「とにかく、わたしはリヒャルトとお前との結婚には反対だからな!」
「そうですか。どうぞあなた方はぎゃぁぎゃぁ騒いで居て下さい。わたしとリヒャルトの居ない所でね。」
「お前は親に向かって何て言葉を吐くんだ!」
「顔を合わせば一方的に自分が言いたい事を捲し立てる父上が、何をおっしゃいますか!」
セーラとアルフリートの口論が、一般病棟の廊下にまで連日響き、その度に患者達は何事かとVIP病室の方をちらちらと見ながらひそひそと囁き合っていた。
「セーラ様、陛下、もうその辺になさいませ。毎日顔を合わせれば喧嘩ばかりなさっては、セーラ様のストレスが溜まります。陛下、どうぞお引き取りを。」
「わかった・・」
アルフリートは不快そうに鼻を鳴らしながら病室から出て行くと、セーラは溜息を吐いた。
「全く、頭が痛い・・」
「お水をお飲みになってくださいませ。アルフリート陛下は一方的過ぎますわね。セーラ様の意見も聞かず、リヒャルトとの結婚を反対されるなど・・弟はセーラ様の結婚相手として相応しいですわ。一体何が気に入らないのでしょう?」
「さぁ・・長い間生き別れていて、実の両親と暮らし始めたのはほんの数年間だから、余り父上達が何を思っているのかが解らない。だが、親は常にこの幸せを優先しようと思うのは正しいかもしれないな。」
セーラは水を飲むと、ベッドに横たわった。
「セーラ様、退院後の予定ですが、カレル大学でチャリティファッションショーへのご出席はどうなさいますか?」
「勿論出席するに決まっているだろう。ヒールのある靴も履き慣れてきたし。」
「そうですか。英国時代には、貴婦人姿がさまになっておられたと未だに噂されておりますよ。」
「まぁ、あれも良い経験になったな。色々と苦労したが。」
「セーラ様を支持される国民は多いですわ。貴族階級のみならず、労働階級からもセーラ様を次期皇帝にと望む声がありますし。」
「ふぅん、そうなのか。それよりも、ミズキ皇太子妃様とルドルフ皇太子様は仲睦まじいご夫婦だな。わたしとリヒャエルも、ああなりたいが・・」
「ミズキ皇太子妃様はウィーン宮廷に入られてまだ日が浅く、色々と苦労されているそうですが、ルドルフ皇太子様がバッグアップなさっておられますからね。セーラ様と弟も、近い内にお二人のような仲睦まじい夫婦になれますわ。」
セーラは、レイチェルの言葉に笑顔を浮かべた。
数週間後、カレル大学で開催されたチャリティファッションショーで、モデルとして出席したセーラは、素肌に緋のドレスを纏いランウェイを颯爽と歩いた。
豊かなブロンドの髪を波打たせ、真珠色の肌に緋のドレスがよく映え、照明によって彼の全身は宝石のように美しく輝いた。
ファッションショーには、ファッション界の名士達や高級ブランドデザイナー達が出席しており、セーラの艶姿に彼らは酔いしれ、何も飾らず自分らしさを身に纏ったプリンスの姿に感銘を受けていた。
「セーラ様、素晴らしかったですよ。」
「ありがとう。」
ファッションショーが大盛況に終わった後、セーラは舞台裏で労いの言葉を掛けてくれた恋人に微笑んだ。
「最近体調の方はいかがですか? 怪我の事もありますし・・」
「大丈夫だ。久しぶりにハイヒールを履いて疲れてしまったがな。」
セーラはそう言ってハイヒールを脱ぐと、足首をマッサージしながら溜息を吐いた。
「余り無理をなさらないでくださいね。あなた1人のお身体ではないのですから。」
「ああ、解っている。全く、お前はいつも小言ばかり言うな。」
セーラはリヒャルトの小言にうんざりしながらも、彼と共に過ごせる時間が嬉しくて仕方がなかった。
両親への説得はまだ時間がかかるかもしれないが、セーラはリヒャルトと結婚して幸福な家庭を築きたかった。
かつて、横浜の孤児院で養父に愛情深く育てられ、幸福であった幼少時代のような、愛に満ちた生活をセーラはいつしか夢見ていた。
レイチェルの正体が明らかに。
ちょっとブラコン気味なレイチェル。
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