瑞姫は数日前に女児を産んだが、産後間も無い身体を労わりつつも、赤ん坊に乳をやったり、おむつ替えをしたりした。
「お母様、わたしがやるよ。」
遼太郎はそう言うと、ぐずる赤ん坊を抱いてベビーベッドの上に寝かせると、慣れた手つきでおむつを替えた。
まだ2歳だった時から、遼太郎は生まれたばかりのアイリスと椰娜のおむつを替えていた。
始めたばかりの頃は慣れなかったが、母が根気よくおむつ替えやミルクのあげ方を教えてくれたので、今となっては赤ん坊の世話など朝飯前になっている。
「ありがとう、遼太郎。助かるわ。」
「ううん。お母様はまだ疲れているから、お兄ちゃんが頑張らないと。」
「遼太郎、誕生日おめでとう。もう7歳になるのね。」
「うん。誕生パーティーまでまだ時間があるから・・」
「遼太郎、猫はどうしたの?」
「あの子ならアイリスとユナが飼って面倒を見ているよ。お父様にもお祝いの言葉を言ってくるね。」
遼太郎は瑞姫に微笑むと、瑞姫の部屋から出て行った。
「遼太郎お兄様、お誕生日おめでとう!」
「おめでとう!」
廊下を歩いていた時、遼太郎は妹達から祝福のメッセージを受け、2人に微笑んだ。
ユナの腕には、数日前に助けた白猫が抱かれていた。
「お兄様、わたしたちプレゼント作ったのよ!」
「そう・・パーティーが楽しみだな。」
遼太郎はうきうきとした気分で、ルドルフの部屋のドアをノックした。
「父上、遼太郎です。」
「入れ。」
「失礼します。」
遼太郎がルドルフの部屋に入ると、彼は溜息を吐いて窓の外を見ていた。
「どうしたの?」
「少し困った事があってね。それよりリョータロウ、誕生日プレゼントのことだけど・・」
「父上、誕生日おめでとうございます。プレゼント用意できなくてごめんなさい。」
「謝る事はないよ、リョータロウ。そろそろパーティーの時間だから、部屋で着替えて来なさい。」
ハプスブルク帝国皇太子・ルドルフの37歳の誕生日と、その息子・遼太郎の7歳の誕生パーティーが王宮庭園で青天の下行われた。
「ルドルフ様、リョータロウ様、お誕生日おめでとうございます。」
「ありがとう。」
招待客達に笑顔を振りまくルドルフと遼太郎の横顔を、瑞姫は微笑ましげに見ていた。
「遼太郎兄様、父様、わたし達からプレゼントよ!」
アイリスとユナがそう言って包装紙に包まれたレースのハンカチをルドルフと遼太郎にそれぞれ手渡した。
「ありがとう。大切に使わせていただくよ。」
「兄さん、父さん、誕生日おめでとう。」
蓉は蒼い瞳を煌めかせながら、そう言うとルドルフと遼太郎の頬にそれぞれキスをした。
「ありがとう、ヨウ。さてと、リョータロウ、お前犬が欲しいって言っただろう?」
「うん。」
ルドルフが侍従に目配せすると、彼は1匹の子犬を連れて歩いて来た。
「これが誕生日プレゼントなの?」
「嬉しくなかったかい?」
「ううん、とっても嬉しい!」
遼太郎はそう叫ぶと、ルドルフに抱きついた。
「父さん、僕も犬が欲しいな。」
少しムッとしたような顔をしながら、蓉はルドルフを見た。
「解った、犬種は?」
「トイプードルがいいな。ふわふわしてて可愛いから。」
ルドルフは子ども達に平等に接しているのだが、蓉にとって父が兄ばかり可愛がるのが少し気に食わないらしかった。
にほんブログ村