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奔るジャッドンたのうえ、追っかけ帳

奔るジャッドンたのうえ、追っかけ帳

新聞コラム5編-2

  「経営の正論・異論」 

 鏡をひっくり返しても,映る風景は変わらないが、自分が逆立ちしてみ
ると、風景はひっくり返って見える。問題は自分が逆立ちしていることに
気づかず、風景がひっくり返っているがごとく思っている人である。

 わたしは常に当たり前のことをいったり書いているのだが、「ユニーク
ですね」とか「逆転の発想ですか」とよくいわれる。最初はうかつにも誉
められているのかと思ったがどうもそうではないのである。
ほんとは「経営を知らないのではないか。異論だ、変わっている人だ」
といいたいのだが,それでは角が立つので、気を使って「ユニークですね」
といった言い方をしてくださっているのだそうだ。

 いつも申し上げていることだが、お客が買わないことには一円の売上も
上げらない。この当たり前のことさえ理解していない経営者が実に多い。
その証拠に経営相談といえば、決まってどうしたら売れるか、儲かるか、
利益が出るか どうしたら従業員をリストラできるかといったことばかり
である。「だから、うまくいかなくなるんです」といったら殆どの方が怪
訝な顔をされる。

だから続けて「あなたのお話はすべて売る側の論理、使う立場からの論理
なのですよね。どうしたらお客様にお役に立てるか。どうしたらお客さま
や従業員に喜んでもらえるかを考え、夜も眠れません、といったこと、今
までないでしょう」といったとする。

 ここで、もう一度怪訝な顔をされ、そしてうす笑いされる。その笑い
は「この人、なにをいっている。わたしはね。そんな道徳の話でなく、現
実に売上を上げたい。それでどうしたらいいのか、それを尋ねているん
だよ」と半ばあざけりの意味である。

 売れるということは、買ってくださる方との協力で成立する。が、売る
側は売ることは熱心だが、どうしたら買っていただけるかというもう一つ
の側面には、とんど無関心である。口では、お客様第一主義とでも神様で
あると幾らでも言える。問題は、実際にお客の立場で考え、どうしたら自
分の店をお客が選んでくださるかの要件を具体的に示し、実践することに
尽きる。

なぜなら、売上=客数×単価であり、単価は経営者の裁量で決めることが
出来るが、客数は個々客の意思決定領域にあり、経営者が決め得ることで
はないからである。だから自分の店を選び購入して頂く条件を考え、それ
をお客に見える形で示すことが経営戦略の常道,正論というもの。
それにもとづく戦術は、個々の消費者からみて、個の店を選択するに値す
る項目を、消費者に具体的に提示すること意味する。

消費者1人1人の購入動機となるプラスの評価といってもよい。評価だか
ら相対的である。たとえば値段が安いという強みは、よそでもっと安い店
があれば、瞬間に高いという弱みに変わる。また品質的に劣っているもの
が安くても「強み」にはならない。

結局、店の強みとは、その店が個々の客に喜ばれ、得させ、感謝させうる
具体的項目ということになる。このことを理解せず自店の強みを自覚しよ
うと強調しようとも無意味である。いくら「安い店」と強みを訴求したと
してもその判断は消費者の判断領域であるから、お客がその店の強みと思
うわけはない。単に選択の基準の一つに過ぎないからである。

 買うお客がいるから売れる。売るために仕入れるのであるから、買うお
客の存在とその確率を想定し、仕入れ、品揃えするのが正論である。
 それを問屋が薦めたからといって、価格の折り合いがつけば無造作に仕
入れる。これでは売れることが一種の掛けになり、私からみた異論である。

 夫婦2人の家庭がりんご六個入りパックでは食べきれず,高い買い物に
なる。だからそんな店では買わない。個食の店時代といいながら、たと
えば惣菜など、どの店もレギラーパックが主力である。
CVSがミニパックを使っているがそれでもまだ量が多い。量が多いこ
とで買わないお客や、三種類買う予定のお客が2種類で済ますといったこ
とで、機会ロスを発生させている。
これは売る方が一点単価のアップを狙うため起こる機会ロスの典型的例
だ。
このように消費者の欲しいものが売り手の思惑で、逆に売れないように工
夫される可笑しなことこそ異論である。

 だから商人の意思決定は「これは誰が買うのか」、そして「このことは
お客様とってプラスになるのか」。この2つの問い掛けに耐え得るものでな
ければならない。これが経営の正論である。


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