『ふろいど』のために【三途の川】1 身体をかがめて靴ひもを結び直す "両膝の震え"が先にあったのさ ・・・こともあった、だんだん小さくなるわしの靴音、 右に左に受話器をうつす難聴のように、タッタッタッ、・・・ 一回一回まるで深呼吸でもするように疾走っていた、 いつの日か、そういう日も十年ひと昔―――! (・・・こともあった、・・・こともあった、 <車道より聞こえくる水の音去れど散りゆきし葉雪のごと消ゆ> 車椅子を押してあげる お祖父ちゃんはひどくかすれた声で短歌をつぶやく 「駅へ向かう道も、だんだんわしに似てきたのかなあ・・・」 (しかし、似てきたのではない、離れてきたのだ <死>はもう近くにある 1、2、3、4、5―――けいきのいい、掛け声だ チューヴから押し出された絵の具がお誂え向きの風景をつくりだす、運動会 おいっち、おいっちに、・・・おい、それはラジオ体操 けれど、その声が淡い別の次元の裂け目に吸い込まれる・・・わが身に染む、 寒い、・・・酔いのあとの朝のように、冬枯れした頬に朝露がひかる <そうだ、ひむがしに見ゆるかぎりの山脈(やまなみ)は 厳かに白に染まった> 葉が生い茂り、夏でも涼しいケヤキ並木にも、・・・突然の腹痛がある! 銃(つつ)だ―――を覚えて便器に腰掛け、波のように襲ってくるめまいを覚えながら、 どろりとした軟らかい便が、チョコレート状の便がとろとろと体から出ていく いま、わしの内側のそれを、よかった、と褒めてくれる孫 ・・・しらないのか排泄物は煉瓦の道にも、パリの路地裏にも、アントワネットの城にも <死>のように扱われたに違いない=ワシハ排泄物デハナイ 「(だがもはや、・・・深刻そうに告白する齢じゃあない、利口ぶって損もするだろうしサ、 なあ、孫、いまさらどんな酔っ払いでナイーブ気取れるっていうんだい・・・!)」 <つぎつぎに国際の事件、オオトマテイク、 砂利(ざり)のまかない、一年(ひととせ)にひとたび> キーコキーコ、と鈍い音を立てて車椅子が軋んでいる 「(さざ波のような輪の運動に揺られている、宙ぶらりんの我が身に、 もう陸などない、・・・航海だ、それはくらげの航海だ―――)」 それは照り透りたる、汀(なぎさ)辺(べ)に打ち寄せられた秋くらげだ <砂のへにむらさきの花散れるおもひ死刑囚のあらはれにけり> きき、と停まると、影は背もたれに沿って輪郭をとりもどしていく それはぎこちなく左右にゆれる蝙蝠だ・・・「身体(//)」がもう顎についた飯粒にさえ ほとんどいうことをきかない「認識」と「誤差」 ―――それは軽い麻痺、いずれは認知症とよばれる麻痺、「秋くらげ」へのまひまひ ちいさなてのひらが、ちょん、老人の眼の前に、にゅうとくろい蛇のように差し出され、 ん、とチューインガム、ちがうでしょ、―――ん? 涙が出てきた! わかっとるよ、ぼうず、お悧巧だ、よしよし、とのせられる五百円玉硬貨 「わーい、うわわーい(ダッダダッ、ダッシュだ、ダダダッ・・・)」 (ダッダダッ、・・・ 僕は金網を攀じ登り、ナマケモノをすてていく ダッシュだ、・・・ コーンをいくつか(二粒たべて 飛び越え野原に入る お爺さん、オアフ島へ行く途中だというような顔をしながら、戦友よ・・・! 占有しとるのはおまえじゃ、とぼけずにつっこむ老人、溜息をつきながら 「―――昨日テレビでちゃんとやってました、110番、あの人が見た!」 ふれれば何かが消えるあなたのしわがれた手は硝子玉遊戯・・・――― 土手の階段 水の笑い すぅぅっ、はぁッ、・・・ スウ、ハァ・・・ 「きょうも生きてた/きょうもまだ死ねない」というつぶやき ・・・・・・という、声にならない生命≪いのち≫が見え隠れ <引き剥がせない! 動きのない風にさらされ、風景の息、存在の域> (そして、おもむろにポケットに手を突っ込むと、冷たく硬い感触 (先ほどやったのは百円玉か、・・・百円玉だったか、と気付く ―――動作の痕跡たちとともに、水音が流れ、<死>に向かって 走り続けている しかし、空は静まり返っている。