「エルジィ、久しぶりね!」
シュティファニーはそう言うと、エルジィの方へと駆け寄った。
「あなた、全然顔見せに来てくれないから、こっちから会いに来ちゃったわ。まぁ、可愛い赤ちゃんね。」
シュティファニーの視線が、エルジィが抱いているフランツへと移った。
「今更何しに来たの? 帰って。」
「何しにって、母親が娘に会うのに理由が要るのかしら? ねぇ、この子を抱かせてくれる?」
「出て行って。あなたの顔なんて見たくない。」
エルジィはそう言うと、シュティファニーから息子を守るように彼の小さな身体を抱き締めた。
「エルジィ、どうしてそんなにわたしを嫌うの? わたしはあなたに酷い事をした?」
「出て行ってって言ってるでしょう!」
エルジィの怒鳴り声に、フランツが目を開けて泣きだした。
「シュティファニーさん、お話があります。どうぞこちらへ。」
瑞姫はシュティファニーの腕を掴んで病室から出て廊下を歩いた。
「ちょっと、何するのよ! わたしはあんたじゃなくてエルジィに会いに来たのよ。」
シュティファニーからどんなに耳元から喚かれようと、瑞姫はそれを無視した。
「そこへお座りになって。」
瑞姫は病院内のカフェテリアの窓際の席へと向かうと、シュティファニーと向かい合わせに座った。
「話って何よ?」
「シュティファニーさん、何故今更になってエルジィに会いに来たのです? あなたと彼女はもう家族ではないでしょう?」
「何を言うの、エルジィはわたしが腹を痛めて産んだ、唯一の子どもなの! それを横から掠め盗るようにしてあの子を奪ったのは、あなたじゃない!」
シュティファニーはそう言って水が入ったグラスをテーブルに叩きつけた。
「シュティファニーさん、それは違います。エルジィはいつもあなたとルドルフ様との間で板挟みになって苦しんできました。あなたとルドルフ様が離婚なさった後、エルジィはわたしの事を母と認めてくださいました。それは何故だか、わかりますか?」
「何よ、あんたとわたしとでは、どう違うというの? 大体、あなたとエルジィとは血が繋がっていないじゃない!」
「血が繋がっていてもいなくても、母親が子を想い、子が母を想う気持ちは変わりません。エルジィはわたしの事を心から信頼してくれました。あの子の為にわたしはいつも自分を犠牲にしても構わないと思ってました。それが母親というものです。あなたは、一度でもそんな事を思いましたか?」
「思ってるわよ! でもあの子はわたしに心を開いてくれなかった!」
「あなたは、エルジィの為エルジィの為と言いながら、自分の事ばかり考えていなかったからじゃありませんか? だからあの時エルジィを無理矢理連れ帰ろうとした、違いますか?」
「違うわ、わたしはただあの子の為に・・」
「もういいです。これ以上あなたの言い訳は聞きたくありません。」
瑞姫はそう言って椅子から立ち上がると、冷たい目でシュティファニーを睨んだ。
「あなたはただ自分が可愛いだけ。母親としての役目を放棄したあなたがエルジィに拒絶される理由を良く考えて下さい。」
瑞姫はそう言うとシュティファニーの方を一度も振り返らずに、カフェテリアから出て行った。
エルジィの病室へと戻ると、そこには彼女の夫と姑の姿があった。
「皇妃様、お久しぶりです。」
ゾフィーはそう言うと、瑞姫に向かって頭を下げた。
「オットーさん、可愛いでしょう?」
「え、ええ・・」
オットーはフランツを抱きながら、妻を見た。
「エルジィ、これからはフランツと3人で暮らそう。」
「ええ、あなた。」
そんな息子と嫁の姿を、ゾフィーは苦虫を噛み潰したかのような顔をしていた。
彼女は本当に、初孫の誕生を喜んでいるのだろうか―瑞姫は、一抹の不安を感じていた。
にほんブログ村