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「……さて、……やってきました。このノートパソコンに接続されているのがそうですね?」
何故か腰が退けている坂牧深雪ちゃん。まだ電源が入っていないとはいえ、パソコンが側にあるというだけで不安な気持ちになるのだろう。頭では分かっていても身体にしみこんだパソコンへの恐怖が、坂牧深雪ちゃんをアイドルらしからぬへっぴり腰にしてしまうようだ。まあ、しょうがないかな。ワタシよりもずっと妖精生活が長いわけだし。 しかし番組の冒頭でビシバシと格好いい司会ぶりを披露していた坂牧深雪ちゃんが本格的にパソコンを怖がっている様子を見て、逆にワタシのほうは気持ちが落ち着いてきたかもしれない。完璧にしなくちゃいけないということじゃないってことが理解できたからだ。ふぅ~、なんだか本当に気が楽になってきたみたい。 「ええ、そうです。このノートパソコンは市販されているごく普通のノートパソコンですが、そこにUSBケーブルで接続されているのが、加賀重工から今度売り出されることになった【妖精用電波ガード1号・まもるくん】です」 さっきまでと違って気分は落ち着いてきたものの、キャンペーンガールの役割もしなくちゃいけないからワタシも大変だ。運ばれてきたノートパソコンと【まもるくん】の元まで飛ぶと、ワタシはオーバーなアクションを伴って『我が社の新製品』を紹介した。お父さんが勤めている会社でもあるし、失敗はしないようにがんばらないといけないもんね。とにかくここまで来たら恥ずかしいだとか、緊張するだとかだなんて言ってられないよぉ~。 それはそうとキャンペーンガールといえば、今のワタシが着ている真っ白なプラグスーツは見ようによってはキャンペーンガールが着るようなレオタードにみえなくはないかもしれない。もしかして剣持主任達それを狙ってるんじゃ……。うーん、さすがにそんなことは無いか。肌が露出しているわけではないし。 「USBポートに接続するだけで良いわけなんですか。なんだか簡単過ぎるくらいですね」 坂牧深雪ちゃんは、台本通りの質問をしてくるんだけど、微妙に棒読み的になってきている。うーん、今をときめく妖精アイドルの坂牧深雪ちゃんですらパソコンを目の前にするとこれですか? やはり妖精歴が長いっだけあって、色々とあったんだろうなあ。 「確かにうちの【まもるくん】は、パソコンのUSBポートに接続するだけで簡単に接続できます。しかし初めて接続するときだけは注意して下さい。設定が終わらないうちはパソコンの悪影響を防止する機能が働きませんからね」 コンパクトに設計されているとは言っても、まだまだ【まもるくん】は妖精にしてみたら大きすぎる機械だ。これを妖精の小さな身体で扱うのは少々難しい。おそらく現実的には人間の手を借りて接続するになるのだろうが、もしかすると妖精が独りだけで接続作業をすることが完全に無いとは言い切れない。……かもしれない。 というわけで剣持主任は、まじめな顔をして注意をする。ここだけのことかもしれないけど。 「つまり初めて使うときは、誰か人間に接続設定をしてもらう必要があるということですね。それで、これはもう設定済みのものなんでしょうか?」 設定済みだということは知っているはずの坂牧深雪ちゃんだったが、それを知らないかのごとく質問をする。ああ、それにしてもパソコンを怖がって腰が退けて震えている妖精っていうのは、こんなにもかわいいものだったのか。うーん、このかわいさは犯罪だよ。抱きしめたくなっちゃうし……。でも抱きついちゃったら、後で坂牧深雪ちゃんの熱烈なファンというかマニアである弟の幸也になにをされることか分からないから、ここはひとつ踏みとどまることにしておこう。 「はい。安心して下さい。ちゃんと設定済みですから大丈夫ですよ。じゃあ、電源を入れてみますね♪」 人間である剣持主任よりも、妖精であるワタシが言ったほうが安心できるかと思い声をかけてみたが、坂牧深雪ちゃんの反応は凄まじかった。 「ちょーーーーと、待って下さいッ!」 大声で叫ぶやいなや宙を飛び、ワタシの目の前に運ばれてきたノートパソコンから優に7~8メートルは離れて行ったのだった。テレビ局の人も、予定にない坂牧深雪ちゃんの行動に慌てている様子が見てとれる。 「心配しなくても大丈夫ですよ~」 ワタシは苦笑しつつ笑顔を坂牧深雪ちゃんに向けた。リハーサルの際に【まもるくん】を接続済みのパソコンを起動させた現場に居合わせて、身を持ってその性能を味わってもらったはずなのに、その坂牧深雪ちゃんでさえこの調子なのだ。やはり頭では分かっていても、身体に染みついたパソコンへの恐怖というのは凄まじいものなのだろう。 「い、いや~ねぇ~。私としたことが」 さっきまで熱く語っていた坂牧深雪ちゃんはどこに行ったのだろう。もしかしてこっちのほうが地なのかな。ワタシのそんなことを思っているのを知ってか知らずか、坂牧深雪ちゃんはゆっくりと羽ばたきながら近づいて……、来なかった。ワタシとパソコンを中心点として半径3メートルの圏内に入らないように円を描きながら飛んでいる。 通常、起動したパソコンから半径3メートル以上も離れていれば、諸々の不快感は感じるものの、妖精も気絶まではしない。坂牧深雪ちゃんとしては、パソコンから3メートルというラインは譲れない線なのだろう。う~ん、ワタシとしてはどうするべきなのかな? チラリと剣持主任の顔を見てみる。 すると剣持主任は軽くうなづいた。きっと早く電源を入れてしまえということなのだろう。そう理解したワタシも小さくうなづき返すと、用意されたノートパソコンの横にしゃがみこむと、電源ボタンに手をかけた。 「じゃ、電源を入れますね。ええと、ぽちっとな♪」 なるべく明るい雰囲気でということで少々おどけながらも力強く電源ボタンを押し込む。その瞬間、ハードディスクのカリカリという起動音とともに、若干の気持ち悪さがワタシを襲った。見ると坂牧深雪ちゃんも顔をしかめている。まったくアイドル台無し。まだ電源が入っていないうちから顔をしかめているので、本当に不快感を感じていると言うよりも、ワタシがパソコンが起動させようとするのを見て反射的に顔をしかめてしまったのだろう。 「だ、大丈夫ですか!?」 心配そうな坂牧深雪ちゃん。 「ええ、大丈夫ですよ。ととっ……」 大丈夫だと言いつつ、ワタシはめまいを感じていた。身体が左右にぐらりと揺れる。 [妖精的日常生活 第15話]カテゴリの最新記事
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ネットサーフィン中に見つけて、それからもう釘付けです、続きが気になってしまい毎日期待して見ています。 |-`)更新される日を楽しみにしています(Oct 15, 2007 11:28:20 PM) │<< 前へ │次へ >> │一覧 │コメントを書く │ 一番上に戻る │ |
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