妖狐族の皇子が放った言葉は、妖狐族たちに大きな衝撃を与えた。
「なんと・・今なんと申した?」
王は信じられぬといったような表情を浮かべながら、息子を見た。
「父上、少年を我が花嫁に迎えたいと思っております。」
「何故、そのようなことを・・我らと敵対しておる人間を花嫁に迎えるなど・・寝言も休み休み言え!」
王は息子にそう怒鳴ると、足音荒く祠から去っていった。
「本当にその少年を花嫁に迎えたいのか、コウよ?」
妖狐族の長老の1人がそう言ってコウを見た。
「わたくしは本気です。あの少年とわたくしが契れば、霊力の強い子が生まれましょう。人間によって絶滅の危機に瀕している我々妖狐族にとって、良い話ではありませぬか?」
コウはそこで言葉を切り、長老達を見た。
「コウがそう申すのであれば・・」
「いい策だと思うが・・」
「リンの生まれ変わりである少年ならば・・」
最初は反対していた長老達は、次々とコウの考えに賛同し始めた。
「コウよ、少年をすぐさまお前の花嫁に迎えることができるのか?」
「彼には七つ夜祭りの後に、答えを聞くことになっております。」
「七つ夜祭りの期間に、人間がサカキノ国に攻めてくると聞いたぞ。」
「何でも、その人間は我ら妖狐族の味方らしいとか・・」
「奴らに味方した方が、我らにとっては良いのではないか?」
「そうじゃのう・・」
ヒソヒソと囁きを交わす長老達を尻目に、コウはひとり、考えを巡らせていた。
「今ここで決めるには難しい事ですし、少年の答えを待つまでじっくりと考えましょう。」
コウの鶴の一声で、議会はお開きとなった。
「長老達が言っていた人間と言うのは、アルディン帝国の者か?」
「恐らく、そうであろうな。サカキノ国とアルディンは敵対関係にあるし、その上、皇女の結婚問題が浮上しておる。アルディンにとってこの国は一刻も早く滅ぼしたいのであろうよ。」
「少年からの返答を待つまでもない。アルディン側についた方が、我らの為になるのではないか?」
「それは祭りの後に考えた方が良い。急ぎ過ぎて選択を誤ると、碌なことにはならぬからな。」
コウはそう言って弟に背を向け、歩き出した。
その頃、タンダの村では、七つ夜祭りの準備が着々と進められ、国中の料理を出す屋台が村の広場に建てられ、村は祭りの前だと言うのに、既に賑わいを見せていた。
「今年はすごい人だねぇ、兄ちゃん。」
屋台で買った料理を頬張りながら、レイはそう言って兄を見たが、兄は浮かない顔をしていた。
毎年シンの胸を興奮で弾ませていた祭りだが、今年の祭りは彼の胸に暗い影を落としていた。
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