セシェンと蓉が翌朝王宮に戻ると、そこには瑞姫と女官達が彼らの帰りを待っていた。
「お帰りなさい、蓉、セシェン。あなた達と話したいことがあるの。」
「わかったよ、母さん。」
瑞姫達と共に彼女の部屋に入った蓉とセシェンは、瑞姫と向かい合わせに座った。
「話ってなに?」
「アマーリエ王女との縁談だけど、白紙に戻すことにしたわ。」
「え・・」
蓉は瑞姫の言葉が信じられないといった表情を浮かべながら、彼女を見た。
「昨夜お父様と話をしたわ。わたしがお父様に蓉の事を許してやって欲しいと説得したのよ。そしたら、許してくださったわ。」
「そう。じゃぁ、父さんは俺とセシェンの事を知っているんだね。」
蓉の言葉に、瑞姫は静かに頷いた。
「蓉、セシェン。あなた達の人生はあなた達のものよ。結婚は人生の一大事だから、本人同士が納得すべきものであればわたしはいいと思っているの。不幸な結婚をして後悔させたくないからね。」
「ありがとう、母さん。」
蓉は瑞姫を抱き締めると、彼女はそっと息子の広い背中を撫でた。
「2人とも、幸せにね。」
「ありがとうございます、皇妃様。」
2人が部屋を出ると、蓉とセシェンは手を繋ぎながら廊下を歩いていた。
「あら、お兄様。」
麗をあやしながら、樹が2人の方へと歩いて来た。
「おはようございます、イツキ様。」
「おはよう、セシェン。お母様とお父様に認められて良かったわね。」
「え、ええ・・」
セシェンはそう言って樹から目を逸らした。
「蓉お兄様、また後でね。」
「ああ。」
樹が去った後、セシェンはほっと溜息を吐いた。
「どうしたんだ?」
「なんだか、イツキ様はわたしの事を快く思っていないようです。」
「気の所為だよ、そんな事。それよりも父さんにちゃんと報告・・」
蓉がそう言った瞬間、廊下の先で銃声と悲鳴が聞こえた。
「何だ、今の音は!?」
「父さん、行ってみよう!」
銃声を聞きつけた蓉とルドルフ、セシェンが銃声がした方へと駆けつけると、そこには血の海が広がっていた。
銃撃を受けた瑞姫付の女官が数名、胸を撃たれて大理石の床に転がっており、一目で彼らは死んでいると蓉は判った。
「ミズキ、何処に居る!?」
ルドルフが半狂乱になって瑞姫を探していると、窓際近くに血の海の中で蹲っている彼女の姿を見つけた。
「ミズキ、しっかりしろ!」
ルドルフが瑞姫を揺さ振ると、彼女は苦しそうに咳き込んだ。
「ルドルフ様・・」
「死ぬな、死ぬなミズキ!」
必死に妻を励ましているルドルフの傍らには、銃弾を浴びて息絶えている樹の姿があった。
「樹が・・わたし達の娘が、死んでしまった・・」
「大丈夫だ、お前は助かる。助かるから・・」
蓉とセシェンは、呆然とその光景を眺める事しか出来なかった。
凶弾に倒れた瑞姫は一命を取り留めたが、脊椎を激しく損傷し車椅子生活を余儀なくされた。
「ミズキ、わたしだ、わかるか?」
ルドルフが病室で目覚めた瑞姫の手をそっと握ると、彼女はゆっくりと目を開けてルドルフを見た。
「あなた、わたしもう歩けないの?」
瑞姫の言葉に、ルドルフは力無く頷いた。
「イツキの事は、残念だ。」
夫の言葉で、瑞姫は全てを悟った。
彼女は彼の胸に顔を埋めて嗚咽した。
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