しかし、偶然の所産 そうら、みろ、これが「空中に浮かんでいる絵」だ <青いキリンをさがしているのだ、ペンキでも、議論でも、品種改良でも・・・ ない!ない!とアメリカ人が怒ったのだ(赤いキリンは首が折れて死んだ> ノラ猫たちが、あるいは蛙や蛇たちが、子孫繁栄にいそしんでいるころ 火花が散った/ある時代の精神というものが表層にあらわれてくるシンボル 911、ハリケーンのカトリーナ、スマトラ島沖地震 ・・・森の向こうにビルがたくさん突き出ているのが見えたか、そうだ、あのバスローブ のような陽炎の買える街、湯気も、、靄も、、、泡も売り物、、、、 みな、大量に録画しているビデオにも、まとめて消す日がやってくる その時、人間がまねごとをしていることに気付く、すべて偽物だ、偽造だ (決定的な役割とは、何?―――監視者の怠慢/冬眠 みな、夢のなかでだけ犀になり、はじめから角が生えていることを、自然のこわさ、 きびしさを、わしのように思い知って、でこぼこした角がとれている 動物のにおいもとれている、毛皮のために毟り取られている 「・・・むむっ、こりゃかなり敷居が高い」と引っ越しを決意したか、 ・・・透明な輪郭のなかに、散らされつつある暗闇がシャギーで切り刻まれ ほこり臭い、なまぐさいものが消えていった 「(スーパーマーケットもない、ここいら一帯は田んぼ・・・!)」 いい子だね。・・・あざやかなグリンの色彩が留守だ/でも、ごらん、 刻々と移りかわる、目を大きく見開いた顔の波紋のような奇跡を さながら波の底からセイレーンが (現れる 竪琴(rira)の音は霊妙でうつくしく (それは晶系の化身、耀(あかる)き美の熱火の使者 ―――モノクロの粗い粒子、それはビニールや紙屑の落ちている路地。 みんな問いたかった(机の前でさえ、天を昇り降りする瞳をもつ者ならば おみ足を洗い、聖なる地の泉でしかみれぬときく、深遠な思想を・・・ <本能にいまか落ちゐむメガネ拭き曇りのなかにて晝(ひる)逝(い)ぬ吠えた> ・・・スヌーピーのTシャツに半ズボン姿の孫 お世辞にもいえない、・・・上手とはいえない、音痴(おんぢ)、だが大したものだ 同病相憐れむことをしらない、しわがれ声のおじいさんをつかまえて不届き者 「訛りがつまって咽喉がかれて、ほとんど声が聞きとれない」という七十歳の声を、 ウンチだという、きみはまどみちおかね・・・、(と、わしは額のロウ眼をおろす 爪の手入れは仕事上けして欠かせなかったのに、――― (ぬるぬる光る粘液に包まれている、・・・蝉の小便にまじる汗にする ああ、煙草と酒は生涯切れるまいと思っていたのに、ポケットに氷砂糖、 肉食と讃えられた大飯ぐらいの、なんたる悲惨、・・・なんたる生命活動の微弱なサイン この身にうすくまとっている死出の衣よ・・・エエテルよ、オオラよ、神よ 愛を下さい、―――愛を下さい、、 <一人で死ぬのはかんたんだと知りながら、 ひとりで生きることのむずかしさ> 犬猫のようにわし達はトイレや躾を必要とする、薬を必要とする、そして・・・ 無視されること、爪弾きにされること、死ぬことを恐れる (口の内側の粘膜が、ペェチャ・・・ペィチャ・・・ くっつき合う音 そこに夜中までうるさく鳴き立てる蝉の音 性欲や狂気を否認し または回避しようとするまさにその時に死神 (がりがりがり・・・ がりがり・・・ がり・・・ 近頃のソーダー色のアイス棒の夢 ガリガリ君だ―――お誂え向きの比喩だ、 ・・・・・・もう全身を齧られてしまった (呑み込んだ モナリザ、アントワネット、のit’sスマイル (呑み込んで、全身わななく/ときに耀いたはずなの・・・ ―――どうして舌は言葉をうしなったように、ミミズしてるの? どうして母の胸ふかくエーテルの窮鳥よ、言葉が曇り、ひび割れるの わたしは霊との声が途絶えるのを恐れ、しかし口ごもることも </ああ、それ、内部の突起。