オーストリア=ハプスブルク帝国皇妃・エリザベート暗殺から3ヶ月が過ぎたある日の事、皇帝フランツ=カール=ヨーゼフは閣議室にルドルフを含む重臣達を集めた。
「今日こうして皆に集まって貰ったのは、言うまでも無い。わたしの跡を誰が継ぐかを、今話しあいたいと思ってな。」
皇帝の言葉に、重臣達はどよめいた。
「陛下、何も話し合わずとも、次期皇帝はルドルフ様において他に誰もおりません。」
「そうですとも。国と民を何よりも思い、尽力をなさっているルドルフ様以外に、王の器に相応しい方がいらっしゃいますか?」
重臣の言葉にフランツは耳を傾けながらも、眉間を揉んだ。
「実はだな、フェルディナンドが昨夜、わたしの元を訪ねて来たんだよ。」
「フェルディナンド殿が、ですか?」
重臣達は一斉に末席に座っているフランツ=フェルディナンドを見た。
彼は不遜な表情を浮かべながら彼らを睨むと、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
「陛下、わたしはあなたの跡を継ぐのに相応しい男です。どうか、この国を任せてくださいませんか。」
「フェルディナンド、何処にそう言える根拠があるのだ?」
ルドルフはフェルディナンドを射るように見ながら、ピシャリとそう言うと、彼はじっとルドルフを睨み返してきた。
「ルドルフ様、わたしはあなたが皇太子妃様とこの国の福祉を変革したことは存じておりますし、あなたほどの器なら次期皇帝に相応しいと感じております。ですが・・」
フェルディナンドはそう言葉を切ると、1冊の週刊誌の記事を机の上に広げた。
そこには、数人の高級娼婦と戯れるルドルフの写真が載っていた。
「ルドルフ様は何かと女性との噂が絶えない方です。こういう人間が帝国に居ると後々問題が起きるのでは?」
「そんな心配をしてくれなくても、わたしはあなたのようにどこぞの伯爵令嬢に入れ上げるなどという真似はしないのでね。安心してくれ給え。」
ルドルフの厭味ったらしい慇懃無礼な口調に、フェルディナントは一瞬ムッとしつつも、平静を失っていなかった。
「何をおっしゃる、ルドルフ様。あなただって貴族でもない東洋娘と結婚したではありませんか?」
「あなたと同じにしては困るね、フェルディナンド。父上、こんな者の戯言などお聞き流しください。」
ルドルフはこれ以上フェルディナンドと話しても無駄、というようにさっと椅子に座ると、思案顔のフランツを見た。
「わたしはもう若くないし、安心してこの国を任せられるのはルドルフ以外に居ない。近々、正式にマスコミに向けて発表する予定だ。話は以上だ。」
フランツの言葉に、フェルディナンドを除く重臣達が力強く頷いた。
この時、彼の後継者が誰であるか皆は解っていた。
「ルドルフ様。」
閣議室をルドルフが出ると、瑞姫が彼の方へと駆け寄って来た。
アイボリーのワンピースにパールのネックレスというシックな格好からして、慈善活動から帰って来たのだろう。
「ミズキ、大事な話がある。今いいか?」
「今から書類を纏めなければいけないんですけれど・・夜でもいいでしょうか?」
「ああ。」
「失礼します。」
自分に頭を下げ、靴音を響かせて廊下を歩く瑞姫の背中をフェルディナンドはじっと見ながら、先ほどの皇帝の言葉を思い出した。
彼は、自分の息子であるルドルフに帝位を継がせようとしている。
普段反目していながらも、いざ自分に万が一のことが起きて国を任せられる人間は息子以外誰でもない、ということか。
どう足掻いても、自分に皇帝の座はまわってこない。
(ふん、まぁいい。それならばこちらにも考えがある。)
不快そうに鼻を膨らませながら、フェルディナンドは廊下を歩き始めた。
執務室に入った瑞姫は、机の前に座るとノートパソコンの電源を入れた。
結っていた髪を解いて軽く頭を振ると、王宮に着くまでに感じていた偏頭痛が少しマシになったような感じがした。
首の後ろを彼女が擦っていると、誰かがドアをノックした。
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