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詩誌AVENUE【アヴェニュー】~大通りを歩こう~

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2016年01月19日
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カテゴリ:AVE予告篇
雨のリズムにやがてミンゴラのほうも眠くなってきた。さまざまな思いがつぎつぎと、輪を描いて虚(こ)空(くう)を飛ぶ鷹のように意味も脈絡もなく、頭の中をよぎっていった。デボラのこと、自分の力のこと、タリーや、イサギーレのこと、故郷と戦争のこと。そしてそれらの孤立した状態から、根ぶかい分裂から、ミンゴラはこんな結論をだしていた。精神は成長したり進化したりするものではなく、ただのモザイクであり、安ぴかものやガラス片でできたコクマルガラスの巣と同じで、ときどきその中で稲光が走り、一瞬のあいだ全体を結んで一つにまとめ、人間という幻想を、人間の理性的感情確信の幻想をかたちづくるのだと。(…)けれど、この冷徹で瞑想的(めいそうてき)な姿勢でさえも感傷の罠(わな)にかかっているのだった。

(ルーシャス・シェパード『戦時生活』第二部・7、小川 隆訳)

  カントが、われわれは世界を「カテゴリー」に分けてみる、と言っているのは正しい。カントの言う「カテゴリー」を、あなたの鼻の上にのっている目に入るものすべてが最も奇異な角度や位置にみえるような、へんてこな色メガネと考えてみよう。実はこれこそがわれわれの頭脳が把握している空間と時間なのである。

(コリン・ウィルソン『時間の発見』第5章・5、竹内 均訳)

  薔薇の花輪がどの壁にもかかっていた。イーフレイムは来ているのか?

(ジェイムズ・メリル『イーフレイムの書』H、志村正雄訳)

    「ええ!」ヒギンズは熱烈にそう答え、たぶんカーライルの緊張を感じ取ったのだろう、少し譲歩した。「少なくとも今以上に、現実への深い洞察が得られるわ」   

(ケン・マクラウド『ニュートンズ・ウェイク』B面12、嶋田洋一訳)

  子どもだったワーズワースは、牧場や、森や、小川が「天上から光をまとっている」ように感じた。前部前頭葉のはっきりした目的を知っている人はいないように思われるが、大人の前部前頭葉がこわされても、いくらか粗野になる以外その人の機能にあまり変化は起こらない。/一方、子どもの場合、前部前頭葉がこわれると、顕著な知能低下を起こすので、子どもはこの前部前頭葉を利用していることがわかる。このことから、なぜ子どもは「まばゆいばかりに美しく、鮮やかな夢」を経験するのに、大人はそろいもそろって陰鬱な世界に棲み、こうした前部前頭葉の「幻想」機能を利用するのをやめてしまったかを説明できるのではあるまいか?

(コリン・ウィルソン『時間の発見』第5章・6、竹内 均訳)

 
  モーリスはあの時の、感情を害して気まずそうにしている彼女の顔を思い出した。そんな感情に気がつかなければよかった。   

(P・D・ジェイムズ『罪なき血』第三部・8、青木久恵訳)

  ヘアーは、靴のなかに小雨がしみとおってくるのもかまわず、都市の古い区域を歩きまわった。裸になったが温かい気分、青衣をぬぎはしたが、はじめてこの世界を歩いている気分だった。両足が、一歩また一歩とその世界を作りあげているようだった。自分がいったんその外へころげ落ちた世界、エヴァとボーイがそのなかへ去っていった世界を。ヘアーは笑いだした。その世界への恐れと憧れをこめて。

(ジョン・クロウリー『青衣』浅倉久志訳)

  キャサリンはカールトンの部屋の荷物を出し終えていた。熊や鵞鳥や猫の形をしたナイトライトが、そこらじゅうのコンセントに差してあった。小さな、低ワット数のテーブルランプもある。カバ、ロボット、ゴリラ、海賊船。何もかもが優しい、穏やかな光に浸されて、部屋をベッドルーム以上の何かに翻訳していた。何か輝かしい神々しいものに、漫画ふう真夜中の眠りカールトン教会に。

(ケリー・リンク『石の動物』柴田元幸訳)

 
  ジョニーは向こう側にいる──向こう側というのが正確に何を指しているのかよく分からないが──そんなジョニーがぼくは羨ましい。一目でそうと分かる彼の苦しみはべつとして、ぼくは彼のすべてが羨ましい。彼の苦しみの中には、ぼくには拒まれているあるものの萌芽があるように思えるのだ。と同時に、自分の才能を濫費し、生きることの重圧に耐えられず、考えもなく愚行を重ねては自分を破滅させていく彼を見ると、ひどく腹が立ってくる。しかしぼくは思うのだが、ジョニーがもし薬やその他のものを何ひとつ犠牲にせず、生活を正しく方向づけていけば、あるいは   

(コルタサル『追い求める男』木村榮一訳)

  「いやいや」〔と足を組みかえ、何か意見を開陳しようとする際にいつもそうするように肘掛椅子をかすかに揺らしながら、シェイドが言った〕「全然似ていないよ。ニュース映画で王を見たことがあるが、全然似ていないよ。類似は差異の影なんだよ。異った人びとは異った類似や似かよった差異を見つけるものなんだよ」

(ナボコフ『青白い炎』註釈、富士川義之訳)

 
  私の周囲にあったものは、すべて私と同一の素材、みじめな一種の苦しみによってできていた。私の外の世界も、非常に醜かった。テーブルの上のあのきたないコップも、鏡の褐色の汚点も、マドレーヌのエプロンも、マダムの太った恋人の人の好さそうな様子も、すべてみな醜かった。世界の存在そのものが非常に醜くて、そのためにかえって私は、家族に囲まれているような、くつろいだ気分になれた。   

(サルトル『嘔吐』白井浩司訳)

  オードリーの目の前の少年は体内から光を発している。真下の床が落ちるのをオードリーが気づくや、少年の目に一瞬ぎらっと光が走る。オードリーが落ちると同時に少年の顔もいっしょに下へ。すると目がくらむばかりの閃光が部屋と、待ちかまえている顔たちを消滅させる。

(ウィリアム・S・バロウズ『シティーズ・オブ・ザ・レッド・ナイト』第二部、飯田隆昭訳)

  アイネンが、形のくずれた靴から視線をもどす。

(ホリア・アラーマ『アイクサよ永遠なれ』15、住谷春也訳)

 

全行引用詩『ORDINARY WORLD°』 41/45 へ






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最終更新日  2016年01月20日 09時50分50秒
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