2011年5月、ブタペスト。
新緑薫る季節に、2組のカップルがマチャーシュー教会で結婚式を挙げようとしていた。
Aラインの純白のウェディングドレスを纏い、白いレースのヴェールで顔を覆った瑞姫オーストリア=ハプスブルク帝国皇太子妃と、白い軍服を纏ったルドルフ皇太子がゆっくりと祭壇へと向かう。
彼らの背後には、純白のマーメイドラインのドレスを纏ったローゼンシュルツ王国皇太子・セーラと、白いタキシードを長身に包んだリヒャルトは、幸せそうな笑顔を浮かべていた。
2組の幸せそうなカップルの結婚式が、粛々と行われた。
「まぁ、見てくださいな、あなた。セーラの幸せそうな顔・・」
アンジェリカはそう言って隣に座っている夫を見たが、彼は終始仏頂面だった。
「皇太子妃様、万歳!」
「オーストリア、万歳!」
「セーラ様、万歳!」
「ローゼンシュルツ、万歳!」
マチャーシュー教会から出た2組のカップルを乗せた白亜の馬車が教会を離れゲデレー城へと向かう凱旋パレードでは、オーストリア=ハプスブルク帝国民とブタペスト在住のローゼンシュルツ国民達が、それぞれの国旗を振りまわしながら歓声を上げた。
「皆さん、わたし達の結婚を祝福してくださっているようですね。」
「ああ。」
セーラはそう言うと、胸元を飾るダイヤとエメラルドのブローチにそっと触れた。
「ルドルフ様とミズキ様も、お幸せそうで何よりだ。」
自分達の前方を走る馬車に乗っているもう1組のカップルの笑顔を思い出しながら、セーラは愛しい夫の顔を見た。
「セーラ、リヒャルト、結婚おめでとう。」
2組のカップルの結婚披露宴にて、アンジェリカが嬉しそうに花嫁衣装に身を包んだセーラの元へと駆け寄った。
「そのティアラ、良く似合ってるわ。」
「ありがとう、母上。」
セーラの頭を飾るティアラは、ローゼンシュルツ王国の皇妃や皇女、皇太子妃から中世の頃まで代々受け継がれてきた名品だった。
繊細なカメオ細工が施され、周囲を真珠とエメラルドを鏤めたそれは、シャンデリアの下で美しい輝きを放っていた。
「セーラ様、リヒャルト様、ご結婚おめでとうございます。」
「ありがとうございます、ミズキ様。」
「リヒャルト様と、末永くお幸せに。」
「ありがとうございます、ミズキ様。」
セーラの元に、挨拶を終えた瑞姫とルドルフがやって来た。
「これから色々と大変でしょうけど、お二人ならどんな困難も乗り越えられると思うわ。」
「ありがとうございます。ただひとつ心残りなのは、今この場で養父に自分の花嫁姿を見せられないことです。」
5歳の頃からセーラを実子のように育てていた養父は、数年前に鬼籍に入ってしまっていた。
「きっと天国から、あなた方の幸せな姿を見守ってくださっていることでしょう。」
「ええ・・」
結婚式が行われた翌週末、ローゼンシュルツ王国皇帝夫妻と、セーラ皇太子とリヒャルトは、王室専用の豪華客船でナポリ港から出航し、母国へと帰っていった。
「あのお二人、幸せそうでしたわね。」
「ああ。」
ナポリ港から出航した豪華客船をオペラグラス越しに見た瑞姫とルドルフは、溜息を吐いた。
「ねぇあなた、またあのお二人といつか遠乗りや狩猟を楽しみたいわね。」
「そうだな。もう風が冷たくなったから、部屋に入ろうか。」
燦々と輝く太陽に背を向けた瑞姫達は、部屋の中へと消えていった。
セーラとリヒャルト、瑞姫とルドルフ様の結婚式を書いてみました。
次回が最終回です。
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