アフロディーテがブタペストへと発ったその日の晩、プラハ城で夜会が行われることとなった。
プラハの貴婦人達や令嬢達は、ルドルフの顔を一目見ようと朝から身支度に忙しかった。
そしてベルギーから、まだあどけなさが残る王女・シュティファニーが未来の夫となるべき相手に対しての期待に胸を膨らませながら、プラハへやって来た。
「皇太子様って、どんな方なのかしら・・?」
だが当のルドルフは、鏡の前でうなっていた。
というのは、彼の前にはコルセットを締められ、次々とドレスを試着させられているユリウスがいたからである。
「このドレスはお前には派手すぎるな。」
そう言ってルドルフはユリウスに薔薇がちりばめられたドレスを脱がせ、仕立屋にそれを返した。
「あの・・ひとつお聞きしてよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「どうして私が女装をして夜会なんかに?」
「決まってるだろう、悪い虫を寄せ付けないためだ。」
皇太子であるゆえに、ルドルフの寵を得ようとする女達が夜会が開かれるたびに彼に媚を売ることが多い。
そういう時は適当にあしらっているのだが、中にはいつまでもしつこく絡む女がいる。
ユリウスを女装させ、連れとして夜会に出席させれば女達は彼に近づかないだろう。
「私ではなく、他の方にお頼みした方がよろしかったのでは?たとえば、サルヴァトール大公様とか・・」
「あいつはガタイがいいから一発で男だとわかる。それにお前のドレス姿を一度見てみたいし。」
ルドルフはそう言って裾にレースが付き、薔薇の刺繍が施されている真珠色のドレスをユリウスに渡した。
「これならお前にぴったりだ。」
「そうですか。」
ユリウスはドレスを着て鏡の前に立った。
「清楚な感じがしていいな。お前によく似合っている。」
それから数時間、ユリウスは専属の美容師にヘアメイクを施されて美しい貴婦人に変身し、ルドルフのエスコートで夜会の会場である大広間へと向かった。
―ルドルフ様だわ・・
ルドルフの登場で、貴婦人達は一斉に自分達のほうに目を向けた。
―新聞のお写真で見るよりも、実物の方がいい男ね・・
―それにしても、隣の方は一体どなたなのかしら・・
(なんだか嫌な予感がする・・)
貴婦人達の刺すような視線を受け、ユリウスはそう確信した。
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Last updated
2011.07.26 15:16:31
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