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テーマ:私の図書(49)
カテゴリ:本
高熱隧道 吉村昭 1967年
黒部第三発電所の第三ダム建設用の資材運搬用軌道トンネル、水路用トンネルの削岩工事の苛烈記録。 昭和11年に軍国主義、全体主義に変質しかける民族意識を背景に、関西での軍需産業電力の確保に向けて国家目的完遂の号令の下、新聞社が煽りきる異常な雰囲気の中で、技術者と労働者と切羽を仕切る人足頭が高賃金のみを支えに同床異夢の生死を賭けた格闘を繰り広げ、犠牲者延3百名を超えながら、最期には完工成就させた記録。 貫通が近づく程激しさを増して行く人足達の狂ったような奮闘と、遂になしえた時の狂喜の爆発に、高密度に練り込まれた暴発寸前の怨念を自らの心の中から恐怖して、暗い長い坑道を足早に山麓に向かって急ぎ出す技師、人足頭の怯えが、読んでる幸せな者に冷たく響きます。 恩讐の彼方の会得とは全く違う、貫通完成による恩讐の爆発、勝者なき成功を仕上げきる人間集団の所業記録と思います。まさに戦争です。 死の淵を見た男 門田隆将 2012年 福島第一原子力発電所を冷却し東日本の壊滅を生死をかけて回避させた電力人たちの奮闘記録。 責めるべきは、通商産業省、土木学会、原子力学者、原子力発電製造業者、歴代与党、新聞社、そして最大責任の東京電力歴代経営者と歴代技術者達。歯止めを誰もかけず、気づかず、気づいても自ら拾わず、状況に短絡してきたことがよくわかる。なおさら、絶命危機に立ち向かった現場の使命感と成し遂げた成果は尊い。 高熱隧道を完成させた人々と何か似たようなやるせないものを感じます。 電力と震災 町田徹 2014年 東京電力福島第一原発と同じ規模の津波を受けたのになぜ東北電力の女川原子力発電所は事故をおこさなかったのかがよくわかりました。東北電力の経営者が正しい原子力発電所を建築していたからだということがよくわかります。 正しい企業判断ができた企業風土の源流の説明には、東北振興電力として地域のためを理念に発足したことが説明され、企業理念の形成には、松永安左エ門、白洲次郎も登場し、驚きますが、震災回避できた最大功労者は、1968年に海抜15メートルへの設置を意見具申した平井弥之助とそれをいれた経営者にあるそうです。郷土愛が真摯な技術的結論に信念を持たせ、短絡収益思考に勝ったのだと思いました。 新潟県知事は、東京電力の新潟刈羽原子力発電所が再稼働するには、東北電力が運転するのであるならば検討できると言ったそうです。 東北電力は、震災後にIAEAの立ち入り調査を自らの発案で招き、外国の調査員にオープンに丁寧に説明し、成功事例として開示できたとの記事を読んだことがありましたが、この本をよんで、東北電力では、理念が脈々と受け継がれているんだなと思いました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Nov 18, 2014 11:08:32 PM
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