「アレク様、入ってもよろしいでしょうか?」
舞踏会が終わり、ユリノことシンはそう言ってアレクの部屋のドアをノックした。
「どうぞ。」
ドアの向こうから夫の優しい声がして、シンは部屋に入った。
そこには天蓋付きのベッドに横たわっている夫の姿があった。
「舞踏会は、楽しかった?」
「ええ。けれども、あなたが隣にいらっしゃらないと寂しいですわ。怪我の具合はどうですの?」
シンはゆっくりとアレクの枕元に立ち、彼の手をそっと握った。
「大丈夫だよ。それよりもユリノ、少し顔色が悪いね。」
「少し風邪気味で・・休めばすぐによくなりますわ。」
「そうか。おやすみ。」
「おやすみなさい、あなた。」
アレクの部屋を出て自分の部屋へと向かったシンは、突然下腹部に鈍痛が走り、顔を顰(しか)めて蹲った。
「ユリノ様、どうかなさいましたか?」
「ちょっとお腹が痛くて・・」
カオルに着替えを手伝って貰っている時、下腹部の鈍痛の原因がわかった。
コルセットの下に穿いていた下着が、血に染まっていたのである。
「これ・・もしかして・・」
亡き母から一通り男女の身体の仕組みや妊娠・出産の事などを教えて貰っていたシンだったが、本来女だけに起こる現象が男の自分にも起こる不可解な出来事に、シンは首を傾げていた。
「おめでとうございます、ユリノ様。」
カオルの方を見ると、彼女はにこにこと笑いながら自分を見ていた。
「ありがとう。」
予期せぬ出来事に頭が混乱しながらも、シンはその夜床に就いた。
同じ頃、シンの身に起こった出来事がエリスの身にも起こっていた。
「う・・」
突然下腹部を襲った鈍痛に、エリスは顔を顰めた。
「どうした、大丈夫か?」
「ああ、ちょっと腹が・・」
そう言ってベッドから出ようとした時、シーツが血で染まっている事にエリスは気づき、頬を赤く染めた。
「どへ行く?」
「シーツを、洗いに・・」
「お前、もしかして・・」
セシャンはそう言って恥ずかしそうに俯いているエリスを見た。
「大丈夫だ、怖がることではない。」
「どうしてわたしが?男なのに・・」
「これでお前が俺の子どもを産める事が証明された訳だから、そんなに暗い顔をせずに喜べ。」
セシャンはエリスを励ますかのように、ぽんと彼の肩を叩いた。
エリスの養父であるナサニエルが独身寮にやって来たのは、その翌朝のことだった。
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