・・・四肢の躍動! おごそかな夕つひのしずまり> 勢いあまって、あたり一面にかすかな硝子の首飾りをちぎったように ましろき破片が伝う・・・そしてそれは、フレームに入らない映像なのだ ああ、うんうんと・・・薄目を開けながら頷いてよろよろ立とうとする「者」よ すばやく拾ってまた捨てる缶とくず箱のような「物」よ /どんな微細な音でも、葉からおちるひと雫でも、 風になぶられた瞬間に壊れてもう元に戻らなくなる・・・ 再生はだからできない、 うろ覚えに垂れてゆく・・・ずう、と引き伸ばされてゆくスローモーションが あらたな面をつくり、いかに空気を切り裂き、土のうえを跳ねる動きを伝えたか 空気が抜けたように、まだ、少しやわらかいボールのように (皇帝よ、蹈んづけたまへ、拳骨をかたくにぎる子供たちを (皇帝よ、雷≪いかづち≫の鬱積、哀訴、ああ、すべて夜明けの光を蹈め ―――ネットで情報収集をすすめればわたしの住んでいるエリアーには、 わたしのように孤独な者がいる 老人ホーム (それさえも、差別的だと思うが そらみろ、「空中に浮かんでいる絵」を・・・! <誰か憶えているかい、ああ/ああ? いつも君だけ、なかの君だけ> シルバーカードを受け取る時のよこがほにも似た 誰も知らぬわれの空間、・・・婆さんが死んでからは、かるくよそったご飯茶わんに、 タラコ、あるいはめかぶ、塩辛、うひひ、そんな風に楽しく過ごした (・・・ものだ (・・・視線の中心にとらへられる君 (・・・たばこをふかしてねそべつているぼくに (・・・すこし淫らな手つきで、きのふの夜もえた、まだぬれているなま足をみせながら ―――老人にだって、いろいろある、それが「婆さん」なのか、 いやもはや隣の「坂田さん」なのか、介護の「大原さん」なのかわからない (ながい袖をひるがへせば、はだいろがかへる、ごむまりのやふなむねが (はてしもしらず、いりみだれた恋と欲情、薔薇とバナナ・・・ <BABY BLUE 君に恋をしていた (。。。それは 「people」のなかに、ああ「purple」―――> はなせなくても心がつうじあえるってすてきだ 眸の中で、なんどでもよみがえる恋の思い出ってうつくしい (でも・・・転調する、allegroする「ぼく」は「わし」になつて――― 赤インキの咳、トマトジュースの咳となにかわるものかとグガアと酒を呷り いい齢こいて玄関先でいびきをかいてねむる (「わたしがいないと・・・」 いいえ・・・奥様、あなたはいりません (みだれてゆく、ぼくとわしの声――― (「おまえ・・・」とふりかへれば、思ひも及ばず、本音がはみだすだろう (ほんとふのところは、不安でした/でもみんな、引き取られるか、逃げるかして、 (ぼくは・・・ぐうちよきぱあ、―――じやんけんをしている Happy Birthday/Christmas/Happy New Year ・・・スタコラサッサとチクショオ、 八つ当たりする、政治家を矯め直す力なんてありゃしねえ、 工事はつづく、税金引上げ裏工作もつづく、・・・鞭打つなら若い男や、若い女にしろや それでおまえは奴隷を手に入れろや、うんざりだ、総理大臣! 