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テーマ:私の読書(24)
カテゴリ:本
「スイス諜報網」の日米終戦工作 有馬哲夫 2015年
ポツダム宣言はなぜ受け入れられたか 公文書に一次資料を求め、当時の議論と情勢判断を辿り、誰がどんな目的で惨劇を決めたのかが解き明かされていた。 教条に我田引水で歴史を切り刻む解説や、新聞社による捏造報道がまかり通ってきたため、本当であるのか、注意しながらの読書となることがあり、それはあまり楽しいものではないが、今回は、少し、安心して読んだ。 藤村義郎海軍中佐のスイスでの終戦工作の武勇話が、戦後、スタンドプレー性癖のある本人が主導したフィクションであったとは、またも残念な気がした。ドクター・ハックの努力については事実のようで、尊崇の念が壊れずにすむようでよかった。 藤村元海軍中佐は、戦後、スイス時代の米人との人脈からCIAの日本支局と関係を持つ人物であったらしい。同人のスイスの終戦工作話は、アメリカの対日プロパガンダに加担したものであったらしいと著者は言う。スイスで動いていた朝日新聞の笠信太郎も、戦後、CIAとの関係をもつ人物らしい。両人の存念の程はわからないが、豹変ぶりには驚くばかりだ。真実かどうかは別としてもなんらかの理解を日本人にさせる活動がなされていたらしい。 アメリカの中枢に日本を理解した者がいて、戦争を停止させるために天皇制の存続を唱え、原爆投下とソビエト参戦を阻止しようと早期終戦に努力したことを知り、驚いた。自らの統治戦略に天皇制存続を嵌め込んだだけかと思っていたが、防共の為のソビエト侵出阻止と、原爆による殺戮回避が彼らの心中にあったらしい。 開戦に至る、アメリカの情報戦成果と国内向け開戦プロパガンダの巧妙さは、伝え聞いていたが、終戦においても手を尽くしたようだ。 トルーマンが、ポツダム会議の最中に原爆実験成功を秘密裏に報告を受け、以後、スターリン、チャーチルを主導する態度に変化したとのくだりは、核兵器を持った指導者の素顔をみるようだ。これは、今でも変わらない核保有国の態度にもなるわけだ。トルーマンは、原爆により終戦させる形をとることを決意し、タイミングを計り、実行したそうだ。 原爆使用を審議する米軍の暫定委員会の長でもある長老の陸軍長官の考えは、米軍死者6万人以上と予想される九州上陸作戦を行う前に日本を降伏させたい。その為には原爆の使用も、ソ連の参戦もかまわないというものであったそうだ。使用にあたっては、無警告で行い、多くの住民に深い心理的心象を与え、多くの労働者が働き労働者の住宅に囲まれた重要軍事施設を対象とし、数十万人の一般市民の殺戮を承認したとある。 更に反共の政治家は、ソビエトに脅威を与えるために大量破壊と殺戮が必要としたとある。 許されない。 日本の壊滅を阻止せんと対米ルートでの早期降伏を画策するハック、アラン・ダレスの先には、国務次官のジョセフ・グルーがいて、彼は滞日10年の知日派で、原爆とソ連の参戦を阻止する為、天皇制存置を認めると日本に示し、早期に降伏をさせようと画策したらしい。トルーマンは、これを退けたそうだ。 長老の陸軍長官は、軍事顧問達が提案した京都を第一候補とする案を退け、対象からも外させたと言う一連の公文書が残っているそうだ。退けた理由は、京都への投下は、アメリカとの和解を不可能にするからだとの判断であったそうだ。 理解する人は退けられ、理解させる人種に、思い知らされたことになるのか。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Aug 22, 2015 11:00:10 PM
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