ルドルフとユリウスが馬車で事件現場へと向かうと、そこは沢山の野次馬でごった返していた。
「ルドルフ様、どうしてこちらに?」
現場を仕切っていた警官はルドルフに気づくと、敬礼した。
「目撃者は何処に居る?」
「あちらにおります。」
ルドルフはちらりと数人の警官に囲まれているみずぼらしい身なりをした男が立っていた。
「行くぞ、ユリウス。」
「はい。」
「し、司祭様、俺は何もしておりません!」
男は2人が近づいてくるのを見た途端、激しく狼狽した。
「遺体を発見したのはいつだ?」
「あ、あの・・俺は何も!」
「いつ発見したと聞いている? すぐに答えろ!」
ルドルフの剣幕に押されるかのように、男はぼそりとこう答えた。
「昨夜の、12時半過ぎです。店の者が居なくなる頃合いを計ってごみ捨て場に行ったら、男の死体が・・」
「周囲には妖しい人影はなかったか?」
「はい・・誰も居ませんでした。」
「そうか。」
ルドルフはそう言ってユリウスを見た。
「もう参りましょうか。」
「ああ。」
ルドルフは靴音を響かせながら事件現場を後にしようとした。
その時、1人の女性とぶつかった。
「失礼。」
「気をつけろ。」
ルドルフは女性を一瞥すると、馬車へと乗り込んだ。
「すっかりわたくしの事をお忘れになったのですね・・」
帽子のつば越しにルドルフを見つめた女性は、そう言って口端を歪めた。
「被害者は碌でなしの貴族か・・舌を抜かれて拷問された挙句に殺されたということは、何か話してはいけない事を知っていたという訳だな。」
「そういうことになりますね。ルドルフ様、これからどちらに?」
「それは着いてからのお楽しみだ。ここから歩くぞ。」
「え・・」
事件現場から少し離れたところで、ルドルフとユリウスは馬車から降り、近くのカフェへと入った。
「誰にも後をつけられていないだろうな?」
「ええ。ここは、カフェですね? 最近女官達がカフェ通いをしていらっしゃると噂しておりましたが・・まさか本当とは・・」
「別に驚く事はないだろう? わたしのカフェが通いは父上も知っている。口には出さないが。」
ルドルフはそう言って笑うと、コーヒーを飲んだ。
「ルドルフ皇太子、ご無沙汰しております。ご成人されたと聞いたから、いらっしゃらないかと・・」
突然1人の男がルドルフの前に現れると、笑顔を浮かべた。
「そんな事はしないさ。昨夜変な事件が起きたのでね、怖い物見たさに現場へ向かったら、遺体はもう運ばれた後でがっかりしたよ。」
「昨夜の事件といいますと、貴族の道楽息子が殺された事件ですね? あの男はいつか誰かに殺されると思いましたよ。悪さばかりしていたからねぇ。」
「ほう・・詳しく聞きたいな。」
ルドルフはそう言って、きらりと蒼い瞳を光らせた。
数時間後、ルドルフとユリウスはカフェから出て、被害者の遺族の元へと向かった。
「どうやら留守のようだな、出直すか。」
「ええ。それにしても被害者はアルテニー公爵様のご子息だったとは・・」
「父親が偉大すぎると息子はそれをプレッシャーに感じる。まぁ被害者はプレッシャーどころか、父親から勘当されたようだから好き放題していたんだろうな。」
わたしと違って、とルドルフはユリウスが聞こえないように呟くと、アルテニー公爵邸に背を向けて歩き出そうとした。
「あの、こちらに何かご用ですか?」
その時、中から様子を窺っていたメイドがルドルフに声をかけて来た。
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