「母さん・・どうして・・」
今にも崩れ落ちそうな神殿の中で、シンは自害したカオルの遺体に取り縋り、涙が涸れるまで泣いた。
「レイは・・あいつは何処に?」
広場で別れた後、弟がどこへ行ったのかシンはわからなかった。
今自分が神殿でこうしている間にも、弟はアルディン帝国軍に捕まって殺されているかもしれない。
シンは母の手から懐剣を抜き取り、こびり付いた彼女の血を衣装の裾で拭った。
「母さん、俺レイを探しに行くよ。母さんがいなくなっても、レイと2人でやっていくから、安心して眠ってね。」
最愛の母に別れを告げ、シンは神殿の中から出た。
村へと向かう途中で、シンは1人の男とすれ違ったが、弟を探すことに必死だった彼は、すれ違った男のことは気にも留めなかった。
だが男は、村へと走ってゆくシンの背中をいつまでも見つめていた。
「あれが妖狐の末裔か・・」
男はそう呟くと、空を仰いだ。
「将軍、こちらにおられましたか!」
アルディン帝国軍の兵士が、そう叫んで男の方へと駆け寄ってきた。
「村長達は捕えたか?」
「はい、奴らは刑場にある地下牢に閉じ込めております。」
「そうか。村人はもう誰も残っておらんな?」
「ええ、ですが・・」
兵士は気まずそうな表情を浮かべながら男を見た。
「何かあったのか?」
「それが・・あの巫女の姿が見つからないのです。」
「わたしは神殿へと向かう。お前は村へ戻れ。」
「はっ!」
馬で男が神殿へと向かうと、かつての白亜の壮麗な建物は見る影もなく、今は半ば廃墟と化していた。
男が神殿の中へと入ると、そこは漆黒の闇が果てしなく広がっていた。
燭台の灯りを頼りに男が祭壇の奥へと進むと、彼は息絶えた巫女の遺体を発見した。
「自害したか・・」
男はそう呟くと、巫女の遺体を肩に担いで神殿を出た。
一方、村へと戻ったシンは、アルディン帝国軍によって破壊し尽くされた故郷を見て呆然と立ち尽くしていた。
(許さない・・母さんと故郷を奪ったアルディンの奴らを・・)
自分が舞を舞った村の広場は刑場へと姿を変え、処刑された人間の首が路傍に晒されていた。
その中に、ゴウの首があった。
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