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管理人・千菊丸が書くオリジナルBL小説・二次小説を公開しているブログです。

二次小説につきましては、管理人による非公式かつ個人的趣味によるもので、作者様および出版社様とは一切関係ありません

二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。

このブログサイトに掲載している文章の無断転載などは一切禁じます。

小説には一部残酷描写などが含まれますので、そういった描写が苦手な方は閲覧をご遠慮ください。


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ラインや壁紙などをお借りしております。
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2012年5月30日楽天プロフィール Add to Google XML

Ti Amo 第105話:黒幼狐  
[ Ti Amo ]  

「ふふ、わたしの求愛を拒むとは・・流石鬼の血を受け継ぐ子だけある・・」

蜜匡がそう呟くと、周りの空気が徐々に澱んでゆく。

それと同時に、彼の直衣からするすると九本の狐の尾が出てきた。
艶やかな黒い尾で寄って来る蚊を叩きながら、蜜匡は鏡に映っている己の姿を見た。

そこには、黒い耳が彼の頭に生えていた。

「待っていろ柚聖、鬼の子よ。いつかそなたの魂を喰らってやろうぞ・・」
蜜匡は舌なめずりをしながら、笑って部屋から姿を消した。
「きゃぁ~!」
「何、さっき変なのが・・」
千里と江梨花は、嫌な瘴気を感じて辺りを見渡すと、上空に黒い靄のようなものが消えてゆくのを見た。
「柚聖様!」
「柚聖ちゃん!」
彼女達が柚聖の部屋に入ると、そこには黒い獣のような毛が散らばっていた。
「これは・・」
「梓之介様にお知らせしないと!」
バタバタと慌ただしい足音を立てながら、彼女達は主の部屋へと走っていった。
一方、柚聖は部屋を飛び出した後、若草色の水干に着替えて白馬に跨り、お気に入りの場所である池へと向かっていた。
「はぁ・・」
夏を迎えたその池には、見事な薄紅色の蓮が浮かんでいた。
初めてここで有爾と一緒に来た時はまだ冬で、凍った池の上を興味本位で歩いて溺死しそうになったことがあった。
今思えば、何故そんなばかげた事をしたのだと笑えるが、あの頃は本気でばかげた事をしたものだ。
あの頃はまだ、頼人が生きていた。
しかし今はもう、優しかった叔父はおらず、土御門家は分家である吉保家の厄介者となっていた。
10年前の出来事以来、柚聖は全く笑わなくなっていた。
叔父が自分の身代りに死んだと思い込み、笑顔を浮かべる事は叔父に対する罪悪感に駆られて、笑おうとしても上手く笑えなかった。
そうしているうちに、笑顔を忘れてしまった。
(僕はこれから、どうすれば・・)
梓之介やその親戚は柚聖に優しく接してくれているものの、一部の親戚は彼の事を疎んじ、“いつまであの子を置いておくつもりだ”と梓之介に詰め寄っているところを、柚聖は偶然見てしまった。
(僕の所為で、梓之介様が責められるのは嫌だ。)
このまま吉保家の厄介者となるのか、己の道を切り開いて生きてゆくのか、柚聖は悩んでいた。
もう帰ろうかと彼が蓮池に背を向けた時、視界の隅に墨染の衣に袈裟姿の若い僧の姿が見えた。
端正に整った美貌と、宝玉のような紫紺の瞳を持った僧の顔に、柚聖は暫し見惚れていた。
「おや、わたくしの顔に何か?」
「あの・・あなたは?」
「わたくしは近くの寺に仕える僧です。あなたは何処かの寺の稚児ですか?」
「いいえ。」
柚聖はそう言うと、白馬に跨り池から去っていった。
「あの者、微かだが獣の臭いがした・・恐らく、黒妖狐だな。」
所変わって、京から少し離れた仄暗い洞窟の中で、蜜匡は道中で仕留めた獣の血を美味そうに啜っていた。
「あの鬼の子、ぜひともわたしのものに・・花嫁にしたい。その為には・・」
彼は水面に映る若い僧の顔を憎々しげに睨みつけた。
「あの者を消さねば。」
くつくつと笑うその姿は、昼間陰陽寮で見せる凛とした顔とは違い、邪悪な黒妖狐そのものだった。

『黒妖狐が、遂に動きだしたか・・』

茂みの中から洞窟の様子を窺っていた黒犬はさっと本来の姿へと戻り、ささっと森から離れた。


最終更新日時 2012年5月30日 22時39分52秒
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Ti Amo 第104話:蜜匡の告白 
[ Ti Amo ]  

