「ユリウス、入るわよ?」
クララはそう言って幼馴染の部屋をノックした。
「入って。」
クララが部屋に入ると、ユリウスは旅行鞄を右手に抱え、左手にはオルゴールを持っていた。
「そのオルゴール、何なの?」
「これは、ルドルフ様に渡そうと思って・・もうすぐ、誕生日だから・・」
ユリウスはそう言ってうつむいた。
「ユリウス、ルドルフ様と会ってきたら?」
「でももう、ルドルフ様のことを忘れないと・・これから僕はアフロディーテ様のお傍に・・」
「何言ってるのよ!今すぐルドルフ様に会いに行きなさいよ!」
クララはユリウスを睨んだ。
「あたしはね、ルドルフ様のためにあんたを諦めたのよ!あんたルドルフ様のこと好きなんでしょう?だったら無理に忘れようとしないでそのオルゴールを渡して、ルドルフ様に気持ちをぶつけなさいよ!」
「クララ・・」
ユリウスの翠の瞳が、大きく揺らいだ。
「行きなさいよ、早くっ!」
「ありがとう、クララ。」
「お礼なんて、いいわよ。」
ユリウスが部屋を出て行った後、クララは涙を流した。
「ルドルフ様、入りますよ?」
ユリウスはそう言ってルドルフの部屋をノックした。
「・・いまさら何の用だ。僕を捨ててイギリスに行くくせに。」
部屋に入るとルドルフはそう言ってユリウスにそっぽを向いた。
「僕はいつか、あなた様の元に帰ります。」
ユリウスはルドルフにオルゴールを渡した。
「これは・・」
「誕生日がもうすぐ近いのでしょう?ですから、一足先に誕生日プレゼントにと思いまして。」
「ありがとう。」
ルドルフは頬を赤く染めながら、ユリウスからオルゴールを受け取った。
「ルドルフ様、私はあなたのことが好きです。あなたと離れたくないんです・・けれど、僕はあなたを支えるためにイギリスに行きます。」
「ユリウス・・」
わかっていた。
初めてイシュルでであったときから、彼のことが好きだったと。
それなのに意地を張って、ユリウスを困らせることばかりしてしまった。
本当は傍にいて欲しいのに、冷たく突き放した。
「ユリウス、僕のことを忘れたら許さないからな。」
ルドルフは泣きそうになるのを堪えて、ユリウスを睨んで言った。
「あなた様のことを、忘れたりしませんよ。いつも私を困らせる我がままな皇子様のことを。」
「お前っ・・」
ユリウスは、ルドルフの頬にキスをした。
「このオルゴールを僕だと思って大切にしてください。」
「・・わかった。」
ユリウスは静かに部屋を出て行った。
「待ってるからな、ユリウス・・だから、早く帰って来い。」
ルドルフはそう言ってオルゴールを抱きしめた。
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