大統領! (服をハンガーにかけて、部屋のあつちこつちに吊るしておきました (魚を網で焼いて、消防車がやつてきて、一緒にジユウスで乾杯をしておきました (ああ、「愚癡(ぐち)」がたまつている、アンモニヤ臭がする、口のなかに、 (宮沢賢治がねむつている、硫黄がふきあがつている、尿がたまつて我慢している (こめかみを蔽い隠す冥いヴェールのように、海岸を逃れて高潮を見た・・・! (なぜ言ってはいけないの、太陽のくちづけ、ない―――刹那―――無 ―――おごそかにわたしのなかの魔術師がいう/花に唇をふれよ 何故何故? ―――野の花も、花屋の花も、瞳の中の花も同一(おなじ)である そしてその時、魔術師ははにかみながら“あなたの夢がほほえましい”と <“あなたの夢がほほえましい”・・・ うすっぺらで、よわくて、はかない、わすれないでね> そらみろ、「空中に浮かんでいる絵」を・・・! すり抜けて、もう滑り出している、・・・いや、崩れ出している表情 心臓の辺りが、ぐじゅぐじゅして、海に滑っておちたわしのように、 さざ波が(しかしそれは身体を運ぶだけの力をもちながら 複雑な弧はゴムのように、その幅の間から引き摺りだされてゆく ああ、二度とふたたびない、このひかりとともに、わしの意識も・・・――― 一緒にいられるわずかな時間、からだを硬くして /ああ、病院へいくとドクターストップ (酒のみすぎとのレッドカード退場 早口のきゅうかんちょう (どうせマニュアルでつくられた脳味噌だ ・・・も癇にさわったが、閻魔帳のごとく罪状をあげつらふ (悲しいわれらのフォークロア! 年功序列うしなはれます――― うまれました、上から見下ろすクリーンな意見が、 死亡診断書のようなひびきをともなひ“駄目人間”という烙印をおす /リストラのようにハンコをおすだけの薄っぺらい紙 かちん、ときた、ガッチン、とルービック・キュービックした 「なんだとヒヨっこ! いうにことにかいてなんつー言い草 (な、なんですか、急に―――ガキめ、喧嘩慣れしていない、われ、増長する 若造がきいたくちを聞くんじゃあねえ、と言ってんだ、このやろー (オヤジの説教、病院の先輩のからみ酒でもおもいだしたのだろう、眉間に皺がよる わしがなに食おうが、なに飲もうが、てめえみてえなカルテ野郎に何がわかる・・・! このばかやろー、おまえみてーなやつはなー・・・―――」 胸倉をつかんで、どすん(ほれ、ここにやられた! ボクシング部かとおもった 重かった、そして速かった/AMの事件はPMに処理され、 問題にしないでほしいと病院に金一封つつまれるが/ばかにするな、わしだって同じだ で、通院をやめた、・・・そして世間体が悪いからと息子夫婦がわしを引き取った 「おとうさん、・・・そろそろボケるわよ」 きのふ、襖越しからきこえた、地獄耳のわしに・・・――― (キィーコ・・・キーコォ・・・ と、車椅子を押す音 (遠くなる 竪琴(ri ra)の音は霊妙でうつくしく (それは晶系の化身、耀(あかる)き美の熱火の使者 ―――看護師さん、といってアタフタさせてやるくらいよいだろう いろんなものをなくしてやろう、リモコン、朝刊、電卓、・・・そのうちに、 わしも死ぬだろう/ひどいお義父(とう)さんでした、と思われて死ぬのだろう 2 き み の わ る い 、 ふ し ぎ と な ま あ た た か い 森 で 、 沼 。 で 、 窓。 を 、 覗 く ( 距 離 が 気 に な る 、 質 量 が 角 度 が 、 仲 間 外 れ の 虫 を あ ぶ り だ す ・ ・ ・ * * * /介護はされる身にならなければわからないのだ、まことの福祉とは、 福音の福、幸福の福だと気付かないのが老いなのだ。 * * * み な 、 そ れ な り に 幸 せ だ と 思 っ て い る 。 で も 、 マ ン デ イ 、 蚊 の 音 が 気 に な る チ ュ ー ズ デ イ ! 