テーマ:☆詩を書きましょう☆(8322)
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エスカラス (ジュリエットを見て)そなたの方は? 田中宏輔「ロミオとハムレット。」より * 新説「ロミオとジュリエット」 あれから二か月後。キャピュレット家とモンタギュー家の和解。 若い二人の壮大な争議のあとの二か月後。 森の中の洋館。バスタブ。湯気。石鹸の甘い匂い。そこに男女が裸で―――。 ふっと、顔がアップになる。 ジュリエットは言った。「偽装自殺・・・うまくいきましたわね。」 ロミオは言った。「そうだとも。」 ジュリエットは肯いた。「あん。そこ弱いの。」 ロミオは、青臭い詩の台詞よりもさらに巧みな指づかいで、 さながらハーレクインの描写のように、 女の隠された秘湯を責め立てた。うほっ。 原始人みたいな声でロミオは、筒井康隆した。 ロミオは言った。「よいではないか。よいではないか。」 (しかしその野性的な様子が、ジュリエットに火を点けるのだ。 二枚目でナイーヴ。だのに、野性的な男というギャップに。) ジュリエットは悶えながら言った。「でも、そろそろ戻りますか?」 ロミオは言った。「そうだな。そろそろ、金も欲しい。」 ジュリエットは笑った。「―――でも、棺桶を運ばれる時は、どきどきしましたわ。」 ロミオは肯いた。「・・・生きた心地がしなかったな。」 ジュリエットは言った。「あん。いまは――別の意味で・・・」 ロミオは屹立した騎士の剣のようなものを、突き立てた。 頭の中に今日もまた、ささやくような声が聞こえる。 ・ ・・教会で神に祈った時、僕は本当に死のうと思っていた。 ジュリエットと。もうそれ以外に道はないと。 心中。しかしあの時、われわれの元に、悪魔が現れた。 おお、若いお二人さん、そんな運命を選ぶなら、どうです、 ズルい話聞いてみやしませんか。巧みな話術に、にこやかな笑顔。 悪魔は、自殺を偽装して、隠れろと言う。万事こちらにおまかせあれ。 睡眠薬。そしてロミオとジュリエットそっくりの蝋人形。 驚く僕に、悪魔は言った。なあに、こんなの、 死ぬお二人さんの苦悩に比べれば軽い仕事で。 しかし、と僕は聞いた。お前に何の得がある? いえいえ、得はありますよ。二ヶ月後にね。 ロミオは果てたあと、ジュリエットに言った。 「・・・あれはどういう意味だったのだろう?」 ――二ヶ月後、両家にロミオとジュリエットが現れた。 あれは偽装自殺だのと、言いながら説明するが、 身振り手振りで真剣に説明するが、この気狂い野郎めと、 ぼこぼこにロミオは殴られ、ジュリエットはあやうく犯されそうになった。 二人は路頭に迷って、教会へ来た。 そこに、悪魔は、はじめからわかっていたように言った。 「ああようやく来ましたか。ああ、ひどい目に遭いましたね。 お可哀そうに。」 ロミオとジュリエットは怒りそうになったが、堪えた。 本当に怒るべきは、何も話を聞いてくれなかった、あいつらだと思えたからだ。 「・・・わたしはね、あなた方ふたりを、悪魔にスカウトしたいんですよ。 どうです? これから、あの嘘つきのキャピュレット家とモンタギュー家を、 破滅させてやりませんか。親なんてもういらないでしょう。あなた方、 ふたりは愛し合ってる。愛のための聖なる戦いだ。どうです?」 悪魔は、とても残酷に笑った。 「・・・悪魔ってのはね、本当は天使のことなんです。 どうしてわたしが、こんな見た目をしてると思います? それはね、本当に心があるからですよ。心があるから、 外面なんて気にしない。そういうことですよ。」 でもしかし、親を破滅させる、親殺しをするというのは――。 悪魔はけたけたと笑った。 「じゃあ、あなた方は死ぬんで? それで、一切何の恨みもないんで? でしたら、どうしてここへ? 人がもし、親や子というなら、 人がもし、愛だの平和だのと言うなら、どうして、 お二人は泣いてるんで? 辛い人生の場面に立つんで?」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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