ルドルフが辺りを見渡すと、そこには数人の少年達が興味深げに自分を見ていた。
皆軍服を纏い、腰には日本刀を帯びていた。
白虎隊士達の墓所があった所には、何も無く代わりには鬱蒼と茂った森が広がっていた。
先程聞いた砲撃と怒号から察するに、ルドルフはどうやら戦火の只中へとやって来てしまったらしい。
(どうなっているんだ?)
記憶を整理してみると、突然謎の閃光を受けて気がつくと戦場に居た。
あの閃光の正体が判らない以上、元の場所に戻る事は不可能だ。
(このまま、ミズキと会えなくなるのか?)
脳裡に瑞姫の笑顔を浮かべた時、ルドルフは砲撃の音で我に返った。
「退け、ここは危ない!」
「けど、何とか持ちこたえないと・・」
「俺達はまだ負けた訳じゃない!」
ルドルフの手首を掴んだ少年がそう怒鳴ると、残りの少年達は渋々と彼に従った。
どうやら彼がこの集団のリーダーらしい。
「お前、名前は?」
ルドルフがそう言って少年を見ると、彼はきっとルドルフを睨み返した。
「まずはそちらから名を名乗られよ。」
「わたしはルドルフ、ルドルフ=フランツだ。」
「わたしは望月遼太郎だ。ルドルフ、これから何処に行くつもりだ?」
「出来ればお前達と付いていきたいのだが。」
年下にいきなり呼び捨てにされて少しムッとしたルドルフだったが、些細な事に苛立ってはいけないと思いながらも、そう言って少年を見た。
「いいだろう。ただし己の身は己で守ることだな。」
少年―望月遼太郎はそう言うとルドルフに背を向けて仲間達とともに走り始めた。
彼は気に入らないが、戦場で生きていく為には多少は妥協せねばなるまい―ルドルフはそう思い、慌てて彼らの後を追った。
遼太郎とその仲間達は、鶴ヶ城下へと入った。
そこでは会津藩士達や新撰組隊士、そして婦子軍と呼ばれる女達が長刀を振るいながら新政府軍と戦っていた。
「俺達も戦うぞ!」
激しい剣戟の音、敵味方かどちらか解らぬ人々の怒号、そして次々と緋に染まる地面―鮮烈な緋が支配する戦場を、ルドルフは呆然と見ていた。
今まで軍隊で部下達を指揮してきたが、それは司令室の中だけで、一度も剣を取り敵陣へと踏み込んだことがない。
オーストリア=ハンガリー帝国の皇太子である彼が戦場へ出る事を、重臣達が望まなかった。
何故なら彼には国を統べるという重要な役目―次期皇帝としての役目があったのだから。
皇帝とともに戦略会議で机の上に広げられた地図を見ながら、ルドルフは戦場を知り尽くしていたつもりでいたのだ。
だが目の前に広がるリアルで壮絶な戦場を目の当たりにした彼は、目が醒めた。
命を奪うか、奪われるかの瀬戸際に常に立たされる場所―それが戦場なのだ。
ルドルフが呆けていると、突然敵兵が白刃を煌めかせながら彼の方へと突進してきた。
護身用の拳銃を取り出そうと上着の内ポケットを探ったが、いつもの冷たい感触はそこにはないことを知り、舌打ちした。
こうなったら丸腰で戦うしかないか―ルドルフがそう思った刹那、艶やかな黒髪と鮮やかな着物の袖がたなびいたかと思うと、敵兵が血を噴き出しながらどうと地面に倒れた。
「怪我はありませぬか?」
くるりと振り向いた少女はそう言ってルドルフを見た。
(ミズキ!)
その少女は最愛の女(ひと)と瓜二つの顔をしていた。
「わたくしの顔に何かついておりますか?」
「いや、何でもない・・」
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