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「もしもそうであるなら嬉しいですね」
自分がワタシの力になったということを肯定するでもなく否定するでもなく、それとなく焦点をぼかした返答をする剣持主任。後で【まもるくん】の開発に当初から携わったのが本当はワタシではなくて詩衣那さんだったのだということが一般に知れ渡っても、言い逃れができるようにする為なんだろうか? 「さて、それではお伺いしたいのですが、やはり妖精が現代の情報化社会の中で阻害されている現状を変えようというお気持ちが、【妖精用電波ガード1号・まもるくん】を開発されたきっかけだったということでよろしかったでしょうか?」 アイドルという立場を忘れているんじゃないのかと思えるほどまじめな態度の坂牧深雪ちゃん。いやもしかすると本当に忘れているのかも。妖精としてはどうしても真剣にならざるを得ない問題だし。 「まあ、そう思っていただいてもけっこうですが、実際のところはちょっと違いますね」 さあ、質問しなさい。というオーラがにじみ出ている剣持主任。さすが自分から話を振るのは嫌だが、他人から話を振ってもらうのは大好きというオタク魂の持ち主。ピクピクと小刻みに動く鼻の穴が、隠しきれない気持ちを代弁している。……のだろうか? 「と言われますと、開発のきっかけは別にあるということですか?」 打ち合わせでは、『その通りです』という返事が返ってくるはずだったのに、予定とは違う回答をもらってしまった坂牧深雪ちゃんは、ちょっと戸惑った様子を見せる。もう、剣持主任、何を考えているんですか。暴走はダメですってば。 「それは……」 そこまで言うと何故か目をつむり黙ってしまう剣持主任。瞬間、あたりを沈黙が支配する。静か過ぎてなんだか緊張してくる。スーツの下ではじわりと汗がにじんできたかもしれない。もうぐっしょり? 「それは……、何ですか?」 さすがに沈黙が続くままではまずいと思ったのだろう。坂牧深雪ちゃんは小首を傾げて右手の人差し指をかわいらしくほっぺたにあてながら、沈黙し続ける剣持主任に言葉の先を促した。言葉の雰囲気も先ほどとは微妙に変わって、どこか甘えるような感じになってきている。 ちなみに断言してもいいけど、その可愛らしい態度でお願いされたら、それを拒否するのは不可能だ。少なくとも人間の男の子だった時のワタシならそうだし、坂牧深雪ちゃんと同じ妖精で可愛らしい少女になってしまった今のワタシでも拒否するのはかなり難しい。 「それは、私が天才だからだ」 重々しく断言する剣持主任。もしも擬音が目に見えるのなら、剣持主任の背後に毛筆書体の『ドーンッ!』という大きな文字が浮かんでいるのが確認できるんじゃないかな? 冗談抜きでそんな感じ。 「ちょっと、剣持主任!」 さすがにここまで台本から外れて暴走するのはまずいと思ったワタシは、もはやテレビカメラの前にいるということも忘れて、剣持主任の名前を叫ばずにはいられなかった。詩衣那さんや仁村さんから、剣持主任がオタクなことで暴走しそうになったら、なるべく止めるように努力して欲しいと言われていたのを思い出したのだ。しかしワタシがちょっと叫んだ程度で止まるような剣持主任では無かった。というか無駄な抵抗? 「ははあ、天才だからですか。もう少し詳しく教えてもらえますか?」 予定には無い発言に驚いたのは坂牧深雪ちゃんも同じだったはずだけど、やはりさすがにプロというしかない。慌てず冷静にリアクションを返している。少なくとも表面上は興味津々という顔だ。本当に興味があるのかどうかはともかく、剣持主任のような『濃ゆい』キャラクターはテレビ的にはおいしいのかもしれない。 とりあえずこうなってしまっては、詩衣那さんから教えてもらったセリフを言うしかないのかもしれない。そうすれば剣持主任もおとなしくなるはず。……はずなんだけど、大丈夫かな? 「天才は偉大な発明をするものなのだ。そうは思わないかね?」 ぐっと身を乗り出し、坂牧深雪ちゃんに思いっきり顔を近づける剣持主任。だから自分の会社の商品を宣伝しに来たのに、その偉そうな態度は何なんですか、もう! あ、スポンサーだから偉そうにしてもいいのかな? 「天才だから偉大な発明ができるとは思いませんが、偉大な発明をすることができた人は天才と言えるかもしれませんね」 小さな身体の前に、その身体よりも大きな顔を持ってこられた坂牧深雪ちゃんは、本能的に後ずさるように羽ばたくと、剣持主任との距離を離すのだった。 