「ねぇ、宿題終わった?」
遼太郎が英文学のレポートを書き終えた時、蓉がノックとともに部屋に入って来た。
「うん。お前は?」
「フランス文学と英文学のレポートは終わった。『高慢と偏見』なんて二度と読みたくないなぁ、もう。」
蓉はそう言って唸りながら、隣の誰も居ないベッドを見た。
「あいつはまだ帰ってきてないの?」
「ああ。何でも友達ん家でパーティーするってさ。試験が近いっていうのに、呑気だよね。」
「いいんじゃないか? 僕だって余りあいつと同じ部屋には居たくないね。」
遼太郎はノートパソコンを閉じながら、蓉を見た。
「ねぇ兄さん、さっきネットサーフィンしてたら、こんなもの見つけたんだけど・・」
そう言って蓉が携帯を取り出し、とある人生相談サイトに寄せられた投稿を彼に見せた。
そこには何かと自宅に押し掛けて来ては自分に嫌味ばかり言う姑に困っている、という女性の投稿だった。
「これ、読んでみたんだけどさ・・もしかして、エルジィ姉さんがこれ投稿したんじゃないかって思うんだ。」
「何でそう思うの?」
「だってさぁ、結婚式の時にあちら側のお母さんに会ったじゃない。披露宴の時自分の息子が結婚するっていうのに、あの人終始仏頂面だったよね? まるで姉さんが気に入らないように。」
「そうかもな・・」
遼太郎は義理の姉が今どうしているのかが気になった。
その頃エルジィは、パソコンの前に座って画面を見つめていた。
あれから姑は毎日のようにやって来ては、自分に嫌味ばかり言って帰る。
何処かに吐きださなければ、心が壊れそうだった。
レスを見てみると、エルジィを励ますコメントが多かった。
ネットで悩みを吐きだして、エルジィは少し気が楽になった。
レスを打とうと彼女がキーボードに指を滑らせた時、傍らに置いていた携帯が鳴った。
「あなた、どうしたの?」
『済まないがエルジィ、母さんが倒れたから病院に行ってくれないか?』
「え、今から?」
ふと液晶の下に映っている時計を見ると、夜の10時を回ったところだった。
「あなたは行けないの?」
『それが急に残業が入ってね。妊娠中の君には悪いと思うけど・・』
「わかったわ。」
エルジィは溜息を吐くと、身支度をして病院へと向かった。
「悪いわねエリザベートさん、夜中に来て貰って。」
ベッドの上で上半身を起こしながら、ゾフィーはそう言って妊娠中の嫁を気遣う素振りも見せずにエルジィを見た。
「お義母様、お身体のお加減はどうですか?」
「大丈夫よ。それよりもあなたはどうなの?」
「わたしは大丈夫です。ではこれで失礼します。」
エルジィは病室を出て廊下を歩くと、突然眩暈に襲われて床に蹲った。
「エルジィ、エルジィ!」
ゆっくりとエルジィが目を開けると、そこは病院のベッドの上だった。
「お母様?」
傍らに立っている両親を見て、エルジィは何が起こったのかが解らなかった。
「わたし、どうしてこんな所に?」
「心労で倒れたのよ。赤ちゃんは大丈夫だって。ストレスは一番お腹の赤ちゃんに悪いから、暫く休んだ方がいってお医者様がおっしゃったわ。後はわたし達に任せて。」
「ごめんなさい、お母様。」
エルジィが済まなそうに言うと、瑞姫はそっと彼女の手を握った。
「娘を守るのは、母親の役目として当然のことでしょう?」
瑞姫はそう言ってエルジィに微笑むと、病室から出て行った。
彼女はその足で、彼女の姑であるゾフィーの元へと向かった。
「あら、皇妃様。わざわざお見舞いに来ていただいて・・」
「あなたに、お話があるの。」
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