「お父様、早く早く~!」
一週間後の日曜日、遼太郎達は友人のヤンネ一家とともにザンクト・ヴォルフガンク近辺のキャンプ場へと来ていた。
彼らの前には、太陽に照らされて美しく輝く湖面が広がっていた。
「待ちなさい、リョータロウ。そんなに走ったら転ぶぞ!」
車から降りるなり蓉とともに走り出した遼太郎と蓉の後を、ルドルフは慌てて追いかけた。
「わぁ~、綺麗!」
遼太郎と蓉は湖を眺めながらそう言って溜息を吐いた。
生まれてから今までホーフブルクの外を知らなかった2人にとって、目の前に広がる雄大な自然は刺激的なものだった。
「2人とも、走るのはやいって。」
ヤンネは息切れをしながら漸く遼太郎達の元へと駆け寄って来た。
「湖ってまだ泳げるかな?」
「さぁ、どうだろうね。それよりもママ達が呼んでるよ。」
3人はバンガローの方へと移動すると、そこにはルドルフとヤンネの両親が車から荷物を下ろしていた。
「やっと戻って来たね。荷物を下ろすのを手伝ってくれないか?」
「わかった。」
遼太郎達が荷物を車から下ろし、バンガローの中にそれぞれ運び終わると、昼食の時間となった。
「自然の中で食べるごはんって美味しいね!」
焼き立てのとうもろこしを頬張りながら、遼太郎はそう言ってルドルフを見た。
「そうだね。たまにはこういう所に来るのもいいかな。」
ルドルフは煌めく湖面を見つめながら、蒼い瞳を細めた。
今まで公務で忙しく、息抜きする時間など全くなかったが、何とか息子達と過ごす時間を過ごそうと、スケジュールを調整して妻に携帯を預けてこのキャンプ場へと来た。
「ねぇお父様、湖で泳いでいい?」
昼食を平らげた蓉はそう言うとルドルフを見た。
「いいよ。けど余り遠くには行かないようにね。」
「わかった。」
2人の息子達はそう言うと、後片付けをヤンネとともに始めた。
「皇太子様、わざわざスケジュールを調整していただいてすいません。」
ヤンネの母親がルドルフに申し訳なさそうな顔をしながら言った。
「別にそんな顔しなくてもいいんですよ。わたしだってこのキャンプを楽しみにしていたのですから。」
「ですが・・」
「いい加減にしないか、アンネ。すいませんねルドルフ様。」
尚も言い募ろうとする妻を制し、ヤンネの父親・ハンスはそう言ってルドルフに微笑んだ。
「いや、気にするな。それよりもハンス、お前こそ仕事が忙しいんじゃないのか?」
ハンスは新聞記者で、多忙を極めていたが、家族と過ごす時間を何よりも大切にする男だった。
「いいえ。今回のキャンプはわたしが計画したんですよ。」
「そうか。」
こうして瞬く間に楽しい時は過ぎ、ルドルフとヤンネ達はキャンプで楽しい思い出と時間を作った。
「また来年も行こうね、お父様!」
帰りの車の中で、蓉はそう言ってルドルフを見た。
「ああ。」
ウィーンに戻ったルドルフ達親子は、ホーフブルクで聡一郎とその孫・隼に会った。
「どうして彼らがここに居るんだ?」
そう言って瑞姫を見ると、彼女は溜息を吐いた。
「それは・・急におしかけてきて・・」
「ソウイチロウさん、何の用ですか? もうお話しすることはないでしょう?」
ルドルフが聡一郎を睨むと、彼は物怖じせずに睨み返してきた。
「うちの孫が君の息子に失礼な事を言ったようだね? わたしに免じて孫を許して貰えないだろうか?」
ルドルフはちらりと車椅子に座っている少年を見ると、彼は憮然とした表情を浮かべてルドルフを見た。
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