それにしても剣持主任の言葉を明確に肯定するでもなく否定するでもない返答はさすがだと思う。オタクの発言を否定すれば反撃が凄まじいし、下手に肯定すると今度は自慢が激しくなって手に負えなくなる。肯定も否定もせずに受け流せばいいのかと、ワタシは目から鱗な思いだった。 「つまり私は天才だということだな。……そう、あれは妖精がパソコンなどの電子機器に弱いということを知った時のことだ。どうして妖精はパソコンに弱いのだろう? そのことを考えていた時に、突然やってきたのだよ。インスピレーションが!」 カメラ目線というわけでもなく、どこを見ているのか分からないが虚空の何かを熱心に見つめながら話し続ける剣持主任。坂牧深雪ちゃんはその様子をしばらく見ていたのだが、なかなか話が終わらないのを見て、そっとワタシのところまでやってきた。 「ああ言ってますけど、本当のところはどうなんですか?」 はなから剣持主任が本音を言っていないと決めつけている様子がありありだ。さすがというべきだろう。さていよいよかな。詩衣那さん直伝のセリフを言うのは。 「恥ずかしがっているんですよ。困っている妖精を助ける為に寝食を忘れるほど真剣に装置の開発に取り組んだなんてことをこの場で言うのが恥ずかしいんですよ。あの人はいつもそうなんです」 困っている妖精とは実は詩衣那さんのことなのは言うまでもない。でもこの言い方ならワタシのことを指していると誤解する人も出てくるかもしれない。まあ意図的に誤解されるような話し方をしているのは事実なんだけどね。 なんでも妖精になった詩衣那さんがパソコンや携帯電話などの悪影響を受けて何度も気絶したり、時にはそれが原因で命を落としかけたりしたということを聞いた剣持主任は、『妖精が人間と同じく普通に暮らせる方法を私が開発してみせる』と、詩衣那さんの前で宣言したらしいのだ。 当然にその話は詩衣那さんのおじいさん、つまりは加賀重工の会長の耳にも入ることになった。妖精になった孫娘の幸せを願う気持ちでは誰にも負けない会長は、剣持主任のアイディアを聞くと、可能性ありということでプロジェクトにGOサインを出し、今に至っているということらしい。 詩衣那さんによるとその時の剣持主任は熱血そのもので、人間と妖精という種族の違いという壁さえなければ、まるでプロポーズをされているかのような雰囲気だったそうだ。そして今でもその状況のことを話題にすると、剣持主任はものすごく恥ずかしがって、まったく関係ない話題を出して話をそらすのだという。 「なるほど。それはかわいいですね♪」 たった数語で私が伝えたいことのニュアンスは完全に伝わったようで、坂牧深雪ちゃんが剣持主任を見る目は、さっきまでのやや冷たい目から優しげな目に変わっている。それを見たワタシも無言で微笑むと坂牧深雪ちゃんと顔を見合わせるのだった。 「……ああ、美姫君。根も葉もないことを言ってもらっては困るな」 延々と、如何に自分が天才であるのかということを演説していたと思ったけど、剣持主任はワタシと坂牧深雪ちゃんの会話を聞くと独演会を止めて、ワタシに困ったような顔を見せるのだった。ああ、ホントに詩衣那さんの言うとおりだよ。剣持主任ってかわいいんだ。 「そうですね。剣持主任は天才だから【妖精用電波ガード1号・まもるくん】を開発できたんですよね」 そしてにこりと微笑むワタシ。皮肉に聞こえるかもしれないけど、聞きようによっては愛情あふれる言葉にも聞こえるはずだ。 「う、うむ。まあ分かればよろしい」 何か勝手が違うと思っているのだろう。剣持主任は言葉を詰まらせる。ふふん♪ きっとワタシの背後には詩衣那さんが付いているということを理解したのかもしれない。 「う~ん、ほほえましいですね。やはり【まもるくん】を開発できたのは愛情のなせる技というわけなんでしょうか? さて、それでは実際に機械を動かしてみましょう」 いや、その愛情の対象はワタシじゃないんです。という言葉が喉まで出かかったが、それを言っては詩衣那さんの存在を隠してはおけなくなるので、ワタシは不本意ながらも反論することは控えることにした。剣持主任も言い訳をすれば逆効果になりそうだと思ったのだろう。どうやら不本意ながら黙ることにしたらしい。 そして坂牧深雪ちゃんの言葉を待っていたのか、すぐにワゴンに乗せられたノートパソコンとそれに接続された【まもるくん】が運ばれてきたのだった。 [妖精的日常生活 第15話]カテゴリの最新記事
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