以外の何物でもないのが証!――


神を去らせた この痛み!

おお でもまだお前が帰ってくる気がする!

ああ やはり愛や憎しみがなくても・・

問題だらけだった 私の痛み!・・


    二人は祝福されていた
      Il faut, voyez-vous, nous pardonner les choses


それは必要かい、ほらあなた自身、みんなのものを許す。

そう気軽に想えよ、君は幸せ!

ほら、みんなの人生の気難しさがモヤモヤする瞬間は

少なくともみんなそうさ、そうじゃなかい? この駆け落ちだって・・

 確かにそれは、しのびやかにさまよい流れる、葬儀参列な二人。


ああ、二人が混じると、親族は魂の伴侶を得たようさ

 元気づけられる、――安らかに眠れよ、この嘆き――

確かにそれは混乱した願望のそよ風に、ひょいと、

 抱き締められるようなもの・・やわらかすぎるもの――

でも僕と君は移り香・・遠くへ行こうね!

そうさ――いまだけさ、僕らだけの国へ亡命しよう!


やがて二人の子供たちができて、二人の可愛い女の子がいて・・

 時々あの不幸な場面を!・・底なし沼のように思うことがある。

でも何でもないことよ、そうだね、まったく愛情ってやつはすごい、

 そうさ、だからこの場面、それもやはり祝福される・・

何故この二人が、この木陰の下で青白くなって去るだろう――

ああ君は思う、彼等は許されたってね!


    なめらかなその手がくちづける時のいぢらしい洋琴は
     Le piano que baise une main frêle


なめらかなその手がくちづける時のいぢらしい洋琴は、

まつたりとした夕方のピンク色の薔薇あるいは灰いろの室内の斜光です。

ましろい翼の鍵盤に眼のおほきい雑音が彩りを添えながら、

なんとも古く、なんとも弱く、とてもやさしい恋びとのせせらぎのよう。

ひかえめな蜘蛛が糸をかけ、ひつたりと、そよ風がこの網を揺らすとき、

倦怠やいらだたしさのことなど忘れ、あこがれの、

うまれいづるときまで、つつましやかにふくらんでいます。


まるで水色の花嫁、突然に胸が高鳴って子供がえりするように、

揺り籠にいつも触れる、かじかまるその手。

どうしたらいいの? 心離れぬように笑う、その顔は、良心の疼き、

あなたはどうしてそうするの? おどけながらぬける羽根、駝鳥の羽根、孔雀、

どうして? と聞かないで、ふるへている羊の恋心。

わたしは窓辺で窒息しそうな、ふるい灰のなかへ埋もれます、
                 うれい
そこから見える小庭に、白磁の幽愁は落ちそうになりながら。



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