「有爾(まさちか)や、何処へ行っていたのじゃ。」
「母上・・」
「もしや、またあの柚聖(ゆずまさ)とかいう鬼の子と遊んでいたのかえ?」

藤壺女御の元から辞した有爾がこっそりと麗景殿へと戻ろうとした時、養母・儷子(れいこ)に目敏く見つけられてしまった。

「よいか有爾、そなたはいずれこの日の本を統べる者なのじゃ。日輪の子であるそなたが、闇の者と馴れ合っていかがする。」
「申し訳ありません、母上。」
儷子に対する不満が一気に噴き出そうになった有爾だったが、それをぐっと堪えて彼女に頭を下げた。
「母上、もう疲れたので部屋で休みます。」
「そうか。有爾や、そなたももう元服を迎えたのだから、良き伴侶を貰わねばな。」
「まだ結婚はしたくはありませんし、わたくしは修行中の身。今は雑念に囚われずに生きたいのです。」
「そうか。では妾がそなたに相応しい相手を選ぼうぞ。」
儷子はそう言って満足気に笑いながら、衣擦れの音を立てて部屋の奥へと引っ込んだ。
(母上は、どうして柚聖のことを敵視するんだろう?)
幼い頃、高熱に魘され生死の境を彷徨ったが、それは柚聖の叔父が有爾の死を願い彼に呪詛をかけたと、儷子が勝手にそう思い込み、その甥である柚聖を憎んでいる事を、有爾はつい最近知った。
病と柚聖のことは関係ないと有爾が言っているにも関わらず、儷子は耳を貸そうとはしない。

(柚聖は、僕にとって唯一無二の親友なのに。)

何とか儷子の、柚聖に対する誤解が解けぬものかと、有爾はそう思いながら眠りに落ちていった。
「ふあぁ~、よく寝た。」
寝癖がついたままの髪を弄りながら、柚聖は御帳台の中から出て来ると、千里と江梨花が部屋に入って来た。
「いつまで寝てるのよ、柚聖ちゃんったら!」
「休みの日だからって、だらだら過ごしちゃ駄目でしょう!」
「別にいいじゃん、ここんところ仕事が忙しくてゆっくり休めなかったんだから。」
柚聖がそう言って御帳台の中へと入ろうとした時、廊下の床板が軋む音がして、蜜匡が部屋に入って来た。
「おはよう、柚聖殿。」
「あの、蜜匡様・・こんな朝早くから何故こちらに?」
「それは決まっているだろう?」
蜜匡はそう言うと、そっと柚聖の手を取った。
「柚聖殿、わたしと付き合って貰えないだろうか?」
「は?」
突然の蜜匡の告白に、柚聖は目を丸くした。
「あの、朝からきつい冗談をおっしゃるのですね。」
「冗談じゃないことを、証明してあげるよ。」
蜜匡はそう言って笑ったかと思うと、柚聖の顎を持ちあげ、その唇を塞いだ。
「んんっ!」
江梨花と千里が唖然とする中、蜜匡は自分から逃れようとする柚聖の唇を執拗に吸った。
「これが、わたしの君に対する愛のしるしだよ。」
「この・・変態!」
漸く蜜匡の口吸いから解放された柚聖は、そう叫ぶと上司の股間を蹴りあげ、彼が痛みで悶絶している間に部屋から出て行った。
(相当怒ってるわね、あの様子じゃぁ・・)
(ほっときなさいよ。)
式神達はひそひそと囁きを交わしながら、衣擦れの音を響かせて部屋から出て行った。

「どうして、わたしの愛を受け止めてくれないんだ、柚聖?」

一人残された蜜匡はそう呟くと、鋭い牙を形の良い唇から覗かせた。



最終更新日時 2012年5月30日 9時3分11秒
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Ti Amo 第103話:“鬼姫” 
[ Ti Amo ]  


「なぁ、いつまでこうしていなくちゃいけないんだ? いい加減疲れたぞ。」

蜜匡の願いで一日中女装して過ごす羽目になった柚聖(ゆずまさ)は、退屈そうに欠伸を噛み殺しながら脇息に凭(もた)れかかっていた。

「後少しの辛抱だよ。それにしても後宮っていうのはいつも華やかだね。物心ついた頃から暮らしているけれど、こんなに詳しく見たことはなかったなぁ。」

有爾(まさちか)は部屋にある几帳や自分が纏っている紅の衣を見ながら溜息を吐いた。

「そんなに感心することかよ? 女ってのは大変だな、いつもこんな重たくてずるずるした衣を着て一日中過ごさないといけないなんてさ。男に生まれて良かったよ、本当。」
柚聖は髪を弄りながらそう言うと、ごろんと横になった。

「ちょっと柚聖、はしたないからやめてよ。」

こんな所を藤壺女御のお付きの女房達に見られたら叱責を受けてしまうので、有爾は慌てて柚聖を注意した。
「別に誰も見てないからいいじゃん。それにしても一日中一体何すればいいんだか・・」
柚聖がぼそりとそう呟いた時、廊下から数人の衣擦れの音が聞こえ、その音がこちらへと向かってくることに気づいた。
「あら、お客様だわ。」
「やべぇ!」
柚聖は慌てて姿勢を正し、藤壺女御とともに客人を迎えた。
「あら、禮子(あやこ)様。ようこそおいでくださいました。」
藤壺女御の肩越しに、柚聖と有爾はちらりと客人の顔を見た。
そこには弘徽殿女御である禮子がじっと藤壺女御を見つめていた。

