「ねぇ、シン、確かあなたには弟がいたわよね?」
「ええ、おりますが、それがどうかなさいましたか?」
シンの言葉を聞いたカヤノは、そっと彼の耳元でこう囁いた。
「花街で最近色々と話題になっている男太夫がいてね。その太夫が、もしかしたらあなたがの弟じゃないかって・・」
カヤノの言葉を聞いたシンは激しい眩暈に襲われ、立っていられなくなった。
「ちょっと、大丈夫?」
「ええ、大丈夫です。ちょっと気分がすぐれなくて。」
「わたくしの所為ね。ごめんなさい。暫く部屋で休むといいわ。」
「そんな、気を遣っていただかなくても結構ですから。」
「いいえ、ここはわたくしの好意に甘えて頂戴。」
カヤノはそう言ってシンに微笑むと、ゆっくりと部屋から出て行った。
1人になったシンは、溜息を吐きながら皇女の寝所に身体を横たえて目を閉じた。
「カヤノ、シンはどうした?」
中庭で剣の稽古をしていたショウは、そう言って妹に振り向いた。
「シンならわたくしの部屋で休んでいるわ。」
「カヤノ、少しお前に話したい事がある。」
ショウはカヤノを少し人目のつかない場所へと連れていった。
「話ってなに、兄様?」
「シンの母親の事を、お前はどれだけ知っている?」
「突然何を言い出すの、兄様?カオル叔母様の事なら、国守の巫女だったという事しか知らないわ。それがどうかして?」
カヤノは少し狼狽えながらそう言うと、ショウを見た。
「カヤノ、シンは恐らく“彼女”の生まれ変わりだと思っている。」
「“彼女”って、あのリン様の?何の根拠があってそんな事をおっしゃるの?」
「シンは紅玉の首飾りを持っていた。かつてアルディン帝国郡によって掠奪され、行方不明になっていたものをだ。恐らくリンがシンにどこかで渡したのかもしれない。」
「兄様、もしシンがリン様の生まれ変わりだとしたら、シンはアルディンの奴らに命を狙われてしまうかもしれないわ!」
「その可能性は充分にある。カヤノ、お前は近々リシャムに嫁ぐのだろう?」
「え、ええ。皇族だから敵国へと告ぐのは仕方ないことだと思っているけど、わたくしは結婚などしたくないわ。」
カヤノはそう言って深い溜息を吐いた。
「さっき父上と話したんだが、お前の代わりにシンを皇女としてアルディンに嫁がせようと思う。」
「本気なの、兄様?」
「ああ。父上も賛成してくださっている。」
その晩、カヤノはシンに自分の身代わりとしてアルディンに嫁いで貰うことを話した。
「あなたが嫌だったら、いいのよ。」
「俺は母と故郷の者達の仇を討ちたいんです。」
そう言ったシンの瞳には、復讐の炎が宿っていた。
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