鼠 だ 君 の キ ス の 求 愛 を も と め る ( 「 そ う か 、 も う 君 は い な い の か」 ウ ェ ン ズ デ イ 、 吐 き そ う だ 骨 を た た く 音 (む せ そ う だ 、 え び な り の い い な り だ 、 サ ー ズ デ イ 、 あ ら た な 伝 染 病 だ フ ラ イ デ イ 、 こ の お か ず 嫌 い / 食 べ る な (で も 言 わ な い 世 間 体 が あ る か ら サ タ デ イ 、 む し が と ん で る お と が す る サ ン デ イ 、 む し が と ん で る そ し て も う 、 お せ っ か い に は う ん ざ り し た の だ 、 セ ブ ン デ イ ズ ひ と り で 死 に た い ・ ・ ・ ひ と り で 死 に た い ・ ・ ・ * * * ・・・婆さんがいたころはなア、独裁者のごときわしの誕生日ケーキは火事になるほど、 ロウソクが燃えたもんだ。そらみろ、「空中に浮かんでいる絵」を・・・! そらみろ、「空中に浮かんでいる絵」を・・・! ははは、尽(じん)十方(じっぽう)無碍(むげ)の光明にして 三十二相(さんじゅうにそう)・八十随形(はちじゅうずいぎょう)好(こう)。棺をつくるときすなわち死 死・死・死体をつくらなくてはいけない。 吸い寄せられる (吸い寄せられてしまえば、数メートル先を行進する 見知らぬ人がうらやましい、あんな時間、自分にはなかったと思う 寄せ集め、かき集めのシアターでは、みんなきょうもいい顔をしている しかし見える/メス探しだ、縄張り争いだのノラ猫たち だが、去勢されてしまう/運が悪ければ、殺されてしまう・・・――― (わし達は働いた、・・・七人の敵がいる、 (口ごたえをすれば妻や子供とて叩いた、・・・わしのなかに敵がいる ―――涙目で何も言わぬ妻を見ながら良心が痛まなかったわけではない 唯、そう教えられた 覚りを開くとは聡しい里をひらくこと そう教えられて育った・・・ 育ったんだ、わしは・・・・・・。 * * * 調 子 が 悪 い 日 は 、 そ れ だ け で 鬱 だ 鏡 を 見 な い 日 も つ づ く / 女 と も な れ ば こ と さ ら だ ろ う ブ ラ イ ン ド さ れ た 自 分 店 じ ま い 何 故 だ ! シ ャ ッ タ ー 魂 が 死 ん で ゆ く 飯 の 話 を し た く な い 、 高 尚 で あ り た い 、 優 し く あ り た い た め 息 が で て こ な く な る 、 い ろ ん な こ と に 満 足 し て も う 、 成 長 で は な く 死 、 死 、 死 だ け が あ き ら め を う ん で い る * * * わしに、ダンスをしろ、NO-それは違う男に頼めばいい /めくらめっぽうわからぬ旅行をさせてくれ それは無理だ・・・ 夫は金を稼いでくる生き物、妻は家を守る生き物 「おまえたちで好きなところへ行け・・・」と突き放すように何度も言った (くら闇で舌を出した、妻を抱きながら、こどもの頭を撫でながら、 (えものとして存在している自分、でも外敵から身をまもらねばならない自分 いきづまる緊張、くずれそうな足下・・・ 結婚、子育て、老後・・・ (ひとつひとつクリア―していくつもりだった/弱音は吐けなかった だが還暦をむかえた時におとずれた妻の入院/しんそこ堪えた、酸素ボンベの彼女に、 額に触れた時の、あのカッと燃えるようなおどろきは何だったのだろう とりどりの花を並べたアパート・・・ (ああ、すこし・・・わしの意識が不明瞭になり、 私ニ従イテクレバ妊娠サセテアゲマス。喰ベ散ラカシタ魚の骨ノ様ニ、 馬鹿ナ女、笑顔ニ騙サレテ被虐ノ契リ。浣腸プレエ肛門ノ歪ミ如来ノ御恩 鞭ノ痕キレエ蚯蚓腫(みみずば)レスルマデ。