「お風邪を召されたとお聞きして、見舞いに来たのだけれど・・もう床から起き上がれるようになったのねぇ。」
「ええ。わたくし身体は丈夫なんですのよ。でもこれがもし風邪ではなく、呪詛だとしたらわたくしは死んでいたのかもしれないわね。」

藤壺女御がそう言った途端、周囲の空気が少し冷たくなった。

どうやら彼女は、自分を呪詛しようとした犯人が判っているようだった。

「これが女の修羅場かぁ・・おっかねぇ~」
「し、黙って!」
藤壺女御の背後に控えていた柚聖がそう言って口を鳴らすと、禮子の視線が藤壺女御から柚聖へと移った。

(俺、何かまずいことしたかも・・)

一日中女装をする羽目になり、その上後宮の実力者に睨まれるなんてことは御免だ―柚聖はそう思い、さっと手に持っていた檜扇で顔を隠そうとしたが、遅かった。

「ひぃ、鬼姫!」

弘徽殿女御付の女房の一人が、柚聖を見て顔を引き攣(つ)らせたかと思うとそう叫んだ。
「女御様、鬼姫がおりまする!」
一人の女房が叫んだのを皮切りに、弘徽殿女御付の女房達が口々に悲鳴を上げた。
「鎮まりなさい!」
藤壺女御がそう言って檜扇を荒々しく閉じると、辺りが水を打ったかのように静まり返った。
「禮子様、その者達の無礼な態度は、あなたの教育が行き届いていないのではなくて? わたくしの女房を鬼姫呼ばわりするなど、無礼千万だこと。」
口調こそは穏やかだが、藤壺女御の言葉には棘が含まれていた。
「申し訳ございませぬ。ではわたくしはこれで。」
去り際禮子は騒いでいた女房達をじろりと睨みつけると、藤壺から出て行った。
「お待ちくだされ、女御様!」
「どうぞ、お許しを!」
慌てて彼女の後を女房達が追った。
「ごめんなさいね柚聖、あなたに嫌な思いをさせてしまって。」
「いいえ、あんなの気にしておりませんから。それに母が鬼姫だということは事実ですし・・」

そう言って無理に笑顔を浮かべた柚聖だったが、後宮で鬼姫と呼ばれながら暮らしていた母の想いが、この時痛いほど解った。


最終更新日時 2012年5月30日 9時2分16秒
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Ti Amo 第102話:一目惚れ 
[ Ti Amo ]  


「あの、どうですか? 変ではありませんか?」

有爾(まさちか)はそう言って御簾の向こうで固まったまま動かない蜜匡に話しかけた。

「ちっとも変ではないよ、2人とも。寧ろそこらへんの女人を束にしても敵わないくらいの美しさだ。」
「ありがとうございます。」
自分達が置かれている状況が解っていないのか、それともただ単に楽しんでいるだけなのか分からない有爾の答えに、柚聖は溜息を吐いた。
「どうしたの?」
「いや、別に・・有爾、こんな格好させられて嫌じゃない訳?」
「ううん、ちっとも。お母様付の女房達にいつもこんな事されてたから、もう慣れっこだよ。」
「へぇ、そう・・」
幼いころから成人するまで後宮で暮らしてた有爾にとって、女装は日常生活の一部と化しているらしく、余り嫌がっている様子は見られなかった。
だが柚聖は有爾とは違い、女房達の玩具になったこともなければ、こうして女装させられたことは一度もない。
藤壺女御たっての希望で女装したのだが、そうでなければ柚聖は全力で女装することを拒否する。
男である自分が、わざわざ女装する理由が何処にもないからだ。
「蜜匡様、これから僕達はどうすれば?」
「1日だけだというから、夕方にわたしがこちらへ迎えに来るまで、暇を潰していなさい。」
「は?」
柚聖に女装をお願いした蜜匡本人はそう言って彼に全てを丸投げすると、悠々と後宮から去っていった。
「暇を潰せって言われてもなぁ・・どうすればいいんだよ?」
柚聖は溜息を吐きながら、眉間を揉んだ。
「別に今を楽しめばいいんじゃない? 女装なんて滅多に出来る訳じゃないんだからさ。」
「それもそうだけどさ・・」
柚聖がそう言った時、1人の公達が藤壺の方へとやって来たので、柚聖は慌てて御簾を下ろして奥へと引っ込んだ。
いくら蜜匡の頼みに応じたとはいえ、他人に女装した姿を見せたくないからだ。
「あら、あなたは確かこの間の・・」
「露草はまだこちらにいらっしゃいますでしょうか?」
「いいえ、彼女は里下がりをしているから、当分戻っては来ぬでしょう。」
藤壺女御と公達の会話を聞きながら、柚聖はそっと屏風越しに公達の顔を見た。
その公達は、一度宮中で顔を合わせたことがあるが、名は覚えていない。

