クリスマスシーズンになり、皇太子夫妻はとシュタイナー伯爵夫人からパーティーに招待された。
「どうですか?」
「良く似合っているよ。」
ルドルフはそう言うと、艶やかな黒のドレスを纏い、アメジストのネックレスを付けた妻を見た。
5人も子を産んだというのに、ウェストのラインは妊娠前と殆ど変っていないのは、ルドルフとともに妊娠中の体重管理や産後のダイエットに励んだからだろう。
「イツキは?」
「あの子なら寝ていますよ。2ヶ月前はあやしても全然泣き止まなくて困っていたのに、最近はそれもなくなって・・」
「そうか。お前は良くやってくれているよ、ミズキ。育児と公務を両立させるのは大変だろうに、愚痴ひとつ零さない。」
「それはあなたが協力してくださるからでしょう? 頼りにしてますよ、わたしの旦那様。」
瑞姫はそう言うと、自らの腕をルドルフの腕に絡ませた。
「それじゃぁ、行こうか。」
「ええ。」
シュタイナー伯爵家のパーティーは、経済界の名士などが集まり、盛況だった。
「皇太子様、皇太子妃様、お忙しい中わざわざおいでくださり、ありがとうございます。」
このパーティーのホステスであるシュタイナー夫人は瑞姫とルドルフの姿を見つけると、さっと彼らの方へと駆け寄ってそう言うと2人に向かって頭を下げた。
「いいえ、こちらこそ招待してくださってありがとう。」
「今夜はいつにも増してお美しいこと。」
「まぁ、ありがとう。」
シュタイナー夫人と取り留めのない話をしながら、ルドルフと瑞姫はシャンパンやピアノとヴァイオリンの生演奏を楽しんだ。
そんな中、遠巻きに2人を見ているフェルディナンドとシャルルの姿があった。
「本当ですか、その話は?」
フェルディナンドはシャンパンを飲むと、シャルルの端正な顔を見た。
「ええ。確かですよ。これでわたしは、あの男を陥れる材料をあなたに提供しましたか?」
「ええ。」
フェルディナンドはにっこりとシャルルに微笑むと、ちらりと皇太子夫妻の方を見た。
ルドルフと瑞姫は、これから起ころうとしている事も知らずに、楽しそうに笑っている。
(わたしは、どんな手を使ってでもあなたを皇太子の座から引きずりおろしてやる。)
フェルディナンドはさっと伯爵邸から出て行った。
「お気を付けてお帰り下さいね、皇太子様、皇太子妃様。」
伯爵夫妻はそう言ってルドルフと瑞姫が乗ったリムジンが見えなくなるまで手を振った。
「今夜は楽しかったですね。」
「ああ。それにしても、パーティーの間中わたしはお前に他の男に奪われまいかと心配ばかりしていたよ。」
「もう、ルドルフ様ったら。嫉妬深いですね。」
「何を言う、そういうお前だって嫉妬深いだろう? あの記事を読んで妬いたんじゃないか?」
「まさか。わたしはあんな事で落ち込む女ではありませんよ。」
瑞姫はにっこりとルドルフに微笑むと、彼にしなだれかかった。
「お前は、強い女だな。」
ルドルフは瑞姫の艶やかな黒髪を梳いた。
「女は可愛いだけじゃ、駄目なんですよ。」
翌日、瑞姫が慈善活動団体の会合へと徒歩で向かっていると、突然彼女の前に1人の少女が現れた。
「あなたが皇太子妃様?」
少女はじろりと蒼い瞳で瑞姫を睨むと、口を開いた。
「あなたと少し、お話ししたいことがあるの。」
「急いでるから、後にしてくださらない?」
「今でないと、嫌なの。」
「そう・・じゃぁ5分だけ。」
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