猿轡(さるぐつわ)シテ汚イモノヲ銜エコマセ、失神スルマデ排泄 裸デ縛リアゲ路上プレエニニシケコム 「私ハ神様デアル、・・・何ヲシテモヨイ、 オ前ハ可愛イ玩具デアル・・・、」―――アア、途方ニ昏レテバカリノ毎日デス 縄ノ切レル次ノ時代マデ、―――妻 が そ う 囁 や く (深夜の田舎、祭りに人が押しよせる釈尊! ・・・aa・・CHANSON! (心が清らかな僧侶が一斉にぶっ打擲(たた)く 法具は凶器である ―――頭髪はスキンヘッドと化す、 法衣は闇の中の迷彩色と化す 「肉が喰いたい・・・女が喰いたい・・ 子供を殺したい・」 しかしそれも種々の応化 赭い泥の苦行にでかける 聖人磔刑! * * * み な 、 愛 さ れ た か っ た た だ そ れ を 甘 え だ と 、 自 分 は 違 う か ら と コ ン プ レ ッ ク ス だ と 、 成 長 を 拒 む か ら と ・ ・ ・ さ い ご の さ い ご で ぜ ん ぶ 、 く ず れ た じ ぶ ん が い る * * * /わしの六十年は何だったのだろう、・・・おまえの六十年は何だったのだろう? ・・・あなた優しくなったわという妻は、甲斐甲斐しく世話をするであろう夫(つま)を (それはトンネルをぬければ「雪国」がみえる、ファースト・コンタクト (ブラックホール/暗あいい口に吸い込まれようとしているところ あたらしい出口、あたらしい出発、あたらしい未来、――― ―――しかし「行ってしまう」から生まれてくる、こんな苦い思慕(おもひ) ついぞ看取ることなく呆気なく、・・・やさしい人が逝ったのだ (うす黄いろいほほえみと、くちなしのかおりが、垢のように我が身にのこつた なぜ、薔薇の一輪、―――あの時に妻を打った、 (手に残る感触 (短針と長針が重なり合う午前零時を、すこしまわつた時刻に (わしは、いや、わたしは、・・・さとった (くるおしく奔流してゆく 嚏の青・黄・赤・白・黒 (唾 の 乙 女 に 抱 か れ ―――香 液 の し た た り 。 受 粉 す る A B C 酔漢やペテン師や銀行員、百姓 「この国はデモすべき・・・ ストラするべき・・・」 生きている限り金の是非を求む * * * 混 乱 、 そ し て 虚 無 ・ ・ ・ え た い の し れ な い 不 安 を ご ま か す の が わ た し の 仕 事 か が や く 季 節 の 裏 で う し な わ れ 瞼 の 裏 に 何 を 呪 え ば い い か あ あ 、 こ の い た み 、 こ の 悲 し み 、 お ま え の 肌 の ぬ く も り 、 (う ば う た め に 縛 り 続 け て き た こ と ば い っ ぺ ん に 嫌 に な っ た 愛 さ れ た く な い と 思 っ た み な 愛 に 傷 つ い て い る か ら そ れ な ら い っ そ 、 す べ て か ら と お く 、 た だ と お く は な れ て し ま え れ ば と * * * /求人広告にサラリイがとぶ 信心も鯱(しゃちほこ)の僻(ひが)み言 「死ねば官軍! 如来は大将!」―――わしは混乱している、朦朧としてきている、 (制御できない無数の力のせめぎあっている ・・・そうだ、わしは年金をもらった、ひとり生かすくらいのタンス貯金を 居宅介護支援サーヴィスとやらも始まった、・・・だが、時代は毒をはなち、 それを差し出せという、牙でやさしく噛み殺そうと、あの手この手をつかってくる あまい誘い文句で。ああ、その痛みはみずいろの空、 わしの眸(め)にうつる空。一枚の見えないカレンダーがはためいている、 わしの死期が記され、しかしそれは用途のわからないものの常として、 山のふかい谷や、またこの野原の隅っこに、不法投棄される (背後から<死>がやってくる、馬が騎手をふりおとしたその上にも、 (しかも、・・・まだ騎手のところにも、・・・――― ―――「同窓会なんていうものは悲惨なものだ」 ひとり・・・またひとり消えていく「あーどう言えばいいんだっけ? それがなにかはわかっとるんだが、なんも口から出てこん。