「柚香、こちらにおいで。」

女御に突然呼ばれ、柚聖は慌てて彼女の元へと向かったが、長袴を穿いている上に裾さばきが判らず、彼は袴の裾を踏みつけてしまい、倒れそうになるのを防ごうと、咄嗟に御簾を掴んだが、その拍子に御簾が捲り上がってしまった。
「も、申し訳ありませぬ、女御様!」
柚聖は女御に慌てて頭を下げると、捲り上がった御簾を下ろそうとした。
その時、公達の手が柚聖の手に重なった。
「あなたのお名前は?」
「柚香、と申します。」
檜扇で顔を隠そうとしたが、それは廊下に落ちてしまったので、柚聖の顔は公達に丸見えの状態であった。
「柚香さんですか・・お美しい御方だ。」
「あ、あの扇を取ってくださいませんか・」
柚聖はそう言って公達に背を向けた。
「どうぞ。」
「ありがとう・・ございます・・」
羞恥で顔を真っ赤に染めながら、柚聖は公達の手からそっと檜扇を受け取った。
「柚聖、あんなに顔を赤らめて、可愛らしいこと。」
公達が去った後、女御はそう言って笑った。
「女御様、からかわないでください。僕は必死だったんですから。」
「あらあら、それはごめんなさい。」
柚聖にそう詫びた女御だったが、笑顔を浮かべたままだ。

(美しい方だった、柚香さん・・)

 藤壺女御の新しい女房に、公達は過去の恋人のことなど忘れ、たちまち彼女に一目で心を奪われてしまった。


最終更新日時 2012年5月30日 9時0分42秒
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Ti Amo 第101話:変身 
[ Ti Amo ]  

「女御様、衣をお持ちいたしました。」

女房が美しい衣を抱えながら部屋に入って来た。

「そう。じゃぁ柚聖、脱いで。」
「は?」
柚聖はそう言って藤壺女御を見た。
「あの~、ここでですか?」
「そうよ。」
「あの・・1人にして貰えませんか?」
いくらなんでも、女達の前で衣を脱ぐことはできない。
「ああ、そうね。お前達、衝立を持っておいで。」
女房達が部屋の隅にある衝立を持ってきた。
「これで、恥ずかしくないでしょう?」
「は、はい・・」
柚聖は衝立の中に入ると、直衣を脱いで白の衣を纏っているだけの姿となった。
「緋袴をどうぞ。」
女房の手から渡された緋色の袴を穿くと、柚聖は衝立の中から出て来た。
「まぁ、髪を下ろして緋袴を穿いている姿を見ると、男の方だとは思えないわぁ。」
女御はそう言うと鈴を転がすような声で笑った。
「そう言われても余り嬉しくないんですけど・・」
「あらぁ、駄目よ、褒められたら素直に喜ばないと。」
「そうですわよ、御髪もお肌もお美しいのに。」
女御とその女房達は勝手に盛り上がり、いつの間にか化粧道具を出していた。
「肌の張りや艶が良いので、余り塗りたくらなくても良さそうですわね、女御様?」
「そうね。羨ましい限りだわ。」
女御はにっこりと笑いながら、柚聖を見た。
「お前達、柚聖の着替えを手伝って頂戴。男の衣と女の衣では、着付け方が全く違うんだから。」
「ええ。では柚聖様、失礼致します。」
女房はそう言うと、一枚の衣を柚聖の上に羽織らせた。
「これだけでもいいんじゃ・・」
「いいえ。まだ五枚くらい重ねませんと。」
「ええ~!」
柚聖は着付けの間、ぶつぶつと文句を言っていたが、女房達に弄られるがままになっていた。
「これで終わりですわ。」
唐衣の紐を絞めた女房が、そう言ってにっこりと柚聖に微笑んだ。
「はぁ・・やっと終わったぁ。」
全身に衣の重みを感じながら、柚聖は溜息を吐いて茵の上に座った。
真紅の唐衣の下には、白と緑、海老染めの衣を纏い、裳を付けた彼の姿は、どこからどう見てもどこかの貴族の姫君だった。
「この姿では、誰が見てもあなたのことを男の子だと言っても信じないわね。」
「そうですね・・蜜匡様と有爾(まさちか)は?」
「蜜匡様は後でお呼びするわ。あなたのお友達はまだ着替え中よ。」
「着替え中って、まさか・・」
「うふふ、そのまさかよ。」
数分後、女房に手をひかれながら、衣擦れの音を立てた有爾が柚聖の前に現れた。
「ま、有爾・・」
そこには、紅の衣を纏った有爾が、じっと柚聖を見た。
「一度こういう格好してみようかなぁと思ったんだけど、似合う?」
「うん。僕なんかよりもずっと。気品があるっていうか、何ていうか・・」
「ありがとう、嬉しいよ。」
有爾はそう言うと、にっこりと笑った。
「もう着替えは済みましたか?」
御簾の向こうから、蜜匡の声が聞こえた。
「ええ、もう着替えは済みましたわ。とくとご自分の目でお2人のお姿をご覧遊ばせ。」
女御は御簾を捲ると、蜜匡に向かってにっこりと笑った。

