―ねぇ、どうして泣いているの?
頭の中で、少女の声が聞こえる。
ユリウスはその声で目を覚ました。
目の前に広がるのは、バイエルンの村ではなく、どこか遠い異国の地。
そして目の前に立っているのは、布を巻き付けた東洋の「キモノ」と呼ばれる民族衣装を纏っている。
“僕は泣いてなんかいない。”
―嘘。あなたは泣いてるわ。
少女はそう言ってユリウスの頬に伝う涙を拭った。
―何か嫌なことでもあったの?それとも・・
“僕は・・人を殺してしまった・・1番愛する人を・・”
―もう泣かないで。時が全てを癒してくれるわ。
少女はそう言ってユリウスに微笑み、霧の向こうへと消えていった。
“待って、君は・・”
最後に覚えていたのは、高く結い上げられた少女の艶やかな黒髪だった。
「夢か・・」
ユリウスはベッドから降りて夜着から制服に着替えた。
それにしても、あの夢は一体なんだったのだろう?
あの少女は、一体何者なのだろう?
「ウス・・ユリウス?」
我に返ると、カエサルが心配そうにユリウスの顔を覗き込んでいた。
「ごめん、ちょっとボーッとして・・」
「君は、今夜の舞踏会には出席するの?」
「舞踏会・・?」
ユリウスがキョトンとした目でカエサルを見た。
「今夜は聖エステリア女学院とイートンの親睦を深める舞踏会が行われるんだよ。僕のフィアンセも出席するし、君も出席しなよ。」
「でも僕、燕尾服も何も持ってないし・・社交界には無縁だし・・」
「大丈夫、僕がいるから。」
カエサルはそう言ってユリウスに微笑んだ。
その夜、イートン・カレッジにある食堂は舞踏会場と化し、聖エステリア女学院とイートンの親睦を深める舞踏会が華々しく開かれた。
―カエサル様たちだわ・・
―いつ見ても、素敵ね・・
―カエサル様の隣におられる方は、どなたかしら・・?
聖エステリア女学院の生徒達は、黒い燕尾服に身を包んでいるユリウスに熱い視線を送っている。
「僕、変かな・・」
「大丈夫だよ。僕がついてる。」
カエサルはユリウスの肩を叩いた。
「ユリウス、来たのね!」
結い上げたブロンドの髪を揺らしながら、アフロディーテがユリウス達の方へと駆けてきた。
彼女の後ろには、キャラメル色の髪をなびかせながら少女が駆けてくる。
「アフロディーテ様もいらしてたのですか。」
「当たり前でしょう。あら、あなたは・・」
アフロディーテの視線がユリウスからカエサルへと移る。
「お初にお目にかかります、皇女様。カエサル=フェネックと申します。以後お見知りおきを。」
カエサルはそう言ってアフロディーテの手の甲に接吻した。
「ユリウス、紹介するよ。僕の許嫁のミレーヌだ。ミレーヌ、こちらは僕の親友のユリウスだ。」
「初めまして。」
キャラメル色の髪をした少女はそう言ってユリウスに微笑んだ。
「初めまして。」
ユリウスはそう言って少女に微笑んだ。
(素敵な方・・)
ミレーヌは一目でユリウスに恋に落ちてしまった。
楽団がワルツを奏で始めた。
「踊ってくださらないこと、ユリウスさん?」
「僕、こういうの初めてで・・」
「大丈夫、わたくしがリードしますわ。」
にほんブログ村