・・・」 * * * な に を 話 し て も 伝 わ ら な い 、 そ の く る し さ 、 生 き な が ら に し て 死 ん で い る よ う な こ の さ み し さ ・ ・ ・ 長 い 別 れ 、 知 り 合 い の 表 面 上 の 会 話 、 か ら だ と こ こ ろ が バ ラ バ ラ に な る は げ し い あ あ く っ き り と 影 を お と す 愛 の な い き ま り の わ る い 人 生 よ ! (だ れ も 欲 し が ら な か っ た 裕 福 な く ら し に よ っ て こ こ ろ が す り へ っ て 、 夢 や じ ぶ ん の こ と し か 語 ら な い 毎 日 を ・ ・ ・ * * * 頭のネジまでゆるんでおっとりとして、仏の顔になったかとおもうと、 娘と一緒にきているのに気付く ・・・ボケている (治療のため、だという ―――このズレはどうだ、この押し合いへし合いはどうだ そして枯れ葉のにぎわいボソボソとやる 病院はどこだときいては共犯者にする、 また・・・ 持病はなにかときく (すごーい運が良かったから、生きてられるのよ 宗教かぶれに、片足柩につっこんだような同級生がなにかエラそうなことをぶつ 同窓会の手紙を破り捨てるようになったのは、はて、いつの時か・・・――― ハハハ、笑いが止まらんね、 あさましい人の口を塞ぎ、極楽浄土とはね 死ね死ね・・・ 祈?しながら狂い死ね。積乱雲は神の穴、雨が降り出す肛門境 母も死ね、父も死ね、その倅も娘も死ね、 『善い』ことは乃ち悪しきこと 死ね死ね、火宅無常のうちに煩悩の具足 。飽食で痩せろ、ぐはは、あさましく死ね 佯りの戲れごと、死ね死ね、 念仏となえて三千地獄、 『善い』ことは死ね、 跳梁跋扈せよ、 悪人よ、オオ、世にはばかれ (遠く、遠くなる 竪琴(ri ra)の音は霊妙でうつくしく (それは晶系の化身、耀≪あかる≫き美の熱火の使者 ―――動こうとすれば、背中じゅうの筋肉に鋭い痛みがツツーッと走る 痙(ひ)き攣(つ)りだ。アンメルツ、バンテリン・・・挙げ句が、あわせ技だ どこもかしこも、ボロボロになった・・・・・・。 * * * な ぜ 人 の 心 は こ う も つ か み に く く 変 わ り 続 け る の だ ろ う ひ び が は い っ た 焼 け 石 よ 、 (か と 思 え ば 氷 の 結 晶 、 水 に な る も の よ 、 部 屋 を 変 え 目 標 を 変 え 、 生 き 方 を 変 え 、 人 づ き あ い も 変 え ・ ・ ・ し か し 最 後 ま で 残 っ た 妻 よ み に く い 虫 が 薔 薇 に と ま っ た と 苦 笑 さ せ た あ の 時 の 腫 れ あ が っ た あ か い 空 、 も う 一 度 お と ず れ て ほ し い ・ ・ ・ * * * 短く切られなければみえない、 葉の茂みから鳥の巣がみえる (身体を折り曲げることさえ難しいのだ 中国人たちの老後のように、むちゃくちゃな生活が祟った、 アーメン・・・! しかしソーメンくいたい 人混みや、満員電車で肩や腰をぶつけて、 イテテ、乱暴なやつめとおもったが。杖をつく人たちにとって、 心どころか、魂にまでぶつかっていたことを (樹は発火して薄荷する いまさらながら気付く (「老いというのは、そういうものだ」が口癖になる 行ってしまう。―――でも、いい加減流されるのはやめにして、 押しつぶされてもいいからと立ち止まらねば わしの手にそっと不安そうに、・・・さっきまで、はしゃぎまわっていた孫が、 「どうしたの・・・?」と心配そうになるまで、わしは川を眺めてる もうすぐそれは、三途の川になる、ボーイ・ソプラノのカナリアよ 感覚を教へてくれ、首だけ切ったようにとぶ愉快な鼻唄よ 「ひとりで、バリアフリーもさみしい人生とおもう・・・―――」 川がわしに似てきた、並木みちがわしに似てきた そして<死>はわしの皮膚の内側から腐敗臭をさせる (水 の 音。水 の 音 。音 音――― |