「これは・・美しい・・」

柚聖と有爾の女装姿の美しさに、蜜匡は暫く声が出なかった。


最終更新日時 2012年5月30日 8時59分20秒
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2012年5月28日

緋の雫◇14◇ 
[ 「火宵の月」小説 ]  

「火宵の月」二次創作小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。


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出航数時間後、雛(すう)は火月とともにサンタ=ラ=ステラマリス号のメインダイニングへと向かった。

そこはロココ風の壁紙や調度品で飾られ、盛装した一等船室の客達が笑いさざめき合っていた。

中には、テレビや雑誌でよく見る有名人たちの姿があった。

「緊張してるの?」
「ええ、まぁ・・」
「大丈夫よ、わたしがついてるわ。」

火月はそう言うと、そっと雛の手を握った。
二人が入って来た瞬間、笑いさざめき合っていたご婦人がたがおしゃべりを止め、彼女達を見た。
「あらぁ、誰かと思ったら火月様じゃありませんか?」
ご婦人がたの中から、薄紫のドレスを着たご婦人がやって来た。
「まぁ奥様、お久しぶりですこと。奇遇ですわね。」
「火月様もこちらの船に乗っていらしたなんて。あら、そちらの方は?」
ご婦人がまるで雛に品定めするかのような視線を投げた。
「彼女はわたくしのお友達ですの。皆さん、また後でお話しいたしましょう。」
「ええ、御機嫌よう。」
ご婦人は火月と話す事を諦めたようだが、仲間の元に戻った彼女は時折雛達のことを見ては何やらヒソヒソと話している。
「あの・・わたし、場違いですか?」
「いいえ、そんなことはないわ。あの人達の事は放っておきなさい。さ、食べましょう。」
雛達がビュッフェテーブルへと向かうと、そこには有匡と仁の姿があった。
「雛、良く似合ってるじゃん。」
そう言った仁が持っている皿には、料理が山盛りになっていた。
「あんたそんなに食べる気?」
「だって元取らないと・・」
「そんな貧乏くさいことしないでよ、みっともない!」
雛は不快そうに鼻を鳴らすと、別のテーブルへと向かった。
(仁の奴、あんなに食べられる筈ないのに。タッパーに詰めて持って帰る気だわ!)
仁とは幼稚園からの腐れ縁だが、彼は節約家の母親に似て、何かとケチだ。
中学の修学旅行で宿泊先のホテルで、彼はわざわざタッパーを持って来ては食べ残しを持ち帰っていた。
その持ち帰った食べ残しの所為で彼は食中毒で入院したのだが、まだ懲りていないらしい。
(暫くあいつとは他人の振りをしていよう・・)
雛が溜息を吐いて皿にサラダとパンを載せていると、突然小学校低学年と思われる男児が彼女の方にぶつかってきた。
「きゃぁ!」
ハイヒールを履いてバランスを崩した雛が転びそうになった時、背後で誰かが自分を支えた。
「大丈夫?」
雛が顔を上げると、少し癖のある薄茶の髪をなびかせた少年が、翡翠の双眸で自分を見下ろしていた。
「あ、はい・・」
「すいません、うちの子が・・」
男児の母親と思しき女性が雛に向かって頭を下げた。
「大丈夫です、怪我はありませんでしたし。」
「たっちゃん、お姉さんにごめんなさいは?」
母親に叱られた男児は雛に頭を下げると、母親とともにビュッフェテーブルから離れていった。
「雛、大丈夫か?」
「あんた、遅いわよ。」
仁をじろりと雛が睨みつけると、彼が持っている皿に載せた料理が少し減っていた。
「君、彼女の知り合い?」
「まぁな。俺は佐藤仁、あんたは?」
「僕?僕は沖田総司。薄桜学園高等部二年。君達も修学旅行?」
「違うよ、ある人に招待されてさ。」
「へぇ、そう。」

少年がそう言って笑うと、背後から派手な音が聞こえた。

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最終更新日時 2012年5月30日 16時12分30秒
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緋の雫◇13◇ 
[ 「火宵の月」小説 ]  

「火宵の月」二次創作小説です。

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火月と雛(すう)が女同士で盛り上がっている頃、仁(じん)は客室のドアを開けて相部屋になった相手を見て嫌そうな顔をした。

「・・まさか、お前もこの船に乗ってたなんてな。」
「奇遇だね。」
充博は本から顔を上げてそう言って仁を見ると、彼は思いっ切り顔を顰めた。
「お前、雛に何かしただろ?」
「別に何も。それよりも彼女は何処に?」
「さぁな。ディナーの時間までまだあるってのに、何でこんな奴と・・」
「それはこっちの台詞だよ。従兄弟同士とはいえ、敵の息子とどうして相部屋なのか、理解できないね。」
充博はぼそりと呟くと、客室から出て行った。
「何が従兄弟だよ・・あいつともし親戚だったら船から身を投げてやる!」
仁はそう毒づくと、ベッドに大の字になって眠った。
客室を出た充博は、デッキへと向かった。
そこには、出航前に港で手を振る家族や恋人に手を振り返したり、別れの言葉を叫んだりしている出稼ぎ労働者と思しき男たちの姿があった。
どうやら、三等船室のデッキへと間違って出てきてしまったらしい。
かといって今更一等船室専用のデッキに戻るのも面倒くさいので、ディナーの時間までに彼は船内を散策することにした。
同じ頃、雛と火月はお喋りで盛り上がっていた。
「ねぇ、雛ちゃんは今は好きな人、居るのかしら?」
「う~ん、居ないですねぇ。周りの男子が馬鹿すぎてレベル低いんですよ。」
「まぁ、そうなの。」
火月は雛の言葉を聞いて苦笑しながら、彼女を見た。
「じゃぁ幼馴染の仁君はどうかしら?」
「あいつは彼氏じゃないですよ。喧嘩仲間ってカンジですもん。彼氏にしたいならやっぱり経済力のある人がいいなぁ~」
「随分と現実的なのね、雛ちゃんは。わたしとは大違い。」
火月は鬱陶しげに前髪をかき上げると、遥か遠い昔のことを思い出した。
有匡に一目惚れし、彼に何度も冷たくされても熱烈にアプローチした末に結ばれ、子宝も授かった。
家族4人の幸せな生活が崩壊する“あの日”まで、夫と子どもたちと過ごす毎日が楽しくて仕方が無かった。
(先生はこの子達の為を思って前世の記憶を消した。でも僕と先生だけが、子ども達のことを憶えているなんて、何だか悲しい・・)
不意に涙が出そうになって、火月はぐっとそれを堪えた。
「どうしたんですか?」
「いえ、なんでもないわ。それよりも雛ちゃん、具体的にどんな人と結婚したいと思ってるの?」
「そうですねぇ~、イケメンで仕事ができる男かなぁ。有匡さんみたいな!」
その言葉を聞いた瞬間、火月の笑顔が凍りついた。
(そろそろ戻るか・・)
船内の散策を終えた充博が一等船室へと元来た道を戻ろうとした時、向こうの通路で突如悲鳴が上がった。
(一体何が起こったんだ?)
充博が悲鳴が上がった通路へと向かうと、そこには数人の女子生徒が恐怖で蹲っていた。
「どうしたの?」
「あ、あれ・・」
彼女たちが指した先には、とぐろを巻いた巨大な蛇が牙を剥いていた。
(誰かの式神だな。)
「君たちはさっさとここから立ち去って。ここは僕に任せて、さぁ!」
女子生徒達が一斉に逃げ出して遠ざかるのを見送った充博は、蛇と対峙した。
「こんな狭い所に蛇を野放しにするなんて、マナーがなってない大人が居たもんだな!」
彼はフッと笑うと、素早く呪を唱えて青龍を召喚した。
青龍は鋭い牙と爪で蛇を切り裂いた。
「ぐはぁっ!」
通路の角でくぐもった男の声が聞こえてきた充博がそちらへと向かうと、そこには豪華客船の船旅には似つかわしくない山伏姿の男が事切れていた。

「土御門家の刺客か・・油断できない船旅になりそうだ。」

やがてサンタ=ラ=ステラマリス号は汽笛を鳴らし、静かに港から離れていった。

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最終更新日時 2012年5月30日 12時59分34秒
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緋の雫◇12◇ 
[ 「火宵の月」小説 ]  

「火宵の月」二次創作小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。


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񤭥ϡ񤭥ϡ񤭥ϡ񤭥ϡ


「うわ~、広ぇ~!」

豪華客船サンタ=ラ=ステラマリス号に乗り込むなり、仁は歓声を上げて吹き抜けのロビーを見つめた。

「ちょっと、こんなところで騒がないでよ、みっともない。」
雛がそう言って仁を睨むと、彼はしゅんとした。
「滅多に来ることないんだから、いいじゃん。」
「あんたさぁ、いつまで経ってもガキだよね。そんなことだからモテないんだよ。」
「そんなの関係ねぇだろうが!お前だってそのガサツなところ、直したら!」
「ガサツとはなによ!」
雛と仁がロビーの真ん中で言い争いをしていると、二人の間に有匡が割って入った。
「公共の場でそんな大声を出さないで欲しいね。他の客に迷惑だろう?」
切れ長の目で射るように見つめられ、雛達は俯いた。
「すいませんでした。」
「わかったのならいい。ディナーまで時間があるから、部屋でゆっくりと休んでいなさい。」
「はぁい。」
それぞれの部屋のカードキーを渡された雛と仁は、エレベーターホールへと向かった。
「それにしてもこんな豪華客船で船旅なんて、まるで『タイタニック』みたいだよな。」
「そうだね。でも沈没はしないで欲しいなぁ。」
「大丈夫だって。さっき救命ボート見たけど、ちゃんと全乗客が避難できるように多めに置いてたぜ!」
「そう・・それならいいけど・・」
映画にもなった豪華客船・タイタニック号が大西洋沿岸で氷山に激突し沈没した「タイタニック号の悲劇」の原因は、救命ボートの数が不充分であったといわれている。
この豪華客船も、タイタニックと同じような運命を辿らなければ良いのだが―雛がそう思っていると、エレベーターのドアが開いた。
「じゃぁ、また夕食の時にね。」
「ああ。何かあったら携帯鳴らせよ。」
雛がカードキーをドアに挿し込んで部屋に入ると、そこには既に先客がいた。
「あら、あなたもこの部屋に泊まるの?」
腰下までの金髪をなびかせたその女性は、真紅の瞳に慈愛の光を宿らせながら、雛を見た。
「はい・・あの、あなたは?」
「わたしは火月。あなたは確か、山田雛さんね?」
「はい。」
「長い船旅になるから、宜しくね。相部屋だということをあの人は言わなかったようね、ごめんなさい。」
「いいえ、気にしてませんから。」
「そう。じゃぁ雛ちゃん、ちょっとショッピングに付き合ってくれるかしら?ディナーにはドレスアップしていかないといけないから。」
「え・・どうしよう、ドレスなんか持って来てない・・」
「大丈夫よ、わたしが選んであげるわ。じゃぁ、行きましょう。」
女性―火月とともに、雛は部屋を出て船内にある高級ブティックでドレスを選んだ。
「これならあなたに似合うと思うわ。」
そう言って火月が雛の胸に翳したのは、薄紅色のドレスだった。
「こんなひらひらしたの、絶対似合いませんって。」
「大丈夫よ、着てご覧なさい。あと、このドレスに合うバッグと靴もお願いね。」
「かしこまりました。」
試着室でドレスに着替えた雛は、火月が言ったことが間違っていないことに気づいた。
「まぁ、本当によく似合っているわ。」
「ありがとうございます・・」
「じゃぁドレスと靴とバッグ、全部頂くわ。」
火月はそう言うと、店員にクレジットカードを差し出した。
「あの、ありがとうございます・・あんな高いものを買って貰って・・」
「いいのよ。」

そう言った彼女は、何処か楽しそうだった。
まるで娘とショッピングをしているかのような。

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最終更新日時 2012年5月30日 12時59分15秒
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緋の雫◇11◇ 
[ 「火宵の月」小説 ]  

「火宵の月」二次創作小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。


二次創作が嫌いな方はすぐさまプラウザを閉じてください。

񤭥ϡ񤭥ϡ񤭥ϡ񤭥ϡ

「野田君こそ、どうしてここに?」
「暇つぶし。もう行くの?」
「うん、またね!」
レジで精算する雛の背中を、充博はじっと見つめていた。
(彼女は、思い出してくれるだろうか?)
空に浮かぶ月を眺めながら、充博は帰路についていた。
脳裡には、“あの日”のことが浮かんできた。
後宮から立ち上る黒煙と、周囲に広がる血の海。
その中に佇む“彼女”の姿は、何故か悲しいものにみえた。

―帰りたい・・

内なる彼女の声を、充博はあの時聞いたような気がした。
人質として半ば強引に生まれ故郷から京へと連れて来られ、後宮という牢獄に囚われ、そこで辛酸を舐めた彼女は、内に秘めた妖力を爆発させてしまったのだろう。
(誰かが・・彼女を救ってやれたらよかったのに・・)
あの時彼女は孤独だった。
頼りになる母は唐土におり、兄と父は陰陽寮に居たものの、男子禁制の後宮には入る事が出来ずにいたので、実質彼女は陰険な女達に囲まれて憂鬱な生活を送っていたのだ。
(彼女が、僕に助けを求めたら・・)
もし彼女が自分の手を取っていたのなら、事態は変わっただろうか。
「お前、あの僧正の子だな?」
突然闇の中から声を掛けられて充博が振り向くと、そこには般若の面を被った数人の男達が立っていた。
「そうだけど・・君達は?」
「我らは光の使徒、貴様の命をいただく!」
そう言うなり男達は、大鎌を充博に向かって振り回した。
「そんな物騒なもの、振り回すなんてどうかしているな!」
充博は鞄の中から特殊警棒を取り出すと、男達の脇腹を蹴った。
「おのれ、小癪な!」
「何言うの、仕掛けてきたのはそっちでしょう?」
充博はそう言って口端を上げて笑うと、向こうの路地から数人分の足音と声が聞こえた。
「おまわりさん、こっちです!」
「・・どうやら、邪魔が入ったみたいだね。」
「ふん・・」
充博が闇の向こうへと消える男達を見つめながら、彼の元に数人の高校生たちがやって来た。
制服を見ると、どうやら自分達が通っている高校とは違うものだ。
「君達、もう終わったから。」
「終わったって・・どういうことだよ!」
充博が眼鏡越しに彼らを見ると、パーカーを着た少年が彼に食ってかかった。
「君達の助けがなくても大丈夫だったってこと。まだ警察に通報してなくてよかったね?してたら大騒ぎになるところだったよ。」
「ふぅん、そう。何かこっちが馬鹿やってるみたいに聞こえるんだけど、気の所為かなぁ?」
パーカーを着た少年を手で制し、長身の少年が充博の前に立った。
「まぁ、そういうことだね。で、そこを退いて貰えるかなぁ?」
「今日のところは引き下がってあげるけど・・また会うかもね。」
少年の翡翠の双眸が、ひたと充博を見つめた。
「さぁね・・どうかな。」
充博はそう言って笑うと、路地裏へと消えていった。
(用心深いね、あの子。それに、気に入らないし・・)
翡翠の瞳をした少年は、充博の背中が次第に遠ざかってゆくのを、じっと見つめていた。
「なぁ総司、もう行こうぜ?」
「そうだね。」

これが、野田充博と沖田総司の出逢いだった。
やがて夏休みを迎えた雛と仁は、豪華客船で世界へと旅立つことになった。


薄桜鬼の沖田さんを出してみましたが・・ゲーム未プレイなので、書くのが難しいです。

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最終更新日時 2012年5月30日 12時58分37秒
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2012年5月27日

白銀之華 第188話  
[ 白銀之華 ]  

エスティア皇国の戦艦・マリスの船底部に、ユーリは囚われていた。

「う・・」

低い呻き声とともに、ユーリはゆっくりと真紅の瞳を開いた。
霞んだ視界の中で、いくつもの人影が見える。

(一体ここは何処だ? 確か、収容所の方が砲撃されて・・それから・・)

ユーリが椅子から立ち上がろうとした時、彼女は両手足が縛られていることに気づいた。

「漸くお目覚めか、ダブリス王国元皇太子・ユーリ。」
凛とした声と、高らかな靴音が船底に響き渡ると同時に、キャサリンの輝くような金髪がランプの仄かな光で糖蜜色に照らされた。
「キャサリン様・・ここは?」
「ここが何処だか解らないのか、ユーリ?」
キャサリンはそう言うと、ユーリの頬をそっと撫でると、長身を曲げて彼女を見つめた。

サファイアのような蒼い双眸は、狂気に彩られていた。

「わたしが一体、何をしたというのです?」
「何をした、だと!? お前はあの時、妹を・・ユーフィリアを殺しただろう!」
激昂したキャサリンはそう叫ぶと、ユーリの頬を打った。
彼女が嵌めていた指輪で、ユーリの頬に傷がついた。

その指輪に、彼女は見覚えがあった。

ユーフィリアが生前愛用していた指輪で、あの式典の時もつけていた。
「この指輪は、元はユーフィリアのものだった。彼女の母親の形見で、今はわたしとユーフィリアを唯一繋ぐものだ。」
キャサリンはそう言うと、ユーリを睨みつけた。
「ユーリ、お前がここですべきことはただ一つ。何故ユーフィリアを殺したのかを、思い出すことだ。貴様が思い出さなければ、収容所の仲間が次々と死んでゆくだろう。」
「待て、それはどういうことだ!?」
ユーリの問いには答えずに、キャサリンはマントを翻しながら部屋から出て行った。
「エスティアがこの島に上陸しただと!? 一体どういうことなんだ!?」
「それはこちらも解りません、閣下。ですが、エスティア側にルディガー陛下がつかれているとは・・」
兵士がそう言った時、砲撃でフランス窓が粉々に粉砕された。
「一体何だ!?」
「閣下、お怪我は?」
「大丈夫だ。それよりも、他に砲撃を受けていないか確認しろ!」
クラーク将校達は、砲撃を受けた収容所の囚人部屋で、手足や胴体が千切れ、ばらばらとなった女性や子どもの遺体を発見した。
「何てことだ・・」
鼻と口元をハンカチで覆いながら、クラーク将校は惨劇の現場へと足を踏み入れた。
粉砕されたフランス窓の近くに、白銀の美しい髪が散らばり、1人の少女が目を見開いたまま死んでいた。
「何てことだ・・」
クラーク将校は、璃娜の目をそっと閉じ、胸の前で十字を組んだ。
砲撃を受けたその日の夜、男達は犠牲者の遺体を水葬することになった。
原形を留めない妻や子ども達の遺体を見て、男達は涙した。
匡惟は、璃娜の変わり果てた姿を見て人目も憚らず嗚咽し、彼女の遺体から離れようとしなかった。
「璃娜、目を覚ましてくれ・・」
匡惟が璃娜の身体を激しく揺さ振ると、彼女が首に提げていた犬を象ったカメオのネックレスが床に転がった。
それは、璃娜の誕生日に匡惟がプレゼントしたものだった。
「璃娜・・」
匡惟はネックレスを握り締め、愛娘に別れを告げた。

(いつになったら、この世から憎悪の連鎖が消えるのだろう? 憎しみは憎しみしか生まれない。)

血のような真っ赤な夕陽に照らされながら、匡惟は娘の形見を握り締めながら、答えの出ない問いを繰り返していた。

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最終更新日時 2012年5月31